【書評】「星野佳路と考えるファミリービジネスマネジメント」中沢康彦
2026/05/20公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(87点)
要約と感想レビュー
星野リゾート4代目が語るファミリービジネス
「日経トップリーダー」副編集長でありファミリービジネス学会にも所属する著者が、星野リゾートの星野佳路社長とファミリービジネスの後継者10人とのインタビューをまとめた一冊です。
星野佳路社長は4代目として、軽井沢の温泉旅館をリゾート運営会社へと変貌させた改革者です。しかしその道のりは決して平坦ではありませんでした。副社長として改革を断行しようとしたとき、抵抗勢力との対立が生じ、一時は退社を余儀なくされます。
社長として復帰する際には、公認会計士として社外にいた弟を役員として招き、共同経営という形で改革を進めていきました。ファミリービジネスであっても、変革を推し進めるのは難しく、信頼できる人間を巻き込みながら進めることが重要なのでしょう。
会社を変える難しさ、人材不足に気付いていました。そこで復帰して社長になるときは「1人では無理だ」と思い、公認会計士として社外にいた弟に役員として入社してもらいました(星野佳路)(p44)
ファミリービジネスの特徴と潜在力
日本の法人企業約250万社のうち97%は同族会社です。日本経済の根幹を支えているのは、実は大企業ではなくファミリービジネスなのです。
ファミリービジネスの特徴は、会社を成長させることよりも「次の世代でも生き残ること」を優先する点にあります。そのため新しい経営手法の導入や業務の効率化という点では大企業に劣る場面が多いといいます。
しかし見方を変えれば、古いやり方が温存されているということは、改革によって得られる成長の余地が大きいということでもあります。長期的な視点で経営を続けてきたという強みと、現代的な経営手法が未導入であるという弱み。その両面を持つのがファミリービジネスであり、後継者にとってはそこに使命と機会があるというのが星野社長の認識なのです。
ファミリービジネスは・・・長期的視点で経営を続けてきたという良い面はあるが、近代の新しい経営手法の導入やその洗練度という意味では大きく劣っている・・・成長潜在力は高いと言える(星野佳路)(p16)
各社の改革と抵抗の事例
本書に登場する後継者たちに共通するのが、仕事のやり方を変えようとすれば、必ず抵抗にあうという現実です。
星野リゾートでは、軽井沢以外での運営施設を手がけて成功実績をつくることで、ファミリー株主の協力を徐々に引き出していきました。
スポーツ用品のゼビオではベテラン社員からの抵抗があったものの、若い社員が賛同したことで改革を前進させました。
榮川酒造の場合、杜氏さんの抵抗があったものの、最終的に賛同してもらい改革が進んだという。星野リゾートでも温泉旅館の和食の料理人とマルチタスクの導入で抵抗があり、最終的に協力してもらえた経緯があったという。
ホッピー・ビバレッジの場合、最古参の工場長の反逆事件などもありましたが、社員の半数が辞めた後に売上が5倍に伸びたといいます。
それぞれの事例に共通するのは「抵抗者の賛同を得ることが改革の鍵になる」という点です。無理に変えようとすれば組織は壊れ、何も変えなければ事業は衰退します。後継者に求められるのは、変えるべきものと守るべきものを見極めることなのです。
受け入れる部分とそうでない部分のバランス(星野佳路)・・・伝統と革新のバランスが大事になってきます(コーセーホールディングス社長、小林一俊)(p60)
「継ぐ」ことの意味と価値
本書の最初の問いは、「ファミリービジネスを継ぐべきか否か」です。星野佳路社長の答えは明快で、継ぐほうがよいというものです。
理由は二つあります。一つは、ファミリービジネスを継ぐことはゼロからの独立起業と比べて「リスクの軽減された起業」であり、事業の継続性が最初から確保されているからです。
もう一つは、後継者にしかできない仕事が存在するという点です。先代が築いてきたものを受け継ぎ、次の世代に渡すという使命感は、外部からの経営者には生まれにくいものだからです。
ファミリービジネスでの後継者の問題が再確認できました。この本で先輩後継者たちがどのように悩み、どのように覚悟を決め、どのように抵抗を乗り越えてきたかを知ることは、これから継ぐ立場の人にとって力になるでしょう。
中沢さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・農業の問題点・・1つは農家は農産物の価格を自分で決められない・・・もう1つが生産者の名前が消されて流通している問題です(みやじ豚社長、宮治勇輔)(p120)
・ゼロから農業を始めるのはとにかく大変です・・・農家のせがれであれば、実家に帰ったらすぐに就農が可能です・・・NPOで「農家のこせがれネットワーク」をやっています(みやじ豚社長、宮治勇輔)(p126)
・お遍路宿の風呂が故障したとき、井上家の風呂を宿泊客に貸したことがあった。そのとき、お客に母は自分の農園でとれたみかんを食べさせた。すると、お客たちは次の年もみかんを注文してくれた・・・口コミで評判が伝わり、お客は5年で4000人にまで拡大(井上誠耕園社長、井上智博)(p192)
・ファミリービジネスがうまくいくコツは「ファミリービジネスの裏側にいる女性にある」・・・リーダーとなる女性やファミリーの「潤滑油」になっている女性がいて、女性同士をまとめている(ゼビオ社長、諸橋友良)(p156)
▼引用は、この本からです

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中沢康彦 (著)、日経BP社
【私の評価】★★★★☆(87点)
目次
Prologue 星野佳路が語るファミリービジネス進化論
1 一貫して継ぐことを当然ととらえるケース
2 学校卒業を契機に継ぐ意思を明確にするケース
3 「継がない」から「継ぐ」に転じるケース
4 多様な継ぎ方のケース
5 3人のドキュメント 継ぐことを「決めた瞬間」
6 ファミリービジネスを知るための参考資料集
著者経歴
中沢康彦(なかざわ やすひこ)・・・1966年新潟県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。新聞社記者を経て日経BP社に入社。「日経ビジネス」記者などを経て、現在、「日経トップリーダー」副編集長。ファミリービジネス学会に所属している
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