「データで見る行動経済学 全世界大規模調査で見えてきた「ナッジの真実」」キャス・サンスティーン
2023/04/17公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
「ナッジ」とは?
「ナッジ」とは、タバコに健康に害を与えると記載して、タバコを吸う人を減らしたり、免許証に脳死状態になった場合「臓器提供の意思あり」をデフォルトにすることによって、臓器提供する人を増やしたりすることです。コンビニで床に足のシールを貼って並んでもらうのもナッジだし、便器にハエの絵を描いて狙いをつけてもらうのもナッジなのです。
強制力がなくとも、人を誘導することは可能です。手品師はコールドリーディングという手法で、人の心を読んで人を思い通りに誘導することができるし、商売でも心理学やマーケってィングの技術を使って、商品を買わせようとするのと似ています。
この本はナッジについて、どこまでのナッジが許容されるのか分析した内容となっています。著者はオバマ政権時の行政管理予算局室長として政策にナッジを活用したことがあり、規制当局がどういった規制をするべきなのか、どんなナッジなら許容されるのかという問題意識を持っているのです。ちなみにハーバード大学教授の著者は、『実践行動経済学』というナッジ本を書いてノーベル経済学賞を受賞しています。
・脳死状態になった場合の臓器提供の意思表示も、「臓器提供の意思なし」が日本でのデフォルト・・フランスやオーストラリアでは「臓器提供の意思あり」がデフォルト(p6)
ナッジは費用対効果が高くなければならない
この本で面白いのは、「グリーンエネルギー使用をデフォルトとするナッジ」に欧米では8割の人が賛成しているにもかかわらず、著者は費用便益が本当にプラスだろうか?と慎重な姿勢を示していることです。つまり、グリーンエネルギーは大気汚染を減らすかもしれないが、コストも高いので、環境のプラス分がコスト増よりも本当に大きいのか疑問を呈しているのです。これは規制当局がどういった規制をするか考えるときに、費用便益(費用対効果)がプラスになるのかどうか明確でなければならないという警鐘なのでしょう。
日本では再生可能エネルギー買取制度で高いコストを不安定電源である太陽光・風力に投資していますが、費用対効果はプラスとなるのでしょうか。子宮頸がんワクチンは、やっと公費で定期接種することになりましたが、それまで年1万人以上の女性が子宮頸がんになり、毎年3000人以上が死亡してきました。ワクチンの副作用は、年間3000人死亡より大きかったのでしょうか。
こうしたデータに基づくプラスとマイナスを事実に基づいて冷静な考え、判断することを著者は求めているのです。
・ナッジは有効で費用便益が高くなければいけない(p264)
ナッジを許容する国、しない国
ナッジを許容する国としてアングロサクソン系の欧米諸国、ナッジを許容しない人が多い国として、デンマーク、ハンガリー、日本を紹介しています。許容しない理由について著者は、「政府への信頼が低いという説明のほうが自然である」と推定しています。私は、推定がかなり乱暴ではないかと感じました。
日本に限定して考えれば、子宮頸がんワクチンの副反応を過大に恐れたり、高コストの再エネを導入してきたことを今頃になって問題視するなど、日本人にはデータに基づく冷静な判断ができない国民性を 持っているように感じるのです。そうしたデータに基づく判断をしない行政や自分自身に不信感を持っているというのであれば、政府への信頼が低いという推定も、一部合っているということなのでしょうか。
ナッジとは強制ではないけれど、強制に近い効果を発揮するテクニックですので、もっと適切に活用できるよう研究すべきことだと思いました。サンスティーンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・海外ではこのような私的年金制度への加入をデフォルト、すなわち自動加入にしている国がある。イギリスとニュージーランドがその例だ(p7)
・術後1ヶ月の生存率は90%です・・約80%の人が手術をすると答えた・・術後1ヶ月の死亡率は10%です・・約50%の人しか手術をすると答えなかった(p5)
・中国は多くのナッジで最も高い賛成率を示した・・たとえ匿名性が保証されていたとしても、定時された政策への支持を表明することに、回答者が何らかの圧力を感じていた可能性も考えられる(p143)
▼引用は、この本からです
キャス・サンスティーン , ルチア・ライシュ 、日経BP
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
解説 ナッジが備えるべき条件
第1章 ナッジ導入における「世論」の重要性
第2章 アメリカ1 調査結果のまとめ
第3章 アメリカ2 調査から明らかになったナッジへの反応
第4章 ヨーロッパでの調査結果とナッジへの評価
第5章 ナッジに対する世界的な評価は定まっているのか?
第6章 ナッジの真実
第7章 教育的ナッジと非教育的ナッジ―主体性からナッジを見る
第8章 ナッジについての7つの誤解
第9章 あらゆるナッジに適用されるべきわれわれの権利とは?
著者経歴
キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)・・・ハーバード大学教授。リチャード・セイラー教授との共著『実践行動経済学』の出版によってノーベル経済学賞を受賞した。ナッジの提唱者として知られる。オバマ政権では行政管理予算局情報・規制問題室(OIRA)室長として2009年から2012年まで働き、アメリカの政策にナッジを活用した。
ルチア・ライシュ(Lucia A. Reisch)・・・コペンハーゲン・ビジネススクール教授。専門は行動経済学。消費者政策と健康政策に関わる行動経済学的研究で非常に多くの実績をあげ、ドイツの政策に様々なアドバイスをしている。
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