「紅衛兵とモンゴル人大虐殺―草原の文化大革命」楊 海英
2022/02/16公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
中国新疆ウイグル自治区でジェノサイドが行われていると批判されていますが,文化大革命の1960年代にも内モンゴル自治区でジェノサイドが行われていたということを説明した一冊です。歴史は繰り返す。モンゴルとウイグルで共通点があるのではないかと思いながら読み進めてみました。
モンゴル自治区での殺戮のきっかけは,中央での造反派の拡大でした。1960年代、毛沢東の支持を得た学生を中心とした造反派の紅衛兵(こうえいへい)が、保守派の党幹部や地方の役人を攻撃したのです。内モンゴル自治区でも保守派の内モンゴル軍と造反派の紅衛兵が対立します。ところが、もともと造反派の活動は毛沢東が政敵を打倒するために学生を利用していただけなので、政敵が一掃されると造反派は無用となり、紅衛兵は地方に追放されてしまいました。
造反派の紅衛兵は、自分の生き残りのために新しい敵を作らなくてはならず、それがモンゴル人だったのです。中国国内の保守派と造反派という派閥の争いが,造反派モンゴル自治区でモンゴル人殺戮に変換してしまうという構図になってしまったのです。現在でも中国では反習近一派が権力を握るために、腐敗撲滅という名のもとに粛清が行われていると言われています。派閥争いのために敵を作り出し、粛清するのは今も昔も中国の伝統なのです。
・都市部から草原に流されてきた呼三司系統の紅衛兵はモンゴル人を虐殺する運動に積極的に関わっていたことを自慢している(p241)
内モンゴル自治区では150万人のモンゴル人のうち、30万人以上が逮捕されたと言われています。新疆ウイグル自治区では1000万人のウイグル人のうち、100万人以上が強制的に再教育施設に収容されているといわれていますので、これくらい逮捕すれば、その民族を支配できるということなのでしょう。
また、内モンゴル自治区ではモンゴル人の倍以上の400万人もの中国人が入植しました。土地はモンゴルの人の土地を配分したのです。新疆ウイグル自治区でも、中国人の入植が進みウイグル人と中国人の人口が同じくらいになっています。近いうちに中国人の人口のほうが多くなるのでしょう。
さらに、当時、自治区外にいたモンゴル人を自治区に連れ戻して、暴力を加えていました。現在も同じように海外にいるウイグル人は、自治区にいる家族を人質に取られて帰国するよう脅迫されています。また,犯罪人引渡条約を利用して他国から中国に強制送還されるウイグル人も増えており、モンゴルと現在のウイグルはまったく同じだと思いました。中国の紅い手は,世界のどこにでも届くのです。
そして、モンゴル語の禁止。現在、内モンゴル自治区で漢語で教育が行われているように、新疆ウイグル自治区でも漢語で教育が行われています。いずれウイグル語、モンゴル語も禁止されるのでしょう。
・人口約150万人弱のモンゴル人を対象に、中国政府と中国人(漢民族)は34万6000人を逮捕し、2万7900人を殺害し、12万人に身体障碍を残した・・・モンゴル人の犠牲者数は30万人に達する、との調査結果を公表している知識人もいる(p11)
やはり歴史は繰り返すのだ、と思いました。モンゴルの悲劇が、ウイグル、チベットで繰り返されているだけなのです。共産党体制とは「ブルジョアを粉砕せよ」、「民族分裂主義を打倒せよ」という名目で,簡単に人を逮捕,拷問し,殺すことのできる体制であることに恐怖しました。さらにウイグルでは遺伝子情報を収集して臓器提供ビジネスに利用したり,避妊薬を飲ませたり,避妊手術を行うなど,ジェノサイドも高度化されています。
マスコミがウイグル問題を報道しないこと、近くの駅前で通勤時間に共産党が演説していることなど,日本の未来の不安を増長させます。日本は大丈夫かもしれませんが,ダメかもしれない場合も想定しておかないといけないと思いました。楊さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・モンゴル人大虐殺運動は中国政府に直属する「フフホト市群衆専政指揮部」・・・機関紙「総合戦報」・・・殺せ!殺せ!殺せ!「総合戦報」を投槍のように中国のフルシチョフ(である劉少奇)と、現代の殿様である(ウラーンフー)と、それにハーフンガ(に刺し、彼ら)を粉々になるまで粉砕しよう(p332)
・大量虐殺の他、母国語の禁止と集団の強制移住、そして女性への組織的な性暴力も発動された(p14)
・1968年1月6日から18日にかけて、内モンゴル自治区革命委員会第二回全体会議がフフホト市で開かれた。会議において「ウラーンフーの黒いラインに属す者を抉(えぐ)りだし、その毒害を一掃する運動」の発動が正式に決定された(p58)
・モンゴルのエリート層を「日本帝国主義のために中国人民を殺害する下手人だった」と批判すれば、中国人のモンゴル人への憎しみも容易に増幅される。呼三司はこのような煽動を通してジェノサイドの拡大を促進していったのである(p201)
・自白すれば寛大に、抵抗すれば厳罰に処す・・・「内モンゴル人民革命党員」と「内モンゴル人民革命青年団の団員」は「震えあがって投降し、活動状況について白状した」という
(p295)
・モンゴル人研究者のボルジギン・ラムジャブがモンゴル語で文革に関する著者「紅色革命」を出版すると、政府はただちに彼を逮捕し、2019年に懲役二年の実刑判決を言い渡している(p356)
▼引用は、この本からです
【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
プロローグ 本書の目的と構成
序章 文革研究の現状が示す世界の中国認識
1 学生造反派の民族観と思想
第1章 内モンゴル草原の造反派と保守派
第2章 造反派新聞が描く初期文化大革命
第3章 「フフホト市第三司令部」の誕生
第4章 煽動されたジェノサイド
第5章 内モンゴル人民革命党員の粛清
第6章 暴力と抗争、そして動揺
第7章 消滅される造反派
第8章 第九回全国党大会の開催
2 労働者と知識人、農民の造反
第9章 立ち上がる労働者
第10章 知識人の『魯迅』と『新文化』
第11章 暴力の総結集
第12章 モンゴル語の中国的変容
第13章 加害行為が物語るジェノサイドの規模
エピローグ 「夷を以て夷を制す」現代中国
著者経歴
楊海英(よう かいえい)・・・1964年南モンゴル・オルドス高原生まれ。静岡大学教授。北京第二外国語学院大学日本語学科卒業。
モンゴル問題関係書籍
「中国人の少数民族根絶計画」楊海英
「中国の移植犯罪 国家による臓器狩り」 デービッド・マタス、トルステン・トレイ
「紅衛兵とモンゴル人大虐殺―草原の文化大革命」楊 海英
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