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「夕張問題」鷲田 小彌太

2018/01/31公開 更新
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「夕張問題」 (祥伝社新書)


【私の評価】★★★★☆(87点)


要約と感想レビュー

 10年前に北海道の夕張市が破綻しました。1万人くらいの町で、借金は500億円です。本書は夕張市の財政再建計画、つまり人件費削減、住民サービスのカットに対する著者の感想と意見となっています。日本の人口が1億人で、借金が1000兆円。現在の日本政府のほうが厳しい状況にあり、夕張を考えることは、日本を考えることになるのです。


 夕張市の失敗の一つとして、スキー場とリゾートホテル経営に手を出したことを挙げています。1991年、松下興産が大規模スキー場とリゾートホテルを建設しましたが、採算が合わないことから、施設を市に買い取らせ撤退したのです。私企業が失敗したい観光事業を、市がはじめたことが間違いだったのです。


・「自治体は絶対に潰れない、人が住んで居れば自治体はなくなることはないんだ。最後は国がついているんだ」。これは中田市長の言葉だ(『夕張市長町おこし奮戦記』PHP研究所1987)(p131)


 まず、人件費カットについては、夕張市は同規模の自治体の2倍の人員数で給与も高かった。つまり、人件費カットはカットではなく、人件費を適正化したものであると分析しています。


 市民税、自動車税、入湯税を上げる。ゴミ有料化、水道料の値上げ、図書館、美術館が閉鎖される。これらも、これまでの高いサービスを普通に戻すだけであり、元々過剰で格安のサービスだったのです。


・市役所の職員数を半減し、給与水準を一般職員で平均最大40%カットで臨むという。やっと、同じ規模の市と肩を並べたのだ。経常収支に占める人件費の割合が50%を超えていた状態から平常へと脱却可能になった(p47)


 夕張市の税収は10~20億円で、過半を交付税等の国費でまかない、不足分を起債や金融機関からの闇借金で補っており、30年近く、毎年50~80億円の実質赤字を続けていたという。つまり、金融機関からの一時借入金などの活用により実質赤字118億円を表面上は財政黒字としていたというのです。


 夕張市の破綻は、国や自治体の仕事の欠点をすべて示唆していると感じました。まず、収入と支出に責任を持つ人がいないこと。逆に責任を持つ人自身が、収入以上の支出を推進しているのです。黒字でない事業はリストラまたは廃止するべきなのに、ずるずると事業を継続してしまう。収入以上の支出を永遠に続けることはできないということなのでしょう。鷲田さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・地方債の発行残高は、83年に107億円を超え、ピークの92年は220億円に達した。法的にいえば、夕張市はもう20~30年前から「破産」していたのだ(p26)


・バブルが終わったあとも、毎年200億円近い財政支出を続けた。夕張市の適正規模を2~5倍超え、この30年近く、一度も緊縮財政に戻ろうとする姿勢さえ見せなかった(p27)


・夕張メロンとメロン農家、その販売と普及に従事している人々を中核とした「夕張」は、炭鉱や観光の盛衰にかかわりなく生きてきたし、今後も生きることができる(p90)


・美唄(びばい)は67頁の年表でも分かるように、閉山を正面から受けとめ、企業誘致、福祉行政サービス、学術都市、そして本来の農業振興にシフトして生きてきている(p69)


「夕張問題」 (祥伝社新書)
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鷲田 小彌太
祥伝社
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【私の評価】★★★★☆(87点)


目次

1章 ダイヤ型=心臓の形をし、Y字形に伸びる旧石炭の町・夕張
2章 「財政破綻」か、「市破綻」か?リストラは可能か?
3章 夕張の繁栄と衰退
4章 夕張再生のシナリオ 10のテーゼ
5章 夕張、その可能性の条件=哲学



著者経歴

 鷲田小彌太(わしだ こやた)・・・1942年北海道札幌生まれ。大阪大学文学部哲学科卒業、同大学院博士課程単位取得満期中退。三重短期大学教授を経て、札幌大学教授として哲学、倫理学の分野で教鞭をとる。評論活動、エッセイ、人生書等の執筆も精力的にこなす


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