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「ザ・ベロシティ」ディー・ジェイコブ

2022/04/11公開 更新
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「ザ・ベロシティ」ディー・ジェイコブ


【私の評価】★★★★☆(81点)


要約と感想レビュー

ボトルネックの最大活用

ザ・ゴール」のように小説形式でボトルネックを解消することにより成果を生み出す「制約理論」を説明してくれる一冊です。小説として楽しめますが、500ページ以上ありもう少し簡潔にできないのでしょうか。


米国では「リーン生産方式」「シックスシグマ」という形でムダの排除、品質改善の取り組みが広く普及しています。この本ではこれらの2つに「制約理論(TOC)」を組み合わせることで、より効果的に成果を生み出せるというストーリーとなっています。つまり、制約となっているところだけ改善すれば、より効果的に成果が出るということです。


まず、主人公の工場では業績改善を目指して「リーン生産方式」と「シックスシグマ」が導入されます。専門家が入って、作業のばらつき改善、作業環境の改善、品質改善活動を行ったのですが、短期間に業績を大きく改善させることはできませんでした。なぜなら工場全体で改善活動をしたとしてもボトルネック(制約)となっている工程(リソース)が最大活用されなければ、工場全体のアウトプットは変わらないからです。


制約っていうのは、フローを制限するもののことで、例えば、二車線の道路で橋のところだけ一車線・・・(p281)

ボトルネックを最優先

さらに会社の業績管理システムは、設備や作業員の最大活用を業績の指標にしていたため、多くのマネジャーが 作業員を減らしたり、設備を稼働させようとすることで、無駄な在庫が増えてしまう始末です。作業員を減らしたことで、トラブルへの対応も難しくなってしまいました。


主人公はこうした状況を分析することで、工場内の問題は、工場内の制約が「加熱・加圧成形炉」にあることを理解しました。改善活動によって他の工程のムダを減らし、在庫を減らしたことによって、制約である「加熱・加圧成形炉」の稼働率が低下していたのです。「加熱・加圧成形炉」が制約なのですから、「加熱・加圧成形炉」が常に稼働できるようずべての工程を最適化することに方針転換し、工場の業績は急回復するのです。


どのようなことがあっても「加熱・加圧成形炉」の高稼働を優先するのですから、他の工程にある程度の余剰設備、余剰人員があってもかまわないのです。「加熱・加圧成形炉」でない工程が制約となるようでは、工場内は混乱してしまうわけで、「加熱・加圧成形炉」に集中するのが短期間には合理的な判断なのでしょう。


特に野心的なマネージャーは・・・自分がいかに優れているか誇示しようとして、システム全体ではなく、自分が担当している部分のパフォーマンスしか考えないところがある(p460)

トヨタ生産方式の本質

「リーン生産方式」「シックスシグマ」も改善を続けていくうちに工場全体の業績は上がっていくはずです。しかし、作業を改善して人を抜いても、その人を解雇するわけではないので、短期間にコスト削減が実現できるわけでありません。会社としてより短期間に効率的に成果を出すとすれば、やはり制約となっているところを中心に改善活動を行うのが合理的であり、それこそが制約理論(TOC)なのだと思いました。


トヨタQC活動でもデータに基づき目標達成にもっとも貢献するであろうことを改善するのがQCストーリーの基本なので、TOC的な考え方はあるのですが、組織全体の最適を考え、どこに注力するのかという点ではTOCのほうに合理性があると思いました。


「リーン生産方式」も「シックスシグマ」も「制約理論(TOC)にしても、もともとはトヨタ生産方式を分析して導きだされたものであり、いかにトヨタの影響力が大きいのか再確認しました。そして、良いところはシステムとして取り入れようとするアメリカの強さも感じ取れました。


もう少し薄い本にしていただくとうれしいなと思いながら★4とします。ジェイコブさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ソリューション・・・明かな不注意やサボタージュでなければ、従業員を責めてもしょうがない。それじゃ、何の解決にもならない。それより必要なのは、『ポカヨケ』だよ(p125)


・人に対して影響力を持つには、人間関係が必要だ。そして、人間関係を築くにはそれなりの努力が必要だ(p277)


・ありとあらゆるところで無駄をなくそうとするのではなく、制約のパフォーマンスに大きな影響を与えるような無駄にだけ的を絞るんです(p377)


・量を決めずに一定の間隔で発注する・・・重要なのは、補充に要する時間と、そして常に時間どおりに補充されることなんだよ(p423)


・マルチタスキング・・早く仕事を片づけてしまったら・・・忙しそうに見えなんじゃないかと心配なのよ(p429)


▼引用は、この本からです
「ザ・ベロシティ」ディー・ジェイコブ
ディー・ジェイコブ, スーザン・バーグランド,
ジェフ・コックス、ダイヤモンド社


【私の評価】★★★★☆(81点)


目次

1 青天の霹靂
2 『ムダ』はすべての敵だ
3 それぞれの失意
4 緊急ミーティング
5 戻ってきたマーフィー
6 成長戦略



著者経歴

ディー・ジェイコブ(Dee Jacob)・・・1986年にエリヤフ・ゴールドラット博士のTOC理論を開発、発展させ、普及啓蒙する目的で設立されたAGIゴールドラット・インスティテュート代表。ベロシティ・アプローチ開発の主な提唱者として知られる


スーザン・バーグランド(Suzan Bergland)・・・AGIゴールドラット・インスティテュート北米グループ代表。TOC、リーン・シックスシグマ融合の主な開発者、エキスパート


ジェフ・コックス(Jeff Cox) ・・・ビジネス小説ライター。『ザ・ゴール』の共著者。


TOC関連書籍

ザ・キャッシュ・マシーン」リチャード・クラフォルツ
優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか? 限界を突破するTOCイノベーションプロセス」 岸良 裕司
ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」エリヤフ・ゴールドラット
「ザ・ベロシティ」ディー・ジェイコブ


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