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三国同盟に反対した男がいた「米内光政 改版」阿川弘之

2020/10/02公開 更新
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「米内光政 改版」阿川弘之


【私の評価】★★★★☆(88点)


要約と感想レビュー

日独伊三国同盟には反対

海軍出身の総理大臣として太平洋戦争に反対し,太平洋戦争を終わらせるために最後の海軍大臣となった米内光政を通して太平洋戦争前後の日本の風景を学びます。米内光正は岩手県盛岡生まれ。ロシア,ドイツ,ポーランド駐在を経験し,第三艦隊司令長官,横須賀鎮守府司令長官,連合艦隊司令長官を歴任しています。


留学を通して国際情勢を把握していた米内は,日本がドイツ・イタリアと同盟し,英米と対決するようでは敗戦必至と考え,日独伊三国同盟には反対していました。当時米内は,英米敵視・三国同盟を推進する陸軍と関係のある右翼が面会を求めてきたり,暗殺をほのめかす脅しや,新聞,雑誌からも批判される中で反対を続けたのです。 


日独伊三国同盟問題・・・これの処理にあたって、米内山本井上の海軍上層部はいくら脅迫されても絶対にイエスを言わず、黒潮会の新聞記者たちから、一種驚嘆の念を以て「海軍左派」と呼ばれるようになる(p246)

無知な陸軍弱い海軍

ドイツが欧州で戦争を始めると日独伊三国同盟推進の世論が高まり,天皇陛下は良識派と考えられる米内を総理大臣に指名します。しかし,「中央公論」「改造」「文藝春秋」などの雑誌、マスコミは「英米の日本イジメに敢然(かんぜん)と挑戦せよ」「対英媚態を排す」などと反英米キャンペーンと「米内内閣批判」を行います。


そして、「無知な陸軍弱い海軍」という言葉のとおり陸軍は米内内閣に後継陸相を出さず、たった半年で米内内閣は総辞職に追い込まれてしまうのです。その後,米内が政治的に不在の間に,日独伊三国同盟が締結され,太平洋戦争に日本は突入するのです。


海軍の井上成美大将は、ヒトラーの「我が闘争」を読んで、ヒトラーはドイツ民族絶対至上論者であって、日本人のことを想像力のない劣った民族、しかし小器用で自分らの手足として使うには便利な国民だと書いてあると主張していました。「俺も本屋で買って読んでみたけど、そんなこと書いてなかったぞ」と言っていた軍令部(陸軍)の少佐が「井上さんは日本語版で読んでいるんじゃないよ」と笑われたという。


仮に陸軍が同じ情報を持っていても,現実をどう判断し,どういう方向に向かうのか分かっていたのかどうか今となっては分かりません。しかし、組織によってこれほど状況認識が変わってしまうという事実が恐ろしくもあり、悲しくなりました。


井上成美が「思い出の記」の中に、「『油はこんなにございます』が嶋田海相、『油はこれだけしかございません』が米内海相」と書いている(p460)

ドイツかぶれ白鳥・大島・杉田・松谷

ユダヤ人を排斥し隣国に侵攻するヒトラーと軍事同盟を締結した日本は,必然的に英米と戦うことになりました。日独伊の三国同盟では、イタリア大使白鳥敏夫とドイツ大使大島浩(陸軍中将)が策動していたという。陸軍の杉田一次少佐(参謀本部欧米課)、松谷誠少佐(軍務局軍事課)もドイツにかぶれとして有名であり、ナチスの悪口言ってると命が危いくらいであったというのです。


近隣の国を併合し、ユダヤ人排斥、思想統制、経済統制を強化するドイツは、英国海軍を手本とした日本海軍から見るとついて行けないと考える者が多かったという。日本陸軍はドイツの真似がしたいのに、日本海軍は、世界観がちがいすぎて、とてもついて行けないというわけです。


そして現代社会において,少数民族を排斥し,隣国を侵攻しようとしている習近平を国賓として迎える日本が戦前の日本と重なって見えました。現代社会でも中国に注射されている人がいるということなのでしょう。阿川さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・平田晋策の「われらもし戦はば」とか、池崎忠孝の「宿命の日米戦争」とか、勇壮な太平洋のいくさの未来記が町の本屋にたくさん並んでブームを呼んでいた(p107)


・概して言えば外務省の革新官僚(例えば白鳥敏夫)にしろ海軍の強硬派軍人(例えば加藤寛治)にしろ、彼らは熱血漢で、人間的に人を惹きつける魅力を多分に持っていたと言われている(p181)


・三国同盟調印・・・米内がよく秘書官連中に、「ヒトラーやムッソリーニは一代身上だ。つぶれたところで元々で、どうということは無い。日本の皇室はちがう。それとこれと手を結ばせようなんて、とんでもない話だよ」と言っていた(p356)


・「日本には不敬罪がいくつも」あって・・・「一、皇室、二、東條、三、軍部、四、徳富蘇峰・・・これらについては、一切の批判は許されない(p424)


・米内はいつも信を相手の腹中に措いて、策も無ければ術も無く、そのため煮え湯を呑まされた経験が度々あったという。大勢の前とか、信頼出来ぬ人の前では絶対しゃべらないという不器用な方法を身につけた(p131)


▼引用は、この本からです
「米内光政 改版」阿川弘之
阿川弘之 、新潮社


【私の評価】★★★★☆(88点)


目次

こぼれ話の始まる話
青春の旅立ち
なぜ負けた
カールビンソン
仰ぐ誉れの軍艦旗
サセコイ
へんな英語
ヘル談哀話
まあうれしい
艦長自ら操艦しつつあり
人殺し
軍人勅諭
よく学びよく遊び
町人服
大蔵省は海軍省
泥水すすり草をかみ
気ヲツケラレマス
人のいやがる軍隊に
六ツかしござる
ドナウ河の水深
靴磨き海軍
見て地獄
次元が低い
逆ごよみ
ミッドウェー
われらが知性
乱数表
腐れ士官の捨てどころ
坊さんパイロット
海軍馬鹿
ネルソンと東郷
親英派と親独派
罐焚き
侯爵の植木屋
文壇海軍見立て
航空母艦の幽霊
公用特急券
少将の墓
海軍士官とフランス語
狸の親ごころ
ロイヤル・サルー卜
オモチャの造船所
海軍糞尿譚
満艦飾
遺骨還送
女たちの大東亜戦争
ラッタルはかけあし
考課表
日付変更線
こぼれ話の終る話
日本海軍の伝統と気風



著者経歴

阿川 弘之(あがわ ひろゆき)・・・1920年-2015年。日本の小説家、評論家。広島県名誉県民。日本芸術院会員。日本李登輝友の会名誉会長。文化勲章受章。


日本帝国軍人関係書籍

「米内光政 改版」阿川弘之
「アッツ島とキスカ島の戦い―人道の将、樋口季一郎と木村昌福」将口 泰浩
「不敗の名将 今村均の生き方 -組織に負けない人生を学ぶ-」日下公人


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