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「原油暴落の謎を解く」岩瀬 昇

2018/10/18公開 更新
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原油暴落の謎を解く (文春新書)


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

 2018年現在、石油や石炭の価格が上ってきていますね。エネルギーの価格はどうやって決まるのか?というのが気になって手にした一冊です。 結論から言えば、エネルギーの価格は国際的なエネルギー市場で決まるのです。


・NYMEXのWTI原油もICEのブレント原油も、単純な先物商品だけでもそれぞれ10憶ばれる程度の量が取引されている・・それぞれ世界全体の原油生産量の10倍以上の取引量になる・・これはもはや、少数の参加者が悪意をもってマーケットを動かせる取引量ではない(p123)


 もっとも勉強になったのは、シェール革命をどう見るか、という点です。シェールオイルは、在来型の石油よりはコストが高く、すぐに生産できて、すぐに生産できなくなるという性質を持っています。つまり、石油の価格が高くなれば、すぐに生産して利益を回収して、石油の価格が低くなればすぐに生産を止めることができるという機動性を持っているのです。市場の価格を安定化する性質を持っていると言えるのでしょう。


・シェール革命の何が「革命」だったのか・・・・石油開発に製造業のような性格を持ち込んだ・・・投資決断から生産開始までの期間が短く、また生産期間も短い・・・シェールは外部の資金調達に頼るビジネスモデルになっており、金融市場のボラティリティ(価格変動の度合い)の影響をもろに受けるようになっている(p171)


 アメリカ国内においてシェールオイル・ガスが大量に産出されることによって、アメリカがエネルギー輸入国から輸出国になりました。これはアメリカが石油のために中東地域に影響力を行使していたことを考えれば、国際政治的にも国際エネルギー需給にも大きな影響を与えているはずです。岩瀬さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・1980年代半ば以来、長らく低迷していた原油価格が急上昇を始めたのは、2000年代に入って中国が資源を「爆買い」し始めてからだ。正確に言えば、石油をはじめ鉄鉱石や銅鉱石、レアメタルなど資源の買収に乗り出してきたのだ(p18)


・歴史を変えた多くの「大油田発見」が、ほとんど資金ショートぎりぎりで掘り当てられたという歴史的事実は、偶然とはいえ、石油開発という事業がそれだけロングスパンで投機性に満ちているということの象徴ではなかろうか(p65)


・石油会社の企業価値評価で大事なものは、保有埋蔵量である・・何もせずに生産だけを継続し、保有埋蔵量を減らすことは、当該期の決算にはいい影響を与えるが、その石油会社には「未来」がない・・(p103)


・1986年のいわゆる「逆オイルショック」以来、現在に至るまで、石油価格を決めているのはOPECでもセブンシスターズでもなく、「市場」なのである(p121)


・産油国が長期契約で販売する原油は、サウジ原油以外でも多くがこの「フォーミュラ価格」方式になっている・・・使用する指標原油は異なるが、販売価格は市場価格の変動にリンクしたものになっているのである(p137)


・2014年末からの価格暴落の中で、中国勢による価格操作の疑いが報じられている・・・たとえば2015年8月には、市場で販売されているドバイ原油の90%が中国の国有石油会社CNPC傘下のチャイナ・オイルにより買い上げられた・・・さらにチャイナ・オイルは、2014年1月からの25ヵ月間のうち10ヵ月も、市場で手に入るドバイ原油の半分を買い占めている・・この25ヶ月のうち7ヵ月間は、中国の別の国有石油企業であるSinopecの傘下の会社が、ドバイ原油の半分以上を売っていたというのだ。中国勢が売って、中国勢が買うなんていうことがあるのだろうか(p161)


・住友商事がアメリカのシェール事業で失敗し、巨額の損失見込みを発表・・・試掘井1本ごとに失敗した掘削作業にかかった費用を、即、損金処理すべきであった。ところが住友商事は・・・在来型の石油開発と同様に、将来、生産したら回収できる費用の一部だと認識して資産勘定に計上し、プロジェクト全体の損切り水準にまで溜まってしまった。これが実態ではないだろうか(p188)


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【私の評価】★★★☆☆(75点)


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目次

第一章 原油大暴落の真相
第二章 今回が初めてではない
第三章 石油価格は誰が決めているか
第四章 石油の時代は終わるのか?
第五章 原油価格はどうなる?


著者経歴

 岩瀬昇(いわせ のぼる)・・・1948年生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。1971年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、2010年常務執行役員、2012年顧問、2014年6月退職。三井物産入社以来、香港、台北、二度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクでの延べ21年間にわかる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。現在は新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。


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