「武器としての交渉思考」瀧本 哲史
2019/04/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(89点)
要約と感想レビュー
マッキンゼーでのコンサルティングや投資家として企業再建する中で、交渉してきた著者が教える交渉の基本です。交渉とは人間相互の理解と納得を得るプロセスであり、相互の利益の調整であり、合意を作り出す手段なのでしょう。マッキンゼーにいただけあって合理的な交渉術が集約されています。
外資系企業だけあってマッキンゼーの考え方は、「客が儲かれば、お金はあとからついてくる(Client interest first money follows)」というものです。さすがプロフェッショナルです。自分にメリットがないからどうにかしてほしいではなく、あなたが得をするからこうすべきと、交渉すべきなのです。
交渉の理想は、相手が自然とそれを選択せざるをえない環境を作り出すことなのです。また、多くの選択肢を持つようにして、相手の利害と自分の利害を把握し、両者にとってよりよい選択をする。そうしたことができるように、交渉相手「たくさん聞いて、たくさん提案」し、相手の反応を探ることが大切なのです。
・譲歩するかどうかを考えるときには、1 無条件の譲歩は絶対にしない、2「相手にとっては価値が高いが、自分にとっては価値が低い条件」を譲歩の対象とする(p204)
単発の交渉なら一人勝ちもありますが、長期の取引なら相互に利益がなければ続かないことも配慮すべきなのでしょう。それぞれの選択がどういった結果を生み出すのか予測し、最善と思われる選択肢を選ぶのです。
つまり交渉では、まずは複数の選択肢を持つこと。そして、目の前の選択肢とバトナ(Best Alternative To a Negotiated Agreement:他の選択肢のなかでいちばん良いもの)とを比較しながら、交渉を行っていくのです。具体的に考えてみると、A社とB社から見積りを取って、眼の前のA社に対し、B社の見積りが一番安かったと交渉するということです。
交渉には情と理があり、両方バランス良く教えてもらえるのが素晴らしいところだと思いました。世の中には非合理的な交渉相手もたくさんいますので、その対策も準備が必要なのでしょう。この本で紹介されていた非合理的な交渉相手としては、「そんな話は聞いていない」「急に言われてもわからない」などと言う「自律的決定」にこだわる人です。こうしたタイプの人は、何よりも「自分で決めている」という感覚が欲しいのだという。
なお、相手の譲歩があまりにも魅力的な提案だったとしても、けっしてすぐに受けないようにしましょう。いったん「考えさせてください」と言い、相手からさらなる譲歩が引き出せないかどうか確認してみましょう。確かにそのとおりですね。瀧本さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・あらかじめ交渉の前に、チームのメンバー全員で・・・その交渉において「発してはいけないワード」を共有しておく必要があるでしょう(p295)
・交渉においては「相手がどういう立場の人間なのか」ということがきわめて重要な意味を持ちます・・・現場の担当者レベルの場合は、自社の利益よりも「自分個人にとってメリットがあるかどうか」が判断基準となるケースが少なくない(p224)
・「重要感」を重んじる人・・・「最近、自分が出した本の売れ行きがいまいちだから、あの編集者はちょっと俺を軽んじているのではないか?」などと怒って暴れる作家は珍しくありません(p272)
・「ランク主義者」の人・・・私は「名刺じゃんけん」と呼んでいますが、名刺の肩書きを見て相手のランクを把握し、対応を決めるような人たちです(p275)
▼引用は下記の書籍からです。
【私の評価】★★★★☆(89点)
目次
ガイダンス なぜ、いま「交渉」について学ぶ必要があるのか?
1時間目 大切なのは「ロマン」と「ソロバン」
2時間目 自分の立場ではなく、相手の「利害」に焦点を当てる
3時間目 「バトナ」は最強の武器
4時間目 「アンカリング」と「譲歩」を使いこなせ
5時間目 「非合理的な人間」とどう向き合うか?
6時間目 自分自身の「宿題」をやろう
著者経歴
瀧本哲史(たきもと てつふみ)・・・1972年生まれ。2019年没。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。東京大学法学部を卒業後、大学院をスキップして直ちに助手に採用されるも、自分の人生を自分で決断できるような生き方を追求するという観点から、マッキンゼーに転職。3年で独立し、企業再建などを手がける。また、他の投資家が見捨てた会社、ビジネスアイデアしかない会社への投資でも実績を上げる。京都大学では「交渉論」「意思決定論」「起業論」の授業を担当し人気講義に。「ディベート甲子園」を主催する全国教室ディベート連盟事務局長。
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