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「戦争にチャンスを与えよ」エドワード・ルトワック

2017/05/03公開 更新
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戦争にチャンスを与えよ (文春新書)


【私の評価】★★★★★(93点)


要約と感想レビュー

外交の常識は一般常識と反対

アメリカの戦略シンクタンク顧問であり、安倍首相とも会談している著者が教える外交戦略の真実です。ルトワックさんは、外交における戦略は「逆説的」になると説明します。つまり、外交においては「平和が戦争につながる」「勝ち続けると負ける」「難民支援が紛争を継続させる」といった常識と反対のことが起こるというのです。


たとえば、紛争からの難民を支援すると、難民にまぎれた戦闘員を支援することになり、紛争が終わらなくなる、といった事象があります。また、外部の介入によって戦争を凍結すれば、人々が疲弊し、人材や資金が底をつき、勝利の希望は失われ、人々が野望を失い、終わるはずの戦争が、外部の介入で終わらなくなってまうのです。戦争の被害が戦争を終わらせるのです。


「フツ族がかわいそうだ」というだけで、ルワンダから越境してきたフツ族をかくまう難民キャンプを設置し、彼らに食事を提供した。ところが、昼間に配給された食事で腹を満たしたフツ族は、夜中には国境を越えて、ツチ族を殺しに行ったのである(p25)

安倍首相と会談

ルトワックさんは2016年に安倍首相と会談しています。会談の内容は説明されていませんが、著作の内容から、中国包囲網の形成と尖閣諸島への武装人員の常駐を提案しているものとみられます。平和が続くと、脅威が目の前にあっても、わたしたちは「まあ大丈夫だろう」と考えてしまうのです。平和が続くと戦争につなが里安くなるのです。


中国はこれまで、勝てると思えばチベット、ブータンを侵略し、ロシア、ベトナムと領土紛争を起こし、南シナ海を埋め立ててきました。つまり、中国に日本の立場をはっきりと行動で伝えなくては、中国が尖閣諸島侵略を決断する可能性があるということです。


中国と対峙する際に、「あいまいさ」は最も危険で有害なものだ。日本政府は、これまで、中国漁船が尖閣周辺の接続水域で操業するのを許してきた。同時に、日本の漁船も、同じ場所で操業してきたわけだが、これこそが私が危惧する「あいまいさ」である(p64)

安倍首相と会談

ルトワックさんは喧嘩が強い人だと思いました。そして、弱肉強食の世界に、理想や誠意、公正や親切といったファンタジーを持ち込むと、かえって紛争を招くと考えているわけです。だからルトワック氏は、安倍首相と同じように、まずプーチンと交渉するという。そして中国とロシアの距離を取るようにプーチンに持ちかけるのです。


逆にこうした紛争や対立が、地域の緊張感を増すことで、国家の革新、挑戦、躍動を促進するとも言っています。危機はチャンス。安定は危機なのですね。ルトワックさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・「大きな規模で考えることができる」ということが、ロシアの第三の特徴だ・・「クマの牙はヨーロッパに向いているが、その柔らかい尻は日本に向いている」といった具合だ(p177)


・ビザンティン帝国の七つの教訓・・(1)戦争は可能な限り避けよ。ただし、いかなる時にも戦争が始められるように行動せよ(p190)


・中国のパワーが上昇する・・ところが、そこから発生するのは、それまで中立、もしくは中国側についていたロシアが、日・米・インド側の同盟に参加せざるを得なくなる(p125)


▼引用は下記の書籍からです。
戦争にチャンスを与えよ (文春新書)
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エドワード ルトワック
文藝春秋
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【私の評価】★★★★★(93点)


目次

1 自己解題「戦争にチャンスを与えよ」
2 論文「戦争にチャンスを与えよ」
3 尖閣に武装人員を常駐させろ―中国論
4 対中包囲網のつくり方―東アジア論
5 平和が戦争につながる―北朝鮮論
6 パラドキシカル・ロジックとは何か―戦略論
7 「同盟」がすべてを制す―戦国武将論
8 戦争から見たヨーロッパ―「戦士の文化」の喪失と人口減少
9 もし私が米国大統領顧問だったら―ビザンティン帝国の戦略論
10 日本が国連常任理事国になる方法



著者経歴

エドワード・ルトワック(Edward N.Luttwak)・・・歴史学者。ワシントンD.C.の大手シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザー。1942年、ルーマニア生まれ。イタリア、英国で育つ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学び、1975年にジョンズ・ホプキンス大学で博士号取得。同年国防省長官府に任用される。国家安全保障会議のメンバーも歴任。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論


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