「井上成美」阿川 弘之

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井上成美 (新潮文庫)

【私の評価】★★★★★(91点)


■仙台出身の海軍大将で
 井上成美(いのうえしげよし)という
 人がいると聞いて手にした一冊です。


 井上成美という軍人は、
 人格ではなくロジックで
 仕事を考える人であったようです。


 そのため海軍内でも
 その人間性のなさに閉口した人が多く
 非常に嫌われていたらしい。


・井上の方は、人にすきを見せるとか、
 ちょっと間の抜けたところがあって
 面白いとか、そういうことは一切無い。
 酔余の醜態も嫌いで、不可と考えたものは
 絶対に不可である。
 「水清ければ魚棲まず」と人に言われて、
 「水清ければ毒魚棲まず」と
 言い返したことがあった(p195)


■真珠湾攻撃の1年前、
 航空本部長であった井上少将は
 戦艦ではなく航空機、潜水艦を
 増強する意見書を書いています。


 意見書の中で井上は、米国と戦った場合
 持久戦に持ち込まれ、石油と鉄を断たれ、
 日本全土が占領されるだろうと想定。


 しかし、直属上司である及川海軍大臣は
 その意見書を放置。さらには、
 三国同盟締結に妥協してしまうのです。


・三国同盟を呑んだ海軍側の最高責任者は、
 大臣の及川大将です・・・
 及川大将は温厚篤実の君子だけれども、
 明晰な判断力が無い・・
 ロジックが無いんです(p291)


■井上は兵学校校長として、
 言葉にはしないものの日本敗戦後の
 人材を育成するため、軍の求める即席の
 兵士育成教育を拒否したという。


 最後には米内海軍大臣に請われて
 海軍次官となり
 徹底抗戦を主張する陸軍を抑え、
 いかに停戦させるか工作したという。


 これだけ見識のある日本人が
 いたのかと感嘆するとともに、
 そうした人を多くの軍人が嫌うのも
 日本的だなともがっかりもしました。


 阿川さん、
 良い本をありがとうございました。


───────────────


■この本で私が共感したところは次のとおりです。


・旧海軍省職員の斡旋による上層部責任者たちの
 特別座談会・・・井上は・・
 海軍が陸軍に追随した時の政策は
 ことごとく失敗であった。二・二六事件を
 起す陸軍と仲よくするのは強盗と
 手を握るに等しい。同盟締結にしても、
 もう少ししっかりしてもらいたかった。
 陸軍が脱線するかぎり、
 国を救うものは海軍より他にない(p77)


・先輩の提督たちをそこまで厳しく
 区別される基準は何ですかと、
 戦後人に言われて、「識見の有無です」
 と井上は答えた。「昔の大将には、
 将に将たる器としてふさわしい、
 それ相応の識見を持った者が任ぜられた。
 それが近年、人格で大将になる者が
 出て来た(p204)


・最重要物資の石油と鉄鋼原料を、
 アメリカから購入していた。
 もしドイツと軍事的に手を結べば、
 当然の帰結としてイギリスを敵に廻し、
 ひいで同根のアメリカを敵に廻すことになる。
 これは、日本が石油と鉄を
 断たれることを意味する。
 鉄と石油を断たれて近代装備の軍隊を
 維持出来るわけが無く・・(p225)


・井上の読むものは横文字が多かった。
 思索第一主義で、「考えろ。頭を使え。
 アングルを変えて物事を考察する力を養え」
 と、若い幕僚たちへ口癖のように言った(p258)


・近衛という人は常に他力本願で、
 海軍に一言やれないと言わせれば
 自分は楽だという考え方なんです。
 それに、山本さんとしては、連合艦隊
 の司令長官が対米戦争をやったら
 日本の負けと考えていることを、
 部下に知られると困る・・・
 察するけれど、それを押して、
 艦隊将兵四万への気兼ねも捨てて、
 敢えてはっきり言うべきでした(p289)


・躾教育の要点は、スリッパの脱ぎ方とか
 扉のしめ方とか、ごく些細なことを
 見逃さないろことに在る。
 大ざっぱな人から言わせれば
 『そんなことは天下の形勢に関係無い』
 というような事柄が大切なのだ(p460)


・井上は「諸君」と語りかけたのである。
 「教育の目標は人を造るに在り、
 諸君は知識の切売り、技術の伝承のみに
 終始してはならない」(p513)


・離任に際し井上は、教官一同に、
 「大過無く職責を果すを得てというような
 言い方を、私はしたくない。過去1年9ヶ月間、
 兵学校長として私のやって来たことが、
 良かったか悪かったかは、後世歴史が
 審判するだろう」と述べた(p537)


・新しい憲法について74期生の妹尾作太郎に、
 「憲法の為に国民があるんじゃない。
 国民の為に憲法だからな」と語った(p637)


・日本海軍の本質については、
 「根無し草のインターナショナリズム。
 陸軍が、あれも俺の権限、これも俺の領分と、
 強欲で傍若無人だったのに対し、海軍は、
 あれも自分の責任外、これも自分の管轄外と、
 常に責任を取るのを回避した」と語った(p667)


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