【書評】「統計数字を疑う~なぜ実感とズレるのか?~」門倉 貴史
2018/12/13公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(86点)
要約と感想レビュー
統計のウソ
テレビでお馴染みのエコノミスト門倉(かどくら)さんの統計の見方の指南書です。「世の中には3つの嘘がある。ひとつは嘘、次に大嘘。そして統計である」と言われるように、統計が必ずしも正しいとは限らないのです。
例えば、有効求人倍率が上がっているとして、その背景には民間の人材派遣会社が多数設立されていることがあるという。つまり、有効求人倍率とは、職業安定所(ハローワーク)に登録された有効求人数を有効求職者数で割った値のことですが、民間を利用する人が増えて、ハローワークを利用する人が少なくなってきている影響があるのです。
また、別の例では、警察の検挙率が1990年の検挙率42.3%から2001年に19.8%と減ってきているのは、過去には被害届をあまり受理しなかったことに原因があるという。その証拠に、殺人罪に限ってみれば、検挙率は2005年で96.6%と100%近い水準のままで、窃盗犯の検挙率が、28.6%と非常に低い値だからです。それまで受理しなかった被害届を、批判されないようになんでもかんでも被害届を受理するようになったため、犯罪の認知件数が大幅に増えたのが原因だというのです。
統計の数字の裏を知って、その現象の本質をつかむことが大事なのです。
労働者一人あたりの年間総労働時間は、1980年には2145.6時間であったが、2005年には1802.4時間まで縮小した・・・労働時間が大幅に減少したと判断するのは大きな間違いである。この年間総労働時間には、労働時間の少ない非正社員が含まれているためだ・・・実際、正社員のみの年間総労働時間は、2005年で2028時間に達しており、ここ数年ほとんど変化がない(p82)
通説を疑う
面白いのは「通説を疑う」ところです。
例えば、ニューヨークのジュリアーニ市長が「割れ窓理論」を実践し、1990年代後半から警察官を増員し、地下鉄の落書きや無賃乗車など軽微な犯罪を徹底的に取り締まり、凶悪犯罪が激減したという事例。著者は、警察官の増員により凶悪犯罪が減ったことは事実としても、景気がよくなったことによる影響のほうが大きいと指摘しています。
また、中国製品が日本のデフレを引き起こしたという通説。著者は、中国製品が日本の通関輸入金額に占める割合は2005年時点で21.0%、総需要に占める輸入の割は11.4%程度だから、総需要に占める中国製品のシェアはせいぜい2.4%であることを示し、2.4%程度の中国製品が物価を下落させたのは説得力がないとしています。
だとすれば、日本におけるデフレを引き起こした主犯格は、別のところにある可能性があるのです。例えば、不況でモノやサービスが売れなくなり、需要不足であ物価が下落したと考えることもできるわけです。
米国の失業率とニューヨーク市の犯罪発生率には、かなり強い相関関係が見られ・・割れ窓理論を採用したことによって、犯罪は低下したといえるが、割れ窓理論を採用していなかったとしても、景気の好転によってニューヨーク市の犯罪発生率はかなりの程度低下していたとみられる(p64)
データで考える
何でもデータを示しながら、考察してくれるところがうれしいです。
例えば、最近の格差の拡大については、日本の賃金構造が、年齢が高まるにつれて同一年齢層での所得のバラツキが拡大する点を指摘し、高齢化に伴って所得のバラツキ度合いが大きい中高年層のウエイトが高まった結果、社会全体での所得格差が拡大した可能性があることを指摘しています。
2006年と10年以上前と古いのが残念ですが、統計というものの見方に警鐘を鳴らす良い本だと思いました。データをどう処理するかで、いくらでも結果はコントロールできるのです。門倉さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・2005年の一世帯あたりの平均貯蓄残高(全世帯)は1728万円で、前年比2.1%増となった・・・メディアン(中央値)1052万円・・・最も世帯数が多い階級は200万円未満・・全体の14.1%(p27)
・日本の平均寿命が50年間で30年も伸びた理由・・平均寿命が大きく伸びる一番の要因は、乳児死亡率が低下することである。乳児死亡率が高いと、出発時点で多くの人口を失うことになるので、平均寿命も短くなってしまうのだ(p45)
・2005年の平均初婚年齢は夫が29.8歳、妻が28.0歳である・・注意すべきことは、平均初婚年齢はその結婚した夫婦を母集団として平均年齢を算出している点だ。まだ結婚していない男女は、そもそも母集団の中に含まれていないのだ(p47)
・金融機関はなぜコストセンターの調査部に包括受託を出すのか。それは、金融機関本体がこのシンクタンクの調査部を「広告塔」として位置づけているからにほかならない・・・「わざわざ厳しい予算を割いて、調査部に包括受託を出しているのだから、できるだけマスコミにたくさん名前を出してくださいね」と考えているのだ(p141)
光文社
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【私の評価】★★★★☆(86点)
目次
第1章 「平均」に秘められた謎
第2章 通説を疑う
第3章 経済効果を疑う
第4章 もう統計にだまされない―統計のクセ、バイアスを理解する
第5章 公式統計には表れない地下経済
著者経歴
門倉貴史(かどくら たかし)・・・1971年神奈川県生まれ。エコノミスト。慶應義塾大学経済学部卒業後、横浜銀行のシンクタンク、浜銀総合研究所の研究員となる。社団法人日本経済研究センター、東南アジア経済研究所(シンガポール)への出向を経て、2002年、第一生命経済研究所に移籍。経済調査部主任エコノミストとして、アジアやBRICs諸国についての論文を数多く発表する。2005年同研究所退社。2006年にBRICs経済研究所代表に就任
統計関連書籍
「統計数字を疑う~なぜ実感とズレるのか?」門倉 貴史
「仕事に役立つ統計学の教え」 斎藤広達
「統計学が最強の学問である」西内 啓
「マーケティングのための因果推論」漆畑 充、五百井 亮
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