【書評】「日本のインフラ危機」岩城 一郎
2026/06/05公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(81点)
要約と感想レビュー
日本のインフラ危機の現状
日本は平地が少なく、橋やトンネルが多い国です。これらのインフラの老朽化が深刻な課題となりつつあることを、専門家の視点から警鐘を鳴らした一冊です。
日本の橋の建設ピークは1970年代であり、現在ちょうど多くの橋が寿命を迎えつつあります。
日本のインフラ建設投資額は1992年度の84兆円をピークに、民主党政権下の2009年度から2012年度には42兆円にまで半減しました。現在は80兆円まで戻していますが、インフレで実質的な工事量は増えていないのです。
道路1キロあたりの維持予算を見ると、高速道路で年5800万円、国道で年2500万円に対し、市町村道はわずか年100万円です。予算と人材の両面で厳しい状況に置かれた市区町村のインフラの維持が、今、危機にあるのです。
海外ではすでに橋の崩落事故が起きており、日本でも他人事ではありません。
日本の建設投資額のピークは1992年度(平成4年度)の84兆円・・・「コンクリートから人へ」のスローガンを掲げた民主党政権下の2009年度から2012年度にかけて42兆円程度にまで落ち込みました(p53)
コンクリートの劣化の原因
著者はコンクリート工学の専門家として、コンクリートの劣化問題を指摘しています。
1897年建設の小樽港北防波堤が100年以上使われているように、かつてのコンクリートは長寿命と考えられていました。水の量を抑えた固いコンクリートを人の手で丁寧に締め固めていたことが理由と考えられています。
ところが高度成長期以降、コンクリートポンプ車による施工が普及し、水の多いやわらかいコンクリートが使われるようになりました。その結果、耐久性が大きく低下したといわれています。
また、寒冷地の凍害と考えられていたひび割れの多くが、50年ほど前からアルカリシリカ反応であることがわかってきました。海外ではセメントをフライアッシュと一部置き換えることでアルカリシリカ反応を予防するのが一般的ですが、日本ではいまだに普及していません。
また、下水管内での硫化水素によるコンクリートの剥離・減肉も、見逃せない問題です。
塩害やアルカリシリカ反応に特に効果が高いとされながら、これまであまり広く使われてこなかった「フライアッシュ」という材料を、セメントと一緒に使う(p117)
フライアッシュで耐久性とコストを両立する
著者が提案する解決策が「高耐久コンクリート」の活用です。コストは約2割増えますが、長期的にはコスト削減につながります。
具体的には、セメントの一部をフライアッシュで置き換え、水の割合を減らし、膨張剤・エポキシ樹脂塗装鉄筋・AE剤を組み入れる方法です。この結果、ひび割れやアルカリシリカ反応がほとんど発生しない、塩害に強い耐久性の高いコンクリートが実現できたといいます。
フライアッシュはセメントの一部を置き換えるためセメント量が減り、コスト削減となります。海外ではすでに一般的な材料であるだけに、なぜ日本で普及しないのか、フライアッシュの生産者である電力会社や発注者であるゼネコン・行政の担当者にぜひ聞いてみたいものです。
コンクリート構造物の高耐久化・・水セメント比(水結合材比)の低減、フライアッシュの利活用、膨張剤の使用、防錆鋼材の使用、十分な空気量の確保(p119)
適切な補修がインフラ寿命を延ばす
新設だけでなく、既存インフラの「延命」も重要な視点です。著者はアセットマネジメント、すなわち計画的な補修の重要性を訴えています。
青森県の橋の予算を試算した結果によれば、橋が傷んでから架け替えると50年間で約2000億円かかるのに対し、傷んでから修理すると約1500億円、傷む前に計画的に補修すれば約800億円と、コストを抑えられます。
補修方法として、コンクリート構造物を外面から補強したり、表面塗装や電気防食など、具体的な補修手法が紹介されています。
本書を読んで、日本のインフラが静かに危機を迎えていることがわかりました。
地方の小規模自治体は集約を進める必要があるでしょうし、海外では常識となっているフライアッシュセメントが一日も早く日本でも普及してほしいと思います。
岩城さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・約2000年前のローマ帝国時代にコンクリートで作られた「パンテオン」という歴史的建造物が現存しています・・・このコンクリートには鉄筋などの鋼材が使われていなかった(p7)
・カナダ・モントリオール市郊外(デラコンコルド跨道橋)・・・1971年に建設され、2006年9月30日に崩落し、5名の方が亡くなりました(p38)
・イタリア・ジェノヴァ(モランディ橋)2018年・・・崩壊し、43名が犠牲となりました。1967年に完成した長さ1182メートルのコンクリート製の斜張橋(p39)
・日本と外国の橋の状況
| 国名 | 橋の数 | 国土面積km2 | 橋の密度 | 日本に対する各国の比 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 73万 | 37万 | 1.93 | 1.00 |
| 米国 | 62万 | 983万 | 0.06 | 0.03 |
| ドイツ | 12万 | 35万 | 0.34 | 0.17 |
| フランス | 20万 | 55万 | 0.36 | 0.19 |
| イギリス | 15万 | 24万 | 0.62 | 0.32 |
| 中国 | 80万 | 960万 | 0.08 | 0.04 |
▼引用は、この本からです

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岩城 一郎(著)、講談社
【私の評価】★★★★☆(81点)
目次
第1章 日本のインフラはどうなっているのか?
第2章 インフラはどのように劣化するのか?
第3章 「良いインフラ」をどう造るか?
第4章 「今あるインフラ」を長持ちさせるには?
第5章 地域のインフラはみんなで守る
第6章 インフラの「残された課題」
著者経歴
岩城 一郎(いわき いちろう)・・・1963年生まれ。日本大学工学部工学研究所長・土木工学科教授。博士(工学)。東北大学大学院修士課程修了後、首都高速道路公団、東北大学を経て現職。コンクリート構造物の高耐久化やインフラのメンテナンスを専門とし、地域住民との協働による「橋の歯磨きプロジェクト」に取り組む。
コンクリート関連書籍
「日本のインフラ危機」岩城 一郎
「コンクリート業界の革命児が挑む 老舗イノベーション」會澤 祥弘
「コンクリート崩壊 危機にどう備えるか」溝渕 利明
「コンクリートが危ない」小林 一輔
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