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「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」鈴木 敏夫

2021/08/30公開 更新
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「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」鈴木 敏夫


【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

 高畑勲と宮崎駿という二匹の猛獣をコントロールしてきたスタジオジブリのプロデューサー鈴木 敏夫さんが、アニメ制作の裏話を教えてくれる一冊です。


 著者の鈴木 敏夫さんが宮崎駿と出会ったのは、徳間書店が「アニメージュ」の創刊準備をしているとき、鈴木 敏夫さんが担当になってからです。そして宮崎駿が「アニメージュ」で「風の谷のナウシカ」の連載を始め、この「風の谷のナウシカ」を原作として博報堂にいた宮崎駿の弟を巻き込んで映画化することになったのです。


 ところが、どこの制作会社もナウシカの制作を引き受けてくれませんでした。宮崎駿と仕事をすると、完璧主義の宮崎駿についていけない社員が辞めたり、病んだりして、組織がガタガタになってしまうという理由で断られたのです。結局、トップクラフトという会社が引き受けましたが、予想どおりナウシカの完成後、ほとんどすべての主要なアニメーターが退職してしまいました。


・どこもナウシカの制作を引き受けてくれない・・・「宮崎さんが作るならいいものが作れるだろう・・・でも、スタッフも会社もガタガタになるんだよ。今までがそうだった」。完璧主義者と仕事をやると会社がダメージを受けるということです(p23)


 「風の谷のナウシカ」がヒットしたことで、次は「天空の城ラピュタ」を作ることになりました。当然のことながら引き受けてがいないので、自前でスタジオを作ることになりました。それがスタジオジブリなのです。


 アニメの世界は、出来高払いなので適当にたくさん作ったほうが儲かる仕組みになっています。そのため宮崎駿のように、手間と時間をかけて精密な作画を作っていると、朝から夜中の12時まで作業を続けたとしても、生産量が半分になってしまうので、収入は月に10万円にしかならないのです。


 手間をかけるだけ損をするのがアニメであり、宮崎駿はそうした環境の中で最高品質の作画にこだわる変わり者であり、天才だったのです。スタジオジブリではそうした環境を打破するために予算を2倍にして月に20万円支払うことにしました。それでも20万円だったのです。


・『魔女の宅急便』の制作費は4億円かかりました。1億円も行かない映画が多かった時代、それはすごい金額です。それだけ用意しても、宮崎駿の求めるクオリティで仕事をしていくと、出来高払いのアニメーター一人あたりの報酬はだいたい月に10万円。一年かけて全身全霊で仕事に打ち込んでも120万円にしかなりません。当時でいっても普通の仕事の半分ぐらい(p97)


 ジブリ作品の裏話がおもしろすぎます!!


 例えば、『千と千尋』はキャバクラでおじさんの接客をするうちに、元気で強い女の子になっていくという話をヒントに作られたという裏話。湯屋はキャバクラで、カオナシはキャバクラの変な客だったのです。


 ジブリ作品の音楽を手掛ける久石 譲さんは、「風の谷のナウシカ」から参加しますが、最初レコード会社からの提案は細野晴臣さんだったものの、作風が合わないということで、無名の久石 譲さんに変更されたという裏話。


 こうしたドタバタを乗り越えて、宮崎駿監督の素晴らしい作品を見ることができていることに感謝したくなる一冊でした。鈴木さん、良い本をありがとうございました。



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この本で私が共感した名言

・宮崎駿が決めました。「イタリアの軍用偵察機にジブリっていうのがある。スタジオジブリがいい」(p40)


・アニメーターの描いた芝居が自分の意図と違う方向に向かっていると「違う」と指示を出さなきゃならない。その一言ごとに、みんなが離れていく(p29)


・絵が上手いアニメーターというのは、たいていスタジオの中で浮くものなんですよ。一匹狼になって人柄にも問題が出てくる(p334)


・『千と千尋』・・・作画は『もののけ』に続いて、安藤雅司が中心になりました・・・作画を終えたときには、髪の毛がぜんぶ抜けていました(苦笑)。そして、やりきった満足感とともにジブリを去っていくことになります(p237)


・ジブリの場合、1ヶ月の作画の生産量は約5分(p185)


・宮崎駿という人は、その圧倒的な才能によってスタッフを支配するタイプの監督です・・・吾朗くんはきめ細かな配慮によって、スタッフの心を掴んでいきました(p291)


・『ポニョ』でいうと、宮(崎駿)さんは波をほとんどひとりで描いていました。新しい波の表現にこだわったんです。そもそも、いま日本のアニメーターが使っている波の描き方って、『未来少年コナン』で宮さんが発明したものなんですよ(p321)


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▼引用は、この本からです
「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」鈴木 敏夫
鈴木 敏夫,文藝春秋


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

風の谷からトトロの森へ
ジブリの初挑戦
映画作りは大博打
監督引退?天才たちの対話



著者経歴

 鈴木敏夫(すずき としお)・・・株式会社スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。1948年名古屋市生まれ。慶應義塾大学卒業後、徳間書店入社。『週刊アサヒ芸能』を経て、アニメーション雑誌『アニメージュ』の創刊に参加。副編集長、編集長。1984年から『風の谷のナウシカ』を機に高畑勲・宮崎駿作品の製作に関わる。1985年にはスタジオジブリの設立に参加、1989年からスタジオジブリの専従に。以後、ジブリの全アニメ作品及び、三鷹の森ジブリ美術館(2001年開館)のプロデュース等を手がける。現・株式会社スタジオジブリ代表取締役プロデューサー


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