人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「中国の領土紛争: 武力行使と妥協の論理」テイラー・フレイヴェル

2024/01/31公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

「中国の領土紛争: 武力行使と妥協の論理」テイラー・フレイヴェル


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー

中国は最近武力侵攻したことがない

著者はパンダハガー(親中派)の巣窟と言われるハーバード大学のフェローを経験しているので、中国をどう分析しているんだろうと手にした一冊です。2008年に書かれた本ですので、予想通り日本の親中派マスコミと同じような書き方となっています。アメリカが中国の脅威に気づくのは、2015年のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の頃からです。


面白いのは中国は1949年から6回も領土紛争で武力行使していますが、著者は6回しかしていないと評価しています。さらに南シナ海では武力行使したが、内陸では武力による侵攻をしてこなかったとも書いています。確かにメキシコの土地を奪ったアメリカに比べれば、たったの6回の武力行使だし、武力侵攻していないという評価もできるのでしょう。


また、チベットや新疆ウイグル自治区での弾圧についても、淡々と事実を記載するのみです。確かにアメリカは先住民の土地を奪い、居留地という名の収容所に押し込んだ国だから、批判すべきことでもなく許容範囲なのでしょう。


中国は1949年以降、隣国との間で陸上や海上における23の領土紛争にかかわってきた・・・6つの領土紛争においては武力を行使した(p2)

中国の行動原理


著者は、中国の国内情勢が不安定になったり、中国が国際的に孤立すると領土紛争において妥協してきた歴史から、最も差し迫った脅威に対抗するために同盟を形成する傾向にあると分析しています。つまり、最優先事項に対処するために、他の問題では妥協することができるということです。これは安倍首相のときに、中国が主導して歴史問題によってロシア、韓国、アメリカで「反日統一共同戦線」を作ろうとしたことからも納得です。


また、中国が武力行使した事例を分析して、支配力が低下したと認識した場合に武力行使してきたことから、予防戦争の理論に基づくのではないかと分析しています。つまり、支配力が低下することで、将来不利な戦争を行うリスクを減らすために戦争をするという理論です。


私はこの「予防戦争の理論」は、中国には当てはまらないと思いました。日本人にも面子があるので私なりの推測ですが、支配力が低下することで中国指導者の面子が潰された状況を打破するために武力行使するのではないかというのが、私の感覚です。


中国は支配力が低下したと認識した場合に領土紛争をエスカレートさせるという議論は、予防戦争の理論にさらなる説得力を与える(p319)

中国は武力より謀略

中国は国家間の約束を守りません。香港でも一国二制度を50年維持すると約束していましたが、25年で反故にしました。チベットでも中国は、「17カ条協定」でチベットの政治や制度を変更しないことを約束していたのに3年で反故にしているのです。中国では騙される奴が悪いのです。


平和憲法を持った日本から見れば、中国の歴史は紛争の歴史です。安倍首相が評価されるのは、アメリカが中国の脅威に気づき、中国包囲網を作ろうと考えるより前に、同じことを提唱していたからなのでしょう。フレイヴェルさん、よい本をありがとうございました。


無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信)
3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。

この本で私が共感した名言

・1990年代初期から中期にかけて、中国政府は新疆の安定を維持し、迫り来る民族的ナショナリズムを叩き潰すために・・分離主義運動の容疑者を迅速かつ時に暴力的に取り締まった・・新疆への国家補助金を増加させた(p161)


・1989年の天安門事件・・中国は領土問題において譲歩するのと引き替えに、外交的孤立に対抗(p8)


・1988年3月14日、中国軍とヴェトナム軍が、スプラトリー諸島のジョンソン礁において衝突した。この戦闘において、三隻のヴェトナムの艦艇が撃沈され、74名の死者が出た(p298)


・1980年10月には、中国はヴェトナムの国境地帯に位置する麻栗坂という町の周辺に位置する老山と老陰山を攻撃した・・ヴェトナムは五回に及ぶ反撃に転じた(p226)


・1969年・・ウスリー川の珍宝島で中国の警備隊二隊がソ連の国境警備隊を襲撃した・・これらの衝突で、中国は91名の死傷者(30名が死亡、61名が負傷)を出し、他方でソ連は200名以上の死傷者(およそ91名が死亡し、109名が負傷)を出した(p210)


▼引用は、この本からです
「中国の領土紛争: 武力行使と妥協の論理」テイラー・フレイヴェル
テイラー・フレイヴェル、勁草書房


【私の評価】★★★☆☆(76点)


目次

序論
第1章 領土紛争における協調とエスカレーション
第2章 一九六〇年代の辺境部の紛争における協調
第3章 一九九〇年代の辺境部の紛争における協調
第4章 辺境部の紛争におけるエスカレーション
第5章 国家統一をめぐる紛争
第6章 島嶼部における紛争
結論
エピローグ 尖閣諸島をめぐる紛争―なぜ中国はエスカレーションを選んだのか
付録 中国の領土紛争の起源概観



著者経歴

テイラー・フレイヴェル(M. Taylor Fravel)・・・1993年にミドルベリー大学卒業. 2004年にスタンフォード大学大学院博士課程修了, Ph. D. (政治学)を取得. ハーヴァード大学フェロー, マサチューセッツ工科大学准教授などを経て, 現在:マサチューセッツ工科大学政治学部教授. 専門は国際関係論, とくに中国・東アジアの安全保障.


この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ


ブログランキングにほんブログ村



<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本


コメントする


同じカテゴリーの書籍: