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「物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国」黒川 祐次

2022/02/22公開 更新
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「物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国」黒川 祐次


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

ロシア革命後ソ連がウクライナに軍事侵攻

ウクライナでロシアが軍事的圧力を強めていることから、ウクライナの歴史を学ぶために手にした一冊です。ウクライナ語ができたのは14~17世紀でポーランド、リトアニアが現在のウクライナ西部を支配していた頃です。ウクライナの東部はロシアの勢力圏内でしたが、ウクライナ西部は帝政ロシアの支配下に入ったことはないのです。18世紀末になるとポーランド、トルコの力が弱まり、第一次世界大戦までの約120年の間、現在のウクライナの8割がロシア帝国、西部の2割がオーストリア帝国に支配されることになります。


第一次世界大戦では、ロシアの連合国とオーストリアの同盟国との戦争となったため、同じウクライナ人が敵味方に分かれて戦うことになってしまいました。その後、1917年のロシア革命後もロシア・ソビエト政府がウクライナに軍事侵攻し、ドイツ・オーストリアの支援を受けるものの、結局ソ連に組み込まれることになってしまうのです。


ソ連に支配されると農業集団化が行われ、穀物はほとんどソ連政府に徴収されてしまいました。さらに天候不順で穀物生産が激減し、ウクライナの多くの国民が餓死してしまったのです。さらにソビエト政府による政治的な虐殺も起きています。ソ連はウクライナから徴発した穀物を海外に輸出し、獲得した外貨で工業化を推し進めたというのですから、ソ連の重工業はウクライナ人の血で作られたようなものなのでしょう。


・14世紀半ばにハーリチ・ヴォルイニ公国が滅亡してから、17世紀半ばにコサックがウクライナの中心勢力になるまでの約300年間・・ロシア、ウクライナ、ベラルーシのさん民族に分化した・・・モスクワ大公国、ポーランド王国、リトアニア大公国と分割され、それが長期間固定されたことがある(p59)


ウクライナは黒海への出口

ウクライナがかわいそうなところは、常に東からロシア、西からドイツ、南からトルコの軍事圧力を受けて、他国に支配されてきたということでしょう。ウクライナは豊かな穀倉地帯とロケット製造能力さえ持つ高い科学技術と黒海への出口としての地理的優位性を持っているがゆえに、周囲から侵攻されるリスクを持っているのです。 


ソ連の崩壊によってウクライナは独立を果たしましたが、結局、クリミアをロシアに併合され、今回もウクライナ東部をロシアに奪われるのでしょう。民間人の被害を増やさないために侵攻したロシアに抵抗しないよう推奨する人がいますが、ロシアに支配されてどうなるのか、ソ連時代に自由な生活を奪われたウクライナ人は、身に染みてわかっているはずなのです。


・1917年12月ペトログラードのソビエト政府は、レーニン、トロツキー署名の最後通牒をウクライナ政府に送り・・・武力でウクライナを奪い取ることを決めた(p181)


強国に囲まれたウクライナという国家

ドイツとロシアとトルコという周囲を強国に囲まれたウクライナという国家の悲しさがわかりました。陸続きであるがゆえに、国防には限度があるという現実と、今回のウクライナ問題がどのようになるのかわかりませんが、ヨーロッパの歴史は勢力範囲をめぐっての戦争の歴史であるということも再認識しました。ドイツが国防費の増加を決定したように外交とは力であるということを、ヨーロッパの人々は知っているのだと思います。


また、欧米諸国に比べれば日本という国家が数千年続く歴史を持って存在することが奇跡的であり、幸運な国家であると思いました。周囲を海という障壁で守られていることがあると思いますが、太平洋戦争の敗戦後でも、日本人の虐殺や強制移住や収容所が作られることはなかったからです。黒川さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・13~15世紀に神聖ローマ帝国内で対ユダヤ人迫害が強まったため、ポーランドでのユダヤ人優遇策に惹かれて多数が移民してきた・・・1648年頃には全体でおよそ50万人、人口比で5%に達した(p72)


・15~16世紀にモスクワ大公国とリトアニア大公国はかつてもキエフ・ルーシの土地をめぐって長期にわたり争い、モスクワは少しずつリトアニアの領土を削り取っていった(p77)


・スターリンは1933年の飢饉の責任をウクライナ共産党員になすりつけた・・・ウクライナ共産党は10万人の党人を失ったという(p215)


・1853~56年にクリミア戦争が起きた・・・東欧や地中海に進出しようとしたロシアを英・仏がトルコを助ける形で食い止めようとした典型的かつ大規模な帝国主義戦争であった(p140)


・ロシア帝国内のウクライナでは、・・1880年代から20世紀のはじめにかけてウラル山脈以東に大挙して移民した・・・現在でもロシア極東地方の住民は、過半数がウクライナ人だといわれる(p143)


・1918年2月・・・ドイツ・オーストリアはウクライナ政府を支援・・・その代償としてウクライナ側は食料100万トンを供給するとしたものである(p183)


▼引用は、この本からです
「物語ウクライナの歴史」


【私の評価】★★★☆☆(75点)


目次

第1章 スキタイ―騎馬と黄金の民族
第2章 キエフ・ルーシ―ヨーロッパの大国
第3章 リトアニア・ポーランドの時代
第4章 コサックの栄光と挫折
第5章 ロシア・オーストリア両帝国の支配
第6章 中央ラーダ―つかの間の独立
第7章 ソ連の時代
第8章 350年間待った独立



著者経歴

黒川祐次(くろかわ ゆうじ)・・・1944年(昭和19年)、愛知県に生まれる。東京大学教養学部卒業。外務省入省後、在モントリオール総領事、駐ウクライナ大使・駐モルドバ大使(兼務)、衆議院外務調査室長などを経て、現在、駐コートジボワール大使、駐ベナン・ブルキナファソ・ニジェール・トーゴー大使(兼任)


ウクライナ関係書籍

「物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国」黒川 祐次
「ウクライナ人だから気づいた日本の危機」グレンコ・アンドリー
「暗黒地帯(ダーク・ゾーン)(上・下)」トム・クランシー
「悲しみの収穫―ウクライナ大飢饉」ロバート・コンクエスト


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