【書評】「データが語る気候変動問題のホントとウソ」 杉山大志
2026/08/03公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
メディアの気候危機報道の真実
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書で統括執筆者を務めた著者が、気候変動をめぐる報道や政策の不都合な真実を指摘した一冊です。
日本では、「ホッキョクグマが絶滅の危機」「台風や豪雨が激甚化している」「猛暑は地球温暖化の影響」といった報道を目にする機会が多くあります。そのため、「CO2排出を急いで減らさなければならない」という認識を持つ人が多いのではないでしょうか。
しかし著者は、過去の気象観測データを調べると、こうした報道を裏付けるデータは存在しないと指摘します。例えば台風については、発生数も「強い」以上の台風の数も増えておらず、1970年代以降はスーパー台風も減少しているというデータを紹介しています。
また、日本経済新聞電子版が「大雨の激甚化」を報じた記事についても、1976年以降だけを見ると増加傾向に見える一方で、1950年代まで含めると同程度の降雨量であり、著者は期間の切り取りによって誤解を招く報道になっていると批判しています。
猛暑についても、東京では100年前より約3.2℃気温が上昇していますが、著者によれば、そのうち地球温暖化による上昇は約0.9℃で、多くは都市化によるヒートアイランド現象の影響だというのです。
さらに、環境運動家は「ホッキョクグマは絶滅危機にある」と主張してきましたが、著者は近年の生息数は増加傾向にあるという調査結果を紹介しています。
IPCCの報告書にも、「統計データでは自然災害の激甚化を明確に示す証拠は限定的」との記述があるとして、著者はこうした内容が意図的に報道されていないことを問題視しています。
台風や大雨などの気象観測データを見て・・・国際連合(国連)、政府、メディアらが流布していることとは異なり、自然災害の激甚化などまったく起きていない(p10)
IPCC報告書はどう読めばよいのか
著者は最新のIPCC第6次評価報告書についても、掲載されている統計データを検証しています。そもそも統計データの掲載が少なく、掲載されていても不適切なデータ分析が行われている点を、著者は問題視しています。
例えば、「気候に関連する食料生産の損失は増えている」という記述については、実際には世界全体の食料生産量そのものが大幅に増えている事実を説明し、損失だけを取り上げる不自然さを指摘しています。
また、米国西部の山火事について掲載されているグラフは右肩上がりとなる「累積値」であり、さらに山火事の多い1930年代のデータを掲載していないことから、著者は読者に誤解を与えるグラフであると批判しています。
さらに、気候シミュレーションについても、平均気温は観測値に合わせてチューニングされているものの、海面水温など他の要素はチューニングしても再現できていないとして、シミュレーション結果は恣意的に変更できるものであり、信頼に足るものではないと述べています。
気温上昇ひとつとっても、地球温暖化の科学にはよくわからないことが多く、・・・IPCCもはっきり認めている(p93)
再生可能エネルギーは本当に安いのか
日本の再エネ賦課金が3兆円、消費税1.5%相当まで上昇し問題となっていますが、著者は再生可能エネルギーを大量導入したカリフォルニア州では電気料金が2倍になったことを紹介しています。
その理由として、太陽光や風力は天候によって発電量がゼロになる場合があるため、それを補うための火力発電を維持する必要があり、二重投資になっていることを挙げています。
さらに、再エネの大量導入に対応するため、蓄電池の整備や、送電網の建設も必要になるため、著者はこれを「三重投資」「四重投資」と表現しています。送電線は北海道だけで1兆円、海底直流送電線を3兆円以上かけて敷設する計画があり、電気料金に上乗せされるのです。
再エネについては、業界人であれば常識的に理解していることですが、再エネへの投資が本当に国民生活や産業にとって望ましいものなのか、改めて考える必要があるのでしょう。
太陽光発電と風力発電の普及している国ほど電気料金はむしろ高くなっている・・・再エネを大量導入したカリフォルニア州は・・・電気料金が今では倍以上になってしまった(p112)
エネルギー政策は現実とのバランスが必要
著者の主張は、気候危機説は誇張されており、気温上昇のシミュレーションは信用できず、中国・ロシアはCO2削減に本気でないため、日本だけがコストをかけてCO2を削減しても地球全体の排出量はほとんど変わらないというものです。
日本政府は「グリーントランスフォーメーション推進法」のもとで10年間に官民合計約150兆円の投資を計画しており、年間15兆円、消費税7.5%相当の支出によって電気料金が2倍になる可能性があります。
日本が石炭火力を削減しようとしている一方で中国では石炭火力が爆増しているという現実を著者は示します。ロシアや中国が自国経済を犠牲にしてまでCO2ゼロを目指すなどあり得ないのです。
日本経済が消滅すればCO2排出量はゼロになりますが、それは誰も望まない結末です。著者の提言は、経済を損なわない範囲で原子力発電やガス発電を増やすなど現実的な温暖化対策で十分だというものです。
巨額の再エネ投資が本当に国民生活や産業にとって望ましいものなのか、一般の人に改めて考えるきっかけを与えてくれる一冊ではないでしょうか。杉山さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・2023年の年平均気温の直前10年間の平均との比較・・・日本では2023年は暑かった・・・一方で、アメリカ、インド、中国は寒かった・・・毎年のように2℃程度は上下する(p1)
・気候は大きく自然変動してきた・・・1300年ごろから1850年ごろの間は「小氷期」・・・日本の縄文時代にあたる8000年前から4000年前の間は、北半球は温暖だった・・・ノルウェイ北部は、現在の千葉県ぐらい暖かかった(p67)
・ロシア沿海州は温暖だった。この地域の地層中の堆積物を調べると、約8000年前から5000年前まで「現代の気温より2~5℃高い」年平均気温を記録していた・・・地球温暖化が進むといっても、生物にとっては経験済み(p69)
・中国製のソーラーパネルを使用すると、太陽光発電の建設時までのCO2排出量は多く、太陽光発電によってCO2を削減して取り返すためには、住宅用で7年、メガソーラでは10年もかかるという(p118)
▼引用は、この本からです

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杉山大志 (著)、電気書院
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1部 気象観測データ
第2部 環境観測データと社会統計データ
第3部 数値モデルによるシミュレーション
第4部 エネルギー政策
結 論 日本はどうすればよいのか
著者経歴
杉山 大志(すぎやま たいし)・・・キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹。東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院工学系研究科物理工学専攻修了。電力中央研究所、オーストリア国際応用システム解析研究所(IIASA)を経て、現職。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書統括執筆者。経済産業省審議会委員、慶應義塾大学特任教授、米国ブレークスルー研究所フェローなどを歴任。専門はエネルギー政策、気候変動問題。
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