「大本営参謀の情報戦記」堀 栄三
2002/08/31公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(80点)
今日の名言
日本では,陸軍大学校や航空将校養成学校にも,情報学級もなければ特殊な情報課程もなく,わずかに情報訓練が行われたこともあったが,それも戦術や戦史,通信課程の付随的なものに過ぎなかった。従って情報任務を与えられた将校たちは,戦塵の間に自分で新任務を会得する以外になかった。
「仕事は盗むものなんだよ」と言われるように,日本の教育は自ら学ぶ職人的OJT(On the Job Training)が主流である。これは,日本では個人のレベルが高いことから,教育の仕組みがなくてもなんとかなるし,OJTのほうが有能な職人が育つということが原因ではないだろうか。
しかし,このような職人的OJTでは,個人個人の努力,先輩の資質が高いことを前提にしているので,多くの場合,本当に大切なものが抜け落ちる可能性が高い。今日の名言を信じれば,大本営では「情報」が抜け落ちていたことが分かる。
では,うちの会社は?と振り返ってみれば,これはまた職人の世界である。同じ仕事を続けるためにはOJTが良いのだが,どうしても先輩と同じことをして満足してしまう。先輩の仕事を全て理解し,自分で考え,否定して,一歩先に行くことは難しい。ここでもやはり外の「情報」,業界ナンバーワンのやり方や,世界一と言われる企業の秘密を勉強し,広める必要があるのだろう。
要約と感想レビュー
アメリカの戦争に突入した判断は、大きな間違いであったと思います。ここの大きな判断で間違ってしまうと、戦略や戦術で結果を変えることはできません。しかし、もう少しうまくやることはできなかったのでしょうか。この本を読むと、日本軍の非能率ぶり、精神主義には、日本は昔も今も変わらないんだなと思わせてくれます。
例えば、米軍の補給は弾薬、兵器、糧食、衛生用薬品などを戦場近くに、常に45日分を保持するのを最小限の標準としていました。日本軍が一食の食糧の補給すら途絶したのとは大違いだったのです。また、米軍は音響探知機、夜間照明、鉄条網などで日本軍の夜襲を待ち構えていました。したがって、夜間に突撃しても、戦力をいたずらに消耗するだけだったことも軍内部で周知されていなかったというのです。
また、日本社会の中で正しい情報が共有されていませんでした。著者はミッドウェー開戦で日本海軍が大敗北を喫したことや、ガダルカナル島で敗北したことなどの不利な情報は、軍に入るまでは知らなかったという。
日本軍部の指導者は、ドイツが勝つと断定し、アメリカを中心とする連合国の生産力、士気、弱点に関する見積りを不当に過小評価していました。組織の中に入ってしまうと、客観的に見ることができなくなったり、雰囲気におされて言えなくなってしまうのかもしれません。
この本で私が共感した名言
・クレッチメル少佐から、日本海軍の暗号が米軍に盗まれてはいないだろうか?という懸念が表明された・・・米軍は欧州でもこれに類似したことをしており、重要書類を奪取する専門部隊を持っている(p46)
・よく戦後の戦史研究家で、あのときこんな情報があったのに、どうしてこれを採用しなかったか、と批評する人がいる。しかし情報は二線、三線での交叉点を求める式の取り組みをやらないと、真偽の判断は難しい(p51)
・現在でもソ連の艦船が日本の領海すれすれに接近したり、ソ連機が近海を北から南へ飛行しているが、必ず日本のレーダーや電波の調査を行っているはずだ。これに日本の自衛隊がスクランブルをかける。緊急時には 無線電話も使うから電波キャッチにはもってこいの機会になる(p93)
・第二次世界大戦で日本が開戦するや否や、米国がいの一番にやったことは、日系人の強制収容だった・・米国那の諜者(スパイ)網(もちろん日系人全部というわけではない)を破壊するための防諜対策だったと、どうして考えないのであろうか(p94)
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【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
陸大の情報教育
大本営情報部時代
山下方面軍の情報参謀に
再び大本営情報部へ
戦後の自衛隊と情報
情報こそ最高の"戦力"
著者経歴
堀 栄三(ほり えいぞう)・・・1913年〈大正2年〉生まれ- 1995年〈平成7年〉没。日本の陸軍軍人、陸上自衛官。階級は陸軍中佐、陸将補。
太平洋戦争関係書籍
「グリーンファーザーの青春譜―ファントムと呼ばれた士(サムライ)たち」杉山龍丸
「なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議」半藤一利
「日本海軍400時間の証言: 軍令部・参謀たちが語った敗戦」NHKスペシャル取材班
「なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか 太平洋戦争に学ぶ失敗の本質」松本 利秋
「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」戸部 良一 寺本 義也 鎌田 伸一 杉之尾 孝生 村井 友秀 野中 郁次郎
「大本営参謀の情報戦記」堀 栄三
「日本はなぜ敗れるのか―敗因21ヵ条」山本七平
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