【書評】「もう価格で闘わない―「より安く!」は誰も幸せにしない」 坂本光司
2026/08/04公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)
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要約と感想レビュー
価格競争から抜け出せる会社だけが生き残る
著者は、8000社以上の中小企業を訪問調査してきた経営学者です。
著者によれば、中小企業の約65%は赤字経営であり、その背景には「価格の安さ」を武器に経営を続けていることにあります。実際に約1000社へのアンケートでは、価格の安さを売り物にしている企業が約8割にも及んだというのです。
価格が安ければ利益は少なく、取引先への支払いも苦しくなります。さらに、原価を無視したような値下げ要求や、極端に低い単価での発注にも応じざるを得なくなってしまいます。
著者は、「価格とは、関わるすべての人が幸せになれるものでなければならない」と考えています。そして、そのためには価格で勝負するのではなく、「価値」で選ばれる非価格経営へ転換すべきだと提唱しているのです。
原価を無視したかのような、上から目線で値決めを求めてくる企業や、常識とかけ離れたような異常に低い単価で平然と発注してくるような企業とは、徐々にでも決別すべきなのです(p17)
価格ではなく価値で選ばれる会社になる
では、非価格経営とはどのような経営なのでしょうか。
著者は、アフターサービスが充実している、品質が抜群である、1個だけの注文にも対応する、短納期でも引き受ける、ワン・ストップサービスを提供する、地域社会へ貢献するなど、「価格以外の価値」で選ばれる会社づくりだと説明しています。
つまり、大企業が参入しにくいニッチ市場で独自のブランドを築き、「安いから買う」ではなく、「この会社だから買う」と言われる企業になることです。本書では、その考え方を実践している24社の事例が紹介されています。
非価格経営・・・アフターサービス・・素敵な社員・・1個でも対応してくれる・・短納期・・ワン・ストップサービス・・地域貢献・・嘘をつかず安全・安心・・品質が抜群(p23)
ブランディングには覚悟が必要
シャボン玉石けんの事例では、オーナーが自ら開発した無添加石けんで長年悩んでいた湿疹が改善したことをきっかけに、「合成洗剤は一切扱わない」と決断しました。しかし、その結果、月商は100分の1まで落ち込み、100人いた社員は5人になり、17年間もの赤字経営が続いたというのです。
本書ではこのほかにも、アレルギーの人でも安心して利用できる自然派美容室、高級ドレスシャツメーカーHITOYASHI、吸水性の高い「1秒タオル」のホットマンなど、高価格でも選ばれる企業が紹介されています。
高品質・高価格というブランドは言うのは易く、実際には簡単に築けるものではありません。しかし、成功している会社は、覚悟を決め、自社の理念を貫き続けた結果、成果を出しているというわけです。
株式会社ふらここ(人形工房)・・・若い世代の好みに合わせた人形づくりで1年先まで予約が入る・・・商品の平均単価は雛人形で12万円、五月人形で10万円と、同業他社と比べて少し高めですが、すべてを定価で完売(p74)
差別化が価格競争を終わらせる
価格競争から抜け出すには、他社にはない強みを持つこと、差別化が重要です。例えば、清川メッキ工業は、年間1000件もの高度な技術相談を受ける「メッキクリニック」を設けています。その結果、多くの相談が新しい仕事へとつながっています。
また、「100グラム1万円」の日本茶を販売する「しもきた茶苑大山」、おいしい食品しか販売しないスーパーまるおか、体験型施設「草加せんべいの庭」を運営する山香煎餅本舗など、どの企業も価格ではなく独自の価値を提供しているのです。
三和建設株式会社は、食品工場の多くの経験を体系化し、食品工場のトータルブランド「FACTAS」を立ち上げ、食品会社に絞った営業活動で成果を上げているという。
株式会社エコ建築考房(建築/愛知県一宮市)・・・木はすべて国産で・・・天然乾燥材を使用・・木の加工も自社工場で行っており・・・壁材は左官材という塗り物(p140)
「いい会社」が最後に残る
著者は、利益だけを追う会社ではなく、社員、お客様、地域社会を大切にする「いい会社」こそが長く支持されると説いています。
障がい者雇用を積極的に進める企業、小さな修理でも喜んで引き受けるリフォーム会社など、多くの事例から感じたのは、「人を大切にする経営」が、結果として会社のブランドになっているということでした。
価値で選ばれる24社の実例が紹介されており、中小企業経営者はもちろん、これから独自にブランディングしたい人にも大きなヒントになると感じました。坂本さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・大きな資本力をもつ大企業が創造し対応するのは、規模の大きな市場です。一方、資本力の小さい中小企業が創造し対応するのは、小さな市場・ニッチマーケット・隙間マーケットです(p19)
・部品の生産数量が1個から5個・・・多品種微量生産企業・・同業他社ができない・やりたくない製品ばかり(p32)
・山崎製作所・・・「日本の伝統であるかんざし文化を現代の女性たちに広げていきたい」というベクトルが定まったのです(p95)
・沢根スプリング株式会社(ばね及び関連製品の製造販売)・・・アメリカ研修中に出会ったばねの通信販売でした。これにヒントを得た同社は「ストックスプリング」という自社通信販売サイトの運営をはじめます・・17時までの注文には即日宅配発送、品揃えについては5000種類(p229)
▼引用は、この本からです

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坂本光司 (著)、あさ出版
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
1 ブランディングで非価格経営を実現する
2 ニッチ市場で非価格経営を実現する
3 商品力・技術力・サービス力の「差別化」で非価格経営を実現する
4 「いい会社」として価格以外の価値観経営を実践する
著者経歴
坂本光司(さかもと こうじ)・・・1947年、静岡県(焼津市)生まれ。経営学者。静岡文化芸術大学教授や法政大学大学院教授などを歴任。現在は、人を大切にする経営学会会長、千葉商科大学大学院商学研究科中小企業人本経営(EMBA)プログラム長、日本でいちばん大切にしたい会社大賞審査委員長、他公職多数。専門は中小企業経営論・地域経済論・福祉産業論
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