【書評】「世界史の名将たちの「戦略と戦術」 この社会で賢く生きる方法は歴史が教えてくれる」 神野 正史
2026/09/01公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
歴史に学ぶ
歴史を学んでも、知識はあるのに失敗する人もいれば、その知識を活用して成功する人もいます。この本では、世界史の事例を紹介しながら、歴史から得た知識をどうすれば現実の世界で活かすことができるのか考察しています。
陽明学には「知行合一」という考え方があります。本当に「知っている」のであれば、それは行動となって現れるということです。つまり、知識は活用できてはじめて知恵になるのです。
著者が勧めているのは、書物から学びながら、実際の現場で経験を積み、学んだ知識をどう応用できるのか試行錯誤することです。知識と経験を積み重ねながら、自分の置かれた状況に合わせて臨機応変に対応できるようになれば、成功する可能性も高まるのです。
書物から得た知識を「文字通り墨守」するのではなく、自分の置かれた状況をよく吟味し、臨機応変に対応すること(p224)
弱者の戦略
では、歴史から具体的に何を学ぶことができるのでしょうか。
著者は、欧州のクラウゼヴィッツが「必勝戦略」を考えたのに対し、東洋の孫子は「どうしたら戦に敗けないか」という「不敗戦略」を説いたと説明しています。そして、強者はクラウゼヴィッツ的な戦い方を好み、弱者は「なるべく争いを避ける」孫子的な戦い方を選ぶべきだと分析しています。
そもそも弱者が強い相手と正々堂々、正面から戦っても勝ち目はありません。だからこそ、弱者は単独で戦うのではなく、仲間を増やして相手を孤立させる「合従(がっしょう)」という戦略を取るのです。
具体例として紹介されているのが、ビスマルクの「フランス孤立化政策」です。ビスマルクはロシア、オーストリア、イタリアなどと同盟関係を構築し、フランスを孤立させました。ところが、ヴィルヘルム2世がビスマルクを更迭し、ロシアとの関係を悪化させたことで、結果的にドイツはフランスとロシアから挟まれ、ドイツ帝国は滅亡するのです。
この事例を読んで、ロシア、インド、韓国、オーストラリア、米国などとの関係を強化し、中国を外交的に孤立させようとした安倍晋三元首相に、ビスマルクとの共通点を感じました。
小鮮群れて大魚に喰われず、群より外るればたちまち喰わる(p135)
「正々堂々」とは「無為無策」
こうした「弱者の戦略」の反対の思考として、著者は「正々堂々」という言葉を使っています。著者は、歴史を学べば、「正々堂々」は聞こえはいいものの、戦略もなく正面から戦うだけなら「無為無策」にすぎないと指摘しています。
もちろん正義は大切です。しかし、「自分たちが正しいのだから勝てる」と考えるだけでは、勝てる戦いも負けてしまう。国家を護るという目的を達成するためには、感情や正義感とは別に、戦略を考えなくてはならないということです。
戦略の一つとして紹介されているのが、「離間策」です。相手陣営の結束を崩して内部対立を生み出しながら、自分に近い勢力を味方につけ、遠い勢力を叩くという方法です。
こうした戦略としての「離間策」を知ると、台湾や沖縄をめぐる情報戦や世論工作も、相手の内部に分断を生み出すという意味で、古くから使われてきた戦略の延長線上にあるとわかるのです。
「戦って敵をねじ伏せる」のは二流、「戦わずして相手を心服させる」のが理想(p85)
ロシアのウクライナ侵攻
逆に、歴史から学ばなかった失敗例として紹介されているのが、ロシアのウクライナ侵攻です。著者はロシア・ウクライナ戦争を見て、「敵をナメてかかって大火傷を負う」という歴史的教訓から、ロシアは日中戦争を始めた日本の二の舞になると確信したという。
つまり、プーチン大統領は自国とロシア軍の強さを過信し、短期間で作戦が終わると楽観視していた。そのため戦力を分散させ、作戦が失敗した場合の「Bプラン」さえ十分に準備していなかったと著者は分析しています。
さらに著者は、仮にロシアがウクライナから領土を割譲したとしても、インフラが破壊され、多くの若者が亡くなり、周辺国から経済制裁を受けている現状を見れば、ロシアは敗北しているといいます。つまり、プーチン大統領は「ウクライナを支配すること」にこだわるあまり、「ロシアを豊かに強くする」という本来の目的を見失ってしまったのです。
誰もが歴史を学んでいるはずですが、歴史は繰り返す。これが歴史の恐ろしさなのかもしれません。神野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・「連戦連勝」は、「諸刃の剣」であって、勝ちがつづいたときこそ、足元をしっかりと見て、より慎重に事を運ばなければならない(p99)
・人生などほんとうにアッという間・・・早い段階で「展望(ビジョン)」を抱き、これに一点集中して努力するしかありません(p81)
・項羽のやり方は彼の性格を表して「砲艦外交」一辺倒・・ただ皆殺しを繰り返すのみ・・項羽の目的は「一刻も早く関中入りすること」であって「秦兵を皆殺しにすること」ではありません。手段と目的の区別すらついていない(p253)
▼引用は、この本からです

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神野 正史 (著)、KADOKAWA
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
序 章 知識との向き合い方は「兵法の心得」に学べ
第1章 始める前に考えておくべき「政略の心得」
第2章 弱くても勝てる勝負へと変える「戦略の心得」
第3章 自分たちを勝利に導く「戦術の心得」
終 章 人生を好転させるには「学問の心得」を使え
著者経歴
神野正史(じんの まさふみ)・・・元河合塾世界史講師。YouTube神野ちゃんねる「神野塾」主宰。ブロードバンド予備校世界史講師。1965年名古屋生まれ。出産時、超難産だったため、分娩麻痺により生まれつき右腕が動かない。立命館大学文学部西洋史学科卒。河合塾では「スキンヘッド」「サングラス」「口髭」「黒スーツ」「金or銀ネクタイ」という出で立ちに「てるてるテキスト」を用い、「神野オリジナル扇子」で講義するスタイル。現在はYouTube神野ちゃんねる「神野塾」を運営。また「歴史エヴァンジェリスト」として、TV出演、講演、雑誌取材、ゲーム監修などもこなす。
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