「チンギス紀 1 火眼(かがん)」北方 謙三
2018/11/22公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(81点)
■モンゴル帝国の初代皇帝
チンギス・カン(テムジン)の
成人までの生涯を描いた一冊です。
テムジン10歳のとき
モンゴル族キャト氏の長である父が
隣のタタル族に殺害されました。
モンゴル統一を期待された父が
亡くなったことで、
モンゴル族内で主導権争いが起こり
テムジンは命を狙われることになります。
テムジンは南の砂漠を越えて
金国に逃亡することになるのです。
・西には、ケレイト王国がある。
ナイマン王国もな。
メルキト族は強いし、タタル族には、
金国という後ろ盾がある。
こう分裂しているようでは
モンゴル族の未来はないな(p26)
■面白いところは、
モンゴル族は戦には強いものの
統率が取れていなかった、
ということでしょう。
モンゴル族は強大な敵に
囲まれており、
生き延びるためにもモンゴル族の
統一が必要だったのです。
そしてモンゴル族を
まとめるためには力がいる。
どのような集団においても
誰が主導権を持つかによって
未来が決まるのです。
・最後は力である。
力は、どれだけの遊牧の民を従えているか、
ということであり、それでは
トドエン・ギルテを凌いでいる(p89)
■モンゴルの歴史書『元朝秘史』を
参考にしたものなのでしょうか。
北方さんは歴史上の人物に個性を与え、
その出演者を通じて人の愚かさや
人生の智恵を教えてくれます。
歴史小説の良いところだと
思いました。
北方さん
良い本をありがとうございました。
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■この本で私が共感したところは次のとおりです。
・教えられた水場で、
命を長らえたことは確かだ。
つまり、砂漠の旅は、
水場を知っているかどうかなのだ(p51)
・干肉を四つ鞍にぶらさげていたので、
その中のひとつを食った。
拳ほどの干肉は、しばらく湯に浸けていると、
子供の頭ほどになる(p33)
・遊牧の民の間を、単騎で回っている。
飢え凍えるしかなくなった者たちを、
決して出さないように努めてきた。
遊牧の民たちにとって、
最も大事なのはそれなのだ(p89)
・『史記本紀』を読むのを、
風の中で聴いているのが、愉しかったのである。
じっと聴いていると、何度も、
くり返し読んだ時には見えなかったものが、
見えてきたりする(p127)
・書は、生きるためのなにかに
役立たなければ、意味がない。
私がそんなことを言うようになるとは、
思わなかったがな(p267)
・「上に立つ者が、戦ばかりを考えると、
結局、領民が不幸になるとは思わんか?」
「民の暮らしを守るための、戦です」
「そういう理由で、領民を死なせ続ける長は、
しばしば現れる」(p151)
・望み通りの副官が、見つかるわけではない、
ということを、トクトアが自覚しはじめたのは、
いつのころからなのか。
副官は戦場では勇敢な武将である必要はなく、
戦全体を見渡している自分に、
ただ寄り添っていればいい。
全体が見渡せるように、
扶(たす)ければいいのだ(p154)
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【私の評価】★★★★☆(81点)
■著者・・・北方謙三(きたかた・けんぞう)
1947年佐賀県唐津市生まれ。中央大学法学部卒業。
1981年『弔鐘はるかなり』でデビュー。
1983年『眠りなき夜』で第4回吉川英治文学新人賞、
1985年『渇きの街』で第38回日本推理作家協会賞長編部門、
1991年『破軍の星』で第4回柴田錬三郎賞を受賞。
2004年『楊家将』で第38回吉川英治文学賞、
2005年『水滸伝』(全19巻)で第9回司馬遼太郎賞、
2007年『独り群せず』で第1回舟橋聖一文学賞、
2010年に第13回日本ミステリー文学大賞、
2011年『楊令伝』(全15巻)で第65回毎日出版文化賞特別賞を受賞。
2013年に紫綬褒章を受章。
2016年「大水滸伝」シリーズ(全51巻)で第64回菊池寛賞を受賞。
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