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交渉に負けてばかりの日本「地球温暖化交渉の真実 - 国益をかけた経済戦争」

2020/12/22公開 更新
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「地球温暖化交渉の真実 - 国益をかけた経済戦争」


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

地球温暖化の議論を見ていると「ポーカーをやり始めて20分たっても、まだ誰がカモかわからない人は、自分がカモなのだ。」という言葉を思い出します。この本では経済産業省出身の著者が2001~2002年,2008~2011年に地球温暖化交渉に関与しながら、その実務者としての感想を述べています。


京都議定書の採択が1997年,第一約束期間が2008~2012年ですから,著者は第一約束期間の詳細ルールの交渉を行い,その後,第二約束期間に向けた交渉に参加しているのです。そもそも1997年の京都議定書の採択では,1990年比で日本-6%、米国-7%、EU-8%のCO2削減が法的拘束力を持つとされました。中国・インドは批准しておらず,米国も後に離脱。EUの-8%は、東欧統合やガス転換によって努力せずに達成できる目標水準だったのです。


・「議決いたしました(It is so decided)!」大木浩環境庁長官が議長席で誇らしげに木槌をおろし、会場に大きな拍手が沸いた。1997年12月、京都での気候変動枠組条約第三回締約国会合(COP3)で京都議定書が採択された瞬間である・・・テレビで流れるこの映像を複雑な思いでながめていた。京都議定書が米国、EUに比して日本に重い負担を強いることを知っていたからだ(p12)


EUの作戦は、15%削減という達成不可能な大きな目標を最初に提示し、妥協したことにしてEUが達成可能な8%を「国際合意達成のため」受け入れる形にするものだったという。ちなみに、EUは東西ドイツ統合や英国の石炭から天然ガスへの燃料転換で、1990年比8%削減であれば自然なりで目標達成可能だったのです。


同じように米国では、上院で3分の2の賛成が必要でしたが、「議定書に米国は参加すべきではない」という決議が全会一致で採択されており、米国が条約を批准する可能性はまったくなかったのです。つまり日本だけが守れないCO2削減を京都議定書で約束し,守れない分は他国から購入するはめに陥ったのです。交渉においては環境NGOが日本に化石賞を贈ったり,マスコミや左派勢力が日本に議定書批准の圧力をかけていることに著者は苦言を呈しています。


・「日本が第二約束期間に反対しているのは、全ての国が入る公平で実効性のある枠組みという大きな目的を重視するからである」と辛抱強く説明した。途上国の中でも中国のように日本の対応を厳しく批判する国もあったが、・・・欧州委員会のヘデゴー委員は松本大臣に対し第二約束期間受け入れを強く迫り、激しいやり取りになったらしい(p132)


日本は第二約束期間について,「全ての国が公平で実効性のある枠組み」がないとして参加していません。米国,中国,インドが参加しない中で世界の3%しかCO2を排出していない日本が、CO2を削減してどんな意味があるのでしょうか。


さらに,著者は科学的根拠に乏しいIPCCの地球温暖化を絶対視し,財政支出していくことに警鐘を鳴らしています。多くの国々は地球温暖化を主張しながら負担を他国に押し付けようとし、まじめにCO2を減らそうと考えているのか、カモは誰なのか考える必要があるのでしょう。


ゲームに負けた歴史として京都議定書を記憶に留め,再度ゲームに負けないようにしたいものです。有馬さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・温暖化交渉の場ではIPCC報告書の特定部分をつまみ食いし、科学による最終判決であるかのごとく主張し、それに異論をさしはさむと「科学を無視している」と攻撃することが日常茶飯事だ(p155)


・温暖化交渉に参加したての頃は、日本が化石賞を受賞するとショックを受けたものだったが、次第に気にならなくなった。欧州のNGOの影響が強く、EU、途上国の立場を代弁することが多いという構図が見えてきたからである(p23)


・先進国が「地球規模の課題に対応するためには先進国、途上国が責任を共有すべきである」と主張したのに対し、途上国は「先進国の緩和は法的義務、途上国の緩和は自主活動」という二分論で応酬する(p91)


・ロシアはボン会合の最終局面で「自分たちの数字が少なすぎて受け入れられない」と大立ち回りを演じ、ロシアの数字についてはCOP7で継続協議ということになった・・・日本人は生来、対立を嫌うことに加え、国際交渉で孤立することへの恐怖心が強い・・・ロシアの胆力を少しは見習った方がいいかもしれない(p36)


・党首討論で鳩山民主党代表が小泉首相に対して「政府は議定書を批准するのか、しないのか」と声高に迫る姿をテレビで見て「国益をかけた国際交渉を政争の具にしてほしくない」と暗澹たる気持ちになった(p35)


・民主党は2020年までに1990年比25%減とするとの目標をマニフェストに盛り込んでいた。これは6月に麻生首相が発表した2005年比15%減を一挙に3倍に上乗せするものであり、日本の温暖化交渉戦略に大きな変更を強いることは確実であった(p82)


・日本は25%目標と150億ドルの鳩山イニシアチブをかかげて交渉に臨んだ・・・仮に日本の目標が90年比40%減であったとしても、05年比15%減のままであったとしても,COP15は同じような展開を辿ったであろう。「日本の目標値で交渉を左右する」という自意識過剰の発想からはいい加減卒業した方が良い(p104)


▼引用は、この本からです
「地球温暖化交渉の真実 - 国益をかけた経済戦争」
有馬 純、中央公論新社


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

第1章 京都議定書交渉の敗北からの出発
第2章 温暖化交渉への参戦
第3章 米国の議定書離脱と苦い教訓
第4章 ポスト議定書枠組み交渉の胎動とバリ行動計画
第5章 KPの首席交渉官に
第6章 二度の中期目標発表とコペンハーゲンへの道のり
第7章 COP15の失敗とコペンハーゲン合意
第8章 カンクンへの道のり
第9章 COP16と第二約束期間との決別
第10章 温暖化交渉はなぜ難航するのか
第11章 「環境先進国」EUの苦悩
第12章 ポスト二〇二〇年枠組み交渉の開始
第13章 COP21で何が争われるのか
第14章 温暖化交渉に日本はどう臨むべきか



著者経歴

 有馬純(ありま じゅん)・・・1982年東京大学経済学部卒。同年通商産業省入省。入省時を含め、資源エネルギー庁国際資源課に4回勤務(新入生、補佐、企画官、課長)。1996年から3年間OECD日本政府代表部参事官、2002年から3年間IEA(国際エネルギー機関)国別審査課長。2001~2002年、資源エネルギー庁企画官として、2008~2011年、大臣官房審議官地球環境問題担当として、地球温暖化交渉に関与。気候変動枠組条約締約国会合(COP)にはこれまで11回参加。2011~2015年日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所長兼経済産業省地球環境問題特別調査員。2015年8月より東京大学公共政策大学院教授


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