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「風に吹かれて」鈴木 敏夫

2021/10/04公開 更新
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「風に吹かれて」鈴木 敏夫


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

 スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫へのインタビューをまとめた一冊です。面白いのは,『カリオストロの城』や『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』や『風立ちぬ』の制作中の試行錯誤が分かることでしょう。宮崎駿は時間やお金に糸目をつけずに良い作品を作ろうとするので,最後はどうしても枠の中に納めなければならなくなるのです。


 昔から日本のアニメは非常に安い予算で作られていて,宮崎駿や高畑勲のように素晴らしい作品を作ろうとすると,予算総額が決まっているのでアニメーターの給料が月10万円になってしまうのだというのです。ところがそんなことは一切気にせずに,高畑勲はアニメ制作期間が通常1年なのに,2年とか3年かけてしまう。宮崎駿に至っては,すべて自分でセル画をチェックしてダメ出しをする。この二人がアニメを作ると,そのアニメが完成してからアニメーターが全員辞めてしまい,会社組織が崩壊してしまうというのです。


 だから著者の鈴木さんがスタジオジブリを宮崎駿と高畑勲と立ち上げたとき、映画を作ってだめならスタジオを潰せばよい。もし売れたら、その金で次の映画を作るつもりでいたのだというのです。ある意味、鈴木さんが宮崎駿と高畑勲の狂気に惚れたということなのでしょう。


・『もののけ姫』・・・いつもの倍のお金をかけてみようと・・・それまでの日本の興行成績の最高記録を出しても赤字になるんですよ・・・当時配収で60億円,今でいったら興収100億円ぐらいが採算分岐点・・西野さんが『鈴木さん,本当にやるのか』っていうから・・日本の映画館を『もののけ』一色にしてくれました・・・興行収入200億円(p198)


 鈴木敏夫が宮崎駿と高畑勲に出会ったのは、「アニメージュ」の編集長になったからです。宮崎駿に「アニメージュ」で『風の谷のナウシカ』の連載を開始させ,映画化に成功します。その後も,スタジオジブリ設立までプロデューサーとして宮崎駿や高畑勲のアニメ作品を手掛けています。この完ぺき主義の天才二人がアニメを作るのを,鈴木敏夫は楽しんでいるのです。仕事ではないのです。怖いもの見たさというのか,冒険と表現すればいいのかわかりませんが,普通の人では付き合えない怪物と作品を作り続けてきたのです。


 天才がゆえに最高の作品を作り,普通の人から構成される組織を破壊してしまうという世の中の不思議を目の当たりにした気持ちになりました。松下幸之助は,組織が大きくなるとどうしても一人ひとりの生産性は小さくなってしまうと達観していました。それは世の中は大多数は普通の人であり,大組織は普通の人で構成するしかないからです。普通の組織では,天才はどうしてもはじき出されてしまうのでしょう。


 日本のアニメは素晴らしい作品を創り出し続けていますが,そこには多くの狂気の天才が頑張っているのだろうと想像しました。アニメーターの給与が高くなることを祈って,本書を閉じました。鈴木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・お腹が出ているからと,ズボンのホックをはずしていた(「スポーツニッポン」狩野近雄)社長に,『失礼だ』っていっちゃったんですよ(p61)


・『カリオストロ』なんかも,最後,ローマ水道の破壊っていうのがあって,その水中シーンは残念ながら実現しなかったんですよ。『ナウシカ』の場合も,その大きな構想を諦めて,やっと完成(p118)


・『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。あれ,最初は『来て』だったんです・・・『来て』で行こうとする。そのときにカプローニが,『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ(p219)


▼引用は、この本からです
「風に吹かれて」鈴木 敏夫
鈴木 敏夫, 中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

1 スタジオジブリヘの道、そして三〇年
2 いつも今!―スタジオジブリの現在



著者経歴

 鈴木敏夫(すずき としお)・・・株式会社スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。1948年名古屋市生まれ。慶應義塾大学卒業後、徳間書店入社。『週刊アサヒ芸能』を経て、アニメーション雑誌『アニメージュ』の創刊に参加。副編集長、編集長。1984年から『風の谷のナウシカ』を機に高畑勲・宮崎駿作品の製作に関わる。1985年にはスタジオジブリの設立に参加、1989年からスタジオジブリの専従に。以後、ジブリの全アニメ作品及び、三鷹の森ジブリ美術館(2001年開館)のプロデュース等を手がける。現・株式会社スタジオジブリ代表取締役プロデューサー


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