「ホンダジェット: 開発リーダーが語る30年の全軌跡」前間 孝則
2022/02/15公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
ホンダはビジネスジェット機を開発・販売しています。それもエンジンと機体を独自開発したホンダジェットは、高速・低燃費・低騒音であり、小型機のスポーツカーとも言われ赤字ながら販売は好調です(ジェットエンジンは、エンジンのメンテナンスで稼ぐビジネスモデルなので最初は赤字となる)。
三菱重工業も90人乗り程度のリージョナルジェットを開発してきましたが、ジェットエンジンは外部調達しているのに、型式認定試験に適合させるための設計見直しが続き、事実上開発が凍結されてしまいました。三菱重工業もアメリカで開発するべきだった、経験と開発をリードする人材が育っていなかったなど、いろいろ言われているようですが、ホンダジェットの本質的な成功の秘訣は何だったのか、知りたくてこの本を手にしました。
まず、アメリカで開発を行ったのがもっとも大きい成功のポイントであったのは間違いないようです。逆に言えば、三菱重工業はなぜ国内主導で開発を行ったのか、という疑問が残ります。国の支援を前提としたプロジェクトであったことが、敗因なのでしょうか。
・川本は語った。「僕は最初から、日本でやるのは絶対にダメと決めていた。日本は民間の飛行機を飛ばす環境にない。お役所の体制もほんのわずかしかないし、研究の情報も流れてしまう(p74)
印象的だったのはホンダジェットの開発体制は業界の常識の三分の一以下の少人数であるということです。少人数で自主製作だから、風洞実験中に変更点があっても、普通の会社は外注して数ヶ月かかる機体の変更を徹夜で修正して実験してしまう。ジェットエンジン開発も普通の会社は5,6年かかるところを、6年で3種類も開発しているのです。最近の自動車会社は外注が多いようですが、ホンダジェットは少人数での自主開発であり、自分で手を汚して開発するので、スピードが早く、ノウハウを蓄積することができたということなのでしょう。
また、ホンダの中で、ホンダが航空機をやるべきではない、リスクが高いという意見はありました。また、抵抗が大きくなるので主翼の上にエンジンを置いてはいけないという業界の常識の中で、あえて主翼の上にエンジンを置く。なぜ、他のメーカーと同じようなオーソドックスなやり方をしないのかという意見もありました。藤野プロジェクトリーダーが主張したのは、「他のメーカーと同じようなものを、ホンダがつくって、なにか意味があるのか」ということ。革新的で、魅力のある製品をつくって小型ジェット業界を変えるのがホンダではないのかということです。そうした意見が通るのがホンダなのです。
・『主翼の上にエンジンを置くことはダメだ』・・そうした固定観念に囚われず、いろいろとトライし、最適なスイートスポットを見つけたことで、かえって抵抗が下げられるということを明らかにしました(p143)
ホンダは独自開発したジェットエンジンを売るため、GEとジェットエンジン合弁企業を設立します。これはホンダのエンジンが優秀であったことがGEとの協業を可能としたのですが、エンジンは売れませんでした。GEでも売れない。それならこれまで開発していたホンダジェットを販売して、それにエンジンを乗せればいいのではないか。そこからホンダジェットが生まれるのです。
最後はやはり、「人」でした。気概のある人、信念のある人がチームをまとめて研究を進め、社内を説得するということができないと、なかなか難しいということです。ホンダジェットには、最近のホンダの乗用車に見られない尖ったものを感じるのは私だけでしょうか。創業者本田宗一郎の魂が唯一残っているのがホンダジェットであると感じました。
前間さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・日本国内でやっていたら目に付いて、『そんな余計なものは潰しちまえとなる』。二つ目はやなり、人間が優秀だったことで、イノさんから若手への引き継ぎも比較的うまくいったと思っている(川本)(p75)
・開発チームの人数は、他の飛行機メーカーが同じクラスの飛行機をつくる際の人数に対して三分の一か四分の一でしょう(p146)
・ジェットエンジンの事業はお金を回収するまでの期間が圧倒的に長い。どちらかといえば、新規のエンジンを売って利益を上げるというよりも、売った後のサービスで儲ける(p190)
・ホンダジェットの一時間当たりの料金は一機1500~2000ドルくらい・・・4人で割ると一人当たり375~500ドルほどである。(p32)
【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
序章 ホンダ航空機事業参入の衝撃
第1章 創業者精神の水脈
第2章 五里霧中の日々
第3章 ハードウエアで世界を変える
第4章 飛翔への道程
終章 グローバル時代の新次元へ
著者経歴
前間孝則(まえま たかのり)・・・1946(昭和21)年、佐賀県生まれ。石川島播磨重工業(現IHI)でジエットエンジンの設計に20年余従事する。1988年に同社を退職、執筆活動に入る
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