「今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」」佐藤 耕紀
2023/03/27公開 更新本のソムリエ [PR]
Tweet
【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
「意思決定」というよりは、錯覚しやすい人間の脳の仕組みを、心理学の用語とともに教えてくれる一冊です。世の中は錯覚に満ちています。例えば目から入ってくる情報は脳が解釈して、補完しています。この本では錯視の図で、補完の不思議を体験させてくれます。
同じようにかき氷のシロップは、色と香りがちがうだけで味は同じという衝撃的な事実も、脳の錯覚によるものなのです。高身長の人がリーダーになる確率が高いことや、ワインが色で味がちがうように感じるのも思い込みによる思い込み、バイアスなのです。
・白ワインに赤いワインのような色をつけると・・・味も赤ワインのように感じる(p34)
面白いのは、意思決定に人間の心の特性が大きな影響を与えていることです。例えば、人は利得よりも損失を大きく感じます。これは人類が生き残るために必要な特性であったのでしょう。しかし、平和な世の中では悪い面ばかりが気になって、新しい一歩を踏み出せないというデメリットもあるのです。
そして損失が大きければ、大きいほど過去の損失は変えることができないのに、それを取り戻そうとする心理が働きます。プーチンがウクライナ侵攻を諦めないのは、ロシア軍の損失(サンク・コスト)が大きいからとも考えられるのです。
そしてプーチンは、「目的を達成したい願望」と「達成できない現実」との矛盾に苦しんでいるはずです。プーチンがどういった意思決定をするか考えてみれば、これまでの発言を守ろうとする一貫性のために「しゃにむに達成しようとする」か、「面目の立つ言い訳をして合理化・正当化する」かのいずれかと考えられるのです。
・「暴力」「パワハラ」「セクハラ」といった問題の背景には、闘争し、地位を上げ、繁殖するという動物的な本能がある(p49)
錯覚ではないのですが、正しくデータを把握しないことによる錯誤もあるようです。例えば、成功した企業や個人の伝記ばかり読んでいると、何事もリスクを取って挑戦しないと成功できないと感じてしまいます。ところが、著者によるとハイリスク戦略ほど、平均の業績はやや低くなるというのです。これは失敗した企業や個人の記録は残らないために、生き残った会社や個人だけを見ていると、あたかもハイリスクな戦略ほど、業績がよいように見えてしまうからだというのです。
これは投資ファンドも過去のリターンが良いものが、未来も良いと勘違いしてしまうのと同じなのでしょう。たまたま成功したのか、そのリターンはリスクに見合うのか、よくよく考えたいものです。心理学の復習になりました。佐藤さん、良い本をありがとうございました。
無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・繁殖戦略としては、オスは量を求め、メスは質を求める(p53)
・占い・・・当たらなかったときは忘れてしまい、当たったときは「奇異効果」で記憶に残ります(p161)
・自殺が報道されると、多くの「後追い自殺」「模倣自殺」が発生します・・同調は、犯罪でも起こります(p109)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
第1章 ようこそ「意思決定」の世界へ 「知覚」のしくみを体感する
第2章 「神」と動物のはざまで 「行動経済学」と「進化心理学」
第3章 動物の本能に根ざす「思考の錯覚」「認知バイアス」
第4章 正確さより、スピードを優先する「ヒューリスティック」
第5章 比較に惑わされる「対比効果」
第6章 「想起」「連想」「記憶」の錯覚
第7章 「計算」「確率」「統計」の錯覚
第8章 費用対効果で考える「意思決定の実際」
第9章 波及効果を考えよう「システム思考」
第10章 これからの時代の「意思決定のヒント」
著者経歴
佐藤 耕紀(さとう こうき)・・・防衛大学校公共政策学科准教授。1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で、約25年にわたり教鞭をとる。経営学に興味がない学生を相手に、わかりやすく伝える授業にこだわっている。仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。
行動経済学関連書籍
「NUDGE 実践 行動経済学 完全版」リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン
「今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「意思決定」」佐藤 耕紀
「9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる 「得する人・損する人」 」橋本之克
「経済は感情で動く―はじめての行動経済学」マッテオ モッテルリーニ
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
この記事が気に入ったらいいね!
コメントする