「コンクリート業界の革命児が挑む 老舗イノベーション」會澤 祥弘
2022/07/16公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
コンクリートはピークから出荷量が半分
日本のコンクリート業界について勉強しようと手にした一冊です。この本は北海道の會澤高圧コンクリートのブランディングのために企業出版されたもので、若干差し引いて読み進めました。コンクリート業界は1990年のバブルのピークから出荷量が半分になっています。東日本大震災の復興需要で一部盛り返していますが、セメント会社の合併が進んでいることからも厳しい業界であることは間違いないのでしょう。
そうした中で會澤高圧コンクリートは、生コンクリート、プレキャスト製品販売で700人の従業員で売上200億円を維持しています。
2000年には、欧米で導入されている生コンをミキサー車で練り混ぜるトラックミキシング製法と、注文が入ると自動で近くのトラックに材料を積むことのできるネットワーク化された無人プラントも導入しています。さらに、會澤高圧コンクリートはコンクリートの3Dプリンターや自己治癒コンクリートの研究開発を行っています。コンクリート業界の革命児と自称いているだけあるのでしょう。
標準部材のパネルをPCで連結してPCタワーを構築、その上に既存の鋼製タワーを載せて嵩上げする世界になり鉄とコンクリートのハイブリッドタワー工法(p102)
コンクリート協同組合は独占禁止法適用除外
この本を読んで知ったのは、各県にあるコンクリート協同組合は独占禁止法の適用除外を受けた合法カルテルということです。著者も生コンの合法カルテルに課題があることは百も承知です。各社のシェアと生コン価格を統一しているのですから、昔の電力業界の総括原価方式にも近いものといえるのでしょう。原価のチェックがないだけ、もっとゆるいのかもしれません。
そうした緩さに危機感を持っているからこそ、著者は研究開発、海外事業に取り組んでいるということだと理解しました。また、オーナー企業だからこそ、そうした多角化の投資リスクを取れるし、撤退・損切りの判断も早いように思われました。アメリカという自由の国を知る著者が、規制の国、日本で苦しみながらコンクリート業界の革命に挑戦しているというのが、この本の言いたいことなのでしょう。
協同組合のインサイダーとして"合法カルテル"の恩恵も受けている・・・守られた環境は、恐竜のように絶滅してしまうリスクと常に背中合わせです(p150)
會澤高圧コンクリートとは
経営では京セラのアメーバ経営を取り入れる、東日本大震災で中国撤退を決断するなど、オーナー企業らしく経営判断が早いことが印象的でした。ただ、アメーバ経営自体は、全体最適がおろそかになったという理由で辞めています。企業出版の本なので、この本だけでは會澤高圧コンクリートという会社を評価することはできませんが、チャレンジする会社であることは間違いないようです。
私も欧米に1年ほどの駐在経験の中で、どうして欧米で流通しているフライアッシュコンクリートが、日本では流通していないのだろう?という問題意識を持っています。この本にその答えはありませんでしたので、もう少し調査を続けたいと思います。
會澤 さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・コンクリート業界には、スーパーゼネコンなどが手掛ける大規模な仕事はありがたる反面、一回の打設量が少ない住宅案件を軽んじる差別意識が染み付いていたのです(p32)
・モンゴル初のタワープラントを完成させました(p148)
・28歳で役員に任命した社員もいるなど、ごぼう抜き人事は当たり前です(p168)
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
序章 次代へ向けて―未来につながる種をまく
第1章 戦わずして道は開けぬ 業界の悪しき習慣を疑え
第2章 成熟技術にこそフロンティアを見よ 未知なる可能性を探求する
第3章 老舗だからこそ"最先端"を取り入れる 生き残るために進化を止めるな
第4章 企業の成長には「喜怒哀楽」が不可欠 イノベーションを起こすために必要な経営者のポリシー
第5章 サステナブルなファミリーエンタープライズで「真の老舗企業を目指せ」
著者経歴
會澤 祥弘(あいざわ よしひろ)・・・1965年北海道静内町(現・新ひだか町)生まれ。會澤高圧コンクリート株式会社3代目。中央大学卒業後、日本経済新聞社に入社。12年間の記者生活では米州編集総局(ニューヨーク)駐在などを経験。1998年、家業である會澤高圧コンクリートに入社。無人ネットワーク型プラントの創設を主導するなど、次々とイノベーションを起こす。2008年、代表取締役社長に就任。現在は、真の老舗企業になるべく、4代目にバトンを渡す準備を進めている。
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