「日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年」井上 久男
2020/06/04公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
ゴーンの日産私物化
日産が6700億円の赤字を計上したというニュースを聞いて手にした一冊です。昨年12月には日産生え抜きの関潤COO(副最高執行責任者)が1ヶ月で退任し、日本電産の社長となっています。日産は大丈夫なのでしょうか。
日産の業績は1999年から2005年まではゴーン改革で良かったのですが、すでに2003年頃からゴーンの日産私物化が進んでいたようです。妻のレストランの経費を日産に付け替えたり、ブラジルの姉に日産から実体のない顧問料を支払っています。
ゴーンの妻が東京・代官山でやっていたレバノン料理店では、日産自動車名義のクレジットカードで仕入れ代金を払っていたので、秘書室長がゴーンに『こんなことは困ります」と伝えると、その秘書室長は小さな関連企業に左遷されてしまったという。
ゴーンはブラジルに住む姉に、実体のない「不動産取引アドバイザー」の肩書を与え、2003年から2016年までの間に75万5000ドル(約8200万円)の顧問料を支払っていた。また、私用で使うリオデジャネイロの高級ヨットクラブの会費も、日産から支払わせていた(p59)
ゴーン個人の損失18億円を日産に付け替え
さらに、2008年にはゴーン個人の金融取引の損失18億円を取締役会で承認を受けたうえで、日産に付け替えています。その後、新生銀行への監督官庁の検査で不適切な処理とされ、元に戻されています。
2010年には金融子会社「ジーア社」をオランダに設立し、日本、オランダのゴーン氏用の社宅以外にブラジル、パリ、ベイルートの邸宅を日産の費用で購入・改築しています。2005年頃から日産の業績は黒字ながら減益が続いており、コスト削減と関連企業から利益を搾り取るリストラ疲れの中で、こうした私物化が継続されていたのです。
ゴーン側近であるケリー氏が2010年10月、ジーア社に関して「アブダビに口座を作り、そこからゴーンに支払う」などとする社内メールを送信していることから、ゴーンに「裏報酬」を払う目的の会社として設立されたと推察されるのです。
2008年10月、ゴーンが個人的に保有する金融商品が約18億5000万円もの評価損を抱えてしまった・・・新生銀行は・・・ゴーンに追加担保を要求した・・・損失を丸ごと日産に移してしまおう・・後日、日産の法務部長らが「取締役会での承認を得た」として新生銀行を訪問し、付け替えを求めた。新生銀行側はそれを受け入れ・・・ところが、2008年11月、証券取引等監視委員会が新生銀行に検査に入り・・・日産の取締役会での決議は偽装された疑いがあると判断し、付け替えは会社法違反に当たる恐れがあると指摘した(p50)
日産には常に天皇がいる
歴史的に日産には「天皇」とか「独裁者」と呼ばれる権力者が存在し、社内抗争でその天皇が交代していくということが繰り返されてきたという。そうした体質がゴーン氏の会社の私物化を許したと思われます。社内での派閥争いや、部門間での責任の擦り付け合いが日常化していることも、ゴーンの私物化を可能としたのでしょう。
2008年の不適切事例が2018年に表面化する日産の取締役、部長クラスの情報統制はすごいと思いました。仮にゴーン氏が日産とルノーの経営統合に前向きな態度を取らなければ、ゴーン体制は継続していた可能性があったのですから。井上さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・580万ドル(約6億3000万円)で購入したリオデジャネイロの高級マンション・・・パリにあるゴーンの邸宅(購入価格410万ドル=約4億5000万円、改築費500万ドル=約5億5000万円)・・・950万ドル(10億4000万円)で購入後、改築費720万ドル(約7億8000万円)を支払ったベイルートの邸宅(戸建て)・・・日産はゴーンに対して、都内に家賃月額136万円、オランダに同8000ドル(約87万円)の高級社宅を用意している。ゴーンは、その上に複数の豪華邸宅を会社のカネで買い、改築費まで負担させ、私用で使っている(p37)
・カトリン・ペレスは「こんなクルマは売れるわけがない」と主張し、e-POWER導入に猛烈に反対したとされる・・・ところが、ノートe-POWERが売れ始めると、ペレスは社内で「あれは私が企画した商品だ」と吹聴して回ったという・・・それを信じたゴーンがペレスを常務執行役員に昇格させたのだ。一方、e-POWER開発の責任者を務めた矢島和男は、閑職に左遷された(p191)
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
はじめに 独裁とクーデターの歴史から
第1章 クーデター 2018年11月~
第2章 日産の救世主 創業~1999年
第3章 リバイバルプランとV字回復 1999~2005年
第4章 躓き 2005~11年
第5章 私物化 2011~18年
第6章 ゴーンなきあとの日産 自動車産業の未来予想図
おわりに ゴーンの日産は「社会を豊か」にしたか
著者経歴
井上久男(いのうえ ひさお)・・・1964年生まれ。福岡県出身。1988年九州大学卒。NECを経て1992年朝日新聞社に転職。名古屋(豊田市駐在)、東京、大阪の経済部でトヨタ自動車や日産自動車、パナソニック、シャープ等を担当。2004年に独立し、文芸春秋社や東洋経済新報社が発行する各種媒体で執筆。「現代ビジネス」(講談社) などに連載コラムを持つ。最近は農業の取材も精力的に行っている。2005年大阪市立大学大学院創造都市研究科(社会人大学院)修士課程修了、2010年同大学博士課程単位取得退学。2016年から福岡県豊前市政策アドバイザー(非常勤)に就任予定。神戸市在住。
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