「亡国の環境原理主義」有馬純
2022/03/03公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
CO2増加が温暖化の原因は仮説
COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に15回参加してきたという経済産業省OBによる、現在の環境問題の本質を教えてくれる一冊です。
地球温暖化問題については、テレビも新聞も企業も政治家も学者も当たり前のこととして発言する人が多いと思います。確かに地球は温暖化しているように見えますが、実は科学的に見れば本当に二酸化炭素の増加が主因となって地球が温暖化しているのかどうかは明らかではないのです。もちろん異常気象災害の原因が二酸化炭素である、ということも証明されていません。
そもそも数十万年の気候変動のデータを見ると、二酸化炭素濃度など関係なく、氷河期になったり現在のように間氷期で温かくなっています。つまり、2050年にカーボンニュートラルを目指すということは、こうした不確実性を理解したうえで目指すということなのです。
そうした不確実性があるにもかかわらず二酸化炭素の排出削減をあたかも宗教のように絶対視する人たちを著者は「環境原理主義」と表現しています。そして「環境原理主義」を支えるのが「気候産業複合体」です。「気候産業複合体」は、政治家、官僚、学者、環境活動家、再生可能エネルギー産業、メディアから成り、地球温暖化のリスクを煽り、巨額な再生可能エネルギー補助金を引き出しているのです。
多くの不確実性がある2050年目標から逆算した46%目標を、他国の動向やコストを度外視して遮二無二達成しようとすれば、日本だけが損をすることになります(p184)
世界の30%のCO2を排出する中国と3%の日本
「気候産業複合体」は、実は二酸化炭素が本当に地球温暖化の原因ではないのかもしれないと知っているのかもしれません。例えば、国際環境団体が環境問題に後ろ向きの国へ与える『化石賞』というものがあります。これだけ省エネが進んでいる日本が、なぜか『化石賞』を何度も受賞しているのです。ところが世界最大の石炭消費国であり、世界最大の二酸化炭素排出国である中国は受賞したことがありません。
世界の30%の二酸化炭素を排出する中国と、たった3%の日本。中国は年10%くらい成長することもありますので、日本の排出量は中国の1年分の排出量の増分でしかないのです。日本が排出量を0としても、中国が存在するかぎり何も変わらないのです。小泉進次郎環境大臣は、「途上国への石炭火力輸出を何とかしたいと思ったが、新たな見解をだせなかった。『化石賞』をもらう可能性があると思っていた」とコメントしていました。『化石賞』の謎の答えはここにあるのかもしれません。皆さんも考えてみてください。
世界全体の排出量の3%程度にすぎない日本が苦労して排出削減をしても意味がありません(p11)
カーボンニュートラルで経済敗戦
風力、太陽光を導入したドイツは家庭用電気料金は2倍になっています。それを真似して再生可能エネルギー固定価格買取制度を導入した日本も同じ道を進んでいるということです。この本で通産官僚であった著者が伝えたいのは、カーボンニュートラルを掲げた日本が、太平洋戦争前の日本と似ているということです。
太平洋戦争前、日本はアメリカから石油禁輸されてしまい、企画院が対米戦争の可能性を検討しました。その結論は、南方進出して石油資源を確保すれば、長期持久戦が可能というものでした。実際には、南方から石油を運ぼうとした船が次々に沈められ、石油備蓄は底を尽き、日本はアメリカに敗戦したのです。
ドイツの家庭用電気料金は2000年から2020年までの20年で2倍になり、欧州で最も高いものになっています(p76)
カーボンニュートラル阿波踊り
日本は2050年ネットCO2排出ゼロを表明しました。著者は、2050年ネットゼロエミッション目標を表明した120カ国のように日本もカーボンニュートラルの阿波踊りに参加したのですと表現しています。
当時の企画院の担当者は、「とても無理」という報告書を書ける雰囲気ではなかったと述懐していたという。同じように現在の経済産業省も環境省もカーボンニュートラルで、日本はエネルギー価格の高騰で経済敗戦するとは言えないということなのです。元経産省官僚の言葉としては、とてつもなく重い言葉ではないでしょうか。
経産省OBだから書ける本だと思いました。参考にさせていただきます。有馬さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・環境団体は・・・世界最大の石炭消費国、石炭火力輸出国である中国に対して『化石賞』を与えたことは一度としてありません(p9)
・環境原理主義者は彼らの主張に疑念を差し挟む人を「気候懐疑派」として糾弾することが通例ですが、異なる意見に対する寛容度の低さは中世の異端審問と通ずるものがあります(p57)
・インドには・・・石炭火力発電所の多くは老朽化しており、より効率的な石炭火力へのリプレイス(建て替え)が必要である。先進国の主張により、石炭火力への融資が制限されれば、古い石炭火力が使われ続けることになるだろう(p64)
・イエローベスト運動・・・直接のきっかけとなったのは、炭素税増税による燃料費の高騰、生活費の高騰でした。デモ隊は、「エリートたちは世界の終わりのことを語っている。自分たちは月末のことを語っているのだ」というスローガンを掲げました(p128)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 地球温暖化問題とは何か
第2章 パリ協定への長い道のり
第3章 「脱炭素教の巫女」グレタ・トウーンベリと環境原理主義
第4章 「地球温暖化防止のリーダー」欧州の実像
第5章 コロナウイルスと地球温暖化
第6章 環境原理主義に傾く米国バイデン政権
第7章 「カーボンニュートラル祭り」とその不都合な真実
第8章 漁夫の利を得る中国
第9章 日本を滅ぼす3つの原理主義
第10章 脱炭素化にどのように取り組むべきか
著者経歴
有馬 純(ありま じゅん)・・・東京大学公共政策大学院特任教授。1982年、東京大学経済学部卒業、同年、通商産業省(現経済産業省)入省。OECD(経済協力開発機構)日本政府代表部参事官、IEA(国際エネルギー機関)国別審査課長、資源エネルギー庁国際課長、同参事官などを経て、2008年、大臣官房審議官地球環境問題担当。2011年、JETRO(日本貿易振興機構)ロンドン事務所長兼地球環境問題特別調査員。2015年8月より東京大学公共政策大学院教授、2021年4月より同大大学院特任教授、現職。21世紀政策研究所研究主幹、RIETI(経済産業研究所)コンサルティングフェロー、APIR(アジア太平洋研究所)上席研究員、ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)シニアポリシーフェローを兼務。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)『第六次評価報告書』執筆者。これまでCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に15回参加。
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