「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン
2023/04/25公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(89点)
要約と感想レビュー
ナッジとは
人間の判断には、必ず思い込みや錯覚やバイアスが入っています。そうした認知バイアスをうまく活用して、良い方向に人々を導こうというのが「ナッジ」です。例えば、食堂のメニューにカロリーが記載されているのは健康のナッジだし、便器に描かれた黒いハエの絵は清掃のナッジなのです。Googleカレンダーのリマインダーも忘れないためのナッジだし、ガソリンスタンドの燃料で給油ノズルの色が違うのもナッジなのです。
自分で体重をへらすために冷蔵庫のなかに入れる食品の量を減らすのも健康ナッジだし、使いたくないお金を定期預金に入れるのもお金のセルフナッジというわけです。この本では、喘息の治療で間違った薬が投与されるという医療ミスに対して、薬のチューブのコネクターを薬ごとに変えることで、物理的に間違った薬を投与できないようにしたナッジが紹介されています。ナッジは、人の命を救い、社会をよくするのです。
・公立学校給食サービス・・目線の高さにフライドポテトを置いたが、別の学校ではニンジンスティックを置いた(p21)
選択で間違いやすいこと
この本で面白いと思ったのは、選択を間違えやすい人間の特性を説明しようとして、選択についての面白いトピックをたくさん紹介してくれるところです。
例えば、自家用車を買うか、買わないかという選択があります。トータルで考えると車を買わずにタクシーやカーシェアサービスを使うほうが安い場合が多いのです。ところが人は、車を買うときの大金をもう支払ってしまったこととして忘れて、考えに入れない人が多いのだという。一度、車を買ってしまえば、車の購入費は埋没コストなので考慮する必要はありませんが、新しく車を買い替えるかどうかではトータルのコストで考えるべきなのです。
別の例では、アパートを選ぶときにどうすればよいのか、という問いに対しては「属性値による排除」という方法を示しています。つまり、家賃、駅からの距離、犬を飼えるかどうかなどといった属性で、選択肢を絞っていくのです。選択肢が少なくなったらすべてのデータをならべて比較すればよいのです。これは購買のプロセスと同じだなと思いました。
最後に「保険」の選択で間違う人が多いのですが、保険とは自分が耐えられない損害に備えるものであり、貯蓄で対応できる小さな損害に備えてはいけないと指摘しています。例えば、日本では高額医療費制度があるので、ある程度貯蓄があれば医療保険は不要とも言えるのです。この本では、免責金額はいちばん大きい金額を選ぶことを推奨しています。小さい被害に保険をかけてはいけないのです。
こうした説明を聞いているうちに、この大学の先生の授業は面白いんだろうな、と思いました。
・「保険」についての考え方・・「小さいことに保険をかけるな」(p319)
スラッジとは
ナッジを悪用することで儲けようとする人も多いし、効率を低下させてしまうナッジも官僚組織を中心に存在します。この本では、このような悪いナッジを「スラッジ」と命名しています。1ヶ月無料の定期購読を申し込んでみたら、解約するために店舗に直接行って、文書を出さなければならないとか、ホームページの隅に小さな字で書いてあるという具合です。
役所では、お金を使った証拠を細かく文書で提出させるため、本来、その事業にかけるべき労力を、経費精算書類作成にばかり時間がかけていると聞いたことがあります。これもスラッジなのでしょう。ナッジを増やして、スラッジを減らすことで社会が良くなっていくイメージが浮かびあがってきました。セイラーさん、サンスティーンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・タクシー内でクレジットカード・・チップが増えたのだ!・・チップの選択肢が画面に表示される「15%、20%、25%、ご希望の金額を入力する」(p57)
・効果がいちばん高かったのは次の手紙である。「・・・まだ納税していないのはごく少数であり、あなたはいまのところそのなかの1人です」(p131)
・選択のプロセスに摩擦や障害を加える・・定期購読を解約する手続きをむずかしくする・・経口避妊薬を手に入れるのをむずかしくする(p217)
・イスラエル・・臓器移植の待機者のうち少なくとも3年前に臓器ドナー登録をしていた人に優先権を与える・・死亡時に臓器を提供した第1度近親者がいる待機者は優先順位をさらに上げる(p362)
▼引用は、この本からです
リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン、日経BP
【私の評価】★★★★☆(89点)
目次
第1部 ホモ・エコノミクスとホモ・サピエンス 「なぜナッジは必要か?」
第2部 選択アーキテクト(選択設計)のツール ―それぞれの「よりよい選択」を実現する方法
第3部 お金のこと
第4部 社会を見渡す
第5部 「ナッジの苦情、受け付けます」―「ナッジの問題点」について考える
著者経歴
リチャード・セイラー(Richard H, Thaler)・・・米シカゴ大学経営大学院教授。1945年米ニュージャージー州生まれ。74 年米ロチェスター大学で経済学の博士号取得(Ph.D)。米コーネル大学、米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院などを経て95年から現職。行動経済学の研究で、2017 年にノーベル経済学賞を受賞した。
キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)・・・ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81 年よりシカゴ大学ロースクール教授を務め、2008 年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18 年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。
行動経済学関連書籍
「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン
「今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」」佐藤 耕紀
「9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる 「得する人・損する人」 」橋本之克
「経済は感情で動く―はじめての行動経済学」マッテオ モッテルリーニ
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