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「ホスピスという希望: 緩和ケアでがんと共に生きる」佐藤 健

2017/06/14公開 更新
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ホスピスという希望: 緩和ケアでがんと共に生きる (新潮文庫)


【私の評価】★★★★★(95点)


要約と感想レビュー

 がん治療の専門家でありながら、ホスピス・緩和ケアの拡大を図っている佐藤さんの一冊です。がん治療では、いわゆるマニュアルどおりの治療が行われることが多いと言います。


 マニュアルが悪いというわけではなく、患者が高齢だったり、末期で効果が期待できないとしても抗がん剤治療を行ってしまう。それが患者のためだ、と思い込んでいるのです。さらには、痛みがあるのに、痛みを取らない、家に帰りたいのに、返さない、最後にやりたいこともさせないということがあるらしいのです。


 著者の意見は、がんが進行しているのであれば、残された時間を、いかに大切に生きるかが重要であり、痛みさえとってあげれば普通の生活ができるのです。そもそも80~90代の人ならば、がんと共存している人がたくさんいるのです。調子が悪いからといって無理に辛い検査をして、がんを見つける必要もないのです。


・どんなに効果が低いとわかっても、その治療を勧めなければ、死を認めたことになり、勧めることこそが本当の医師の使命だと本気で信じ込んで、融通の利かない状態になっている医師もいます(p114)


 こうした状況は、多くの誤解、無知が原因であるといいます。まず、抗がん剤は一部のものを除いて苦痛を伴うにもかかわらず、それほど効果がないということに無知なのです。抗がん剤の奏効率というのは20~50%程度なのですが、「奏効率20%」とはその薬が効いて「がんが小さくなる確率」が20%であって、決して「治る確率」ではないのです。治る確率は0%に近いのです。


 そして抗がん剤を使わなければ、"がん"は普通の生活ができないほど痛みの出る病気ではありません。仮に痛みが出ても、モルヒネ等を適切に使えば、痛みのない末期を過ごせるのです。30年前にWHO(世界保健機関)が「がんの痛みからの解放」というパンフレットで、モルヒネを使用して、がん患者さんを痛みから救えることを告知しているのです。


 実はがん治療を専門としている医師は、抗がん剤の治療でがんが治るものではないことを知っているのです。抗がん剤は腫瘍が小さくなることはありますが、たとえ効いても延命につながらないことが多いのです。


 がん治療とは、体だけでなく心の治療が大事だと思いました。治るがんもありますが、がんとは基本的に老化です。老化ですから、急に症状が出るわけではなく、抗がん剤を使わなければ死の期限はあるとしてもある程度普通に生きられるのです。


 多くの家族は、病気なんだからおとなしく入院していれば、長生きできるのではないかと思い込んでいると、病院での入院期間が延び、患者さんの早く家に帰りたいという思いや、最後の時までにこれだけはやっておかなければ、という気持ちを無視することになるのです。


 そうした人の心を支えるためにも、痛みを緩和する治療と医師・家族とのコミュニケーションが大事なのでしょう。がん治療についてこれまで読んだ中で最高の一冊でした。佐藤さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・腹水は抜いてもまた溜まります(実は点滴によってさらに貯まるのです)・・腹水を抜いて消耗すると、点滴をし、また抜くという悪循環(p143)


・がんにかかったら、治る、治らないということに執着するのではなく、必要な治療は受け、結果はどうであれ、悪いことばかり考えないことです・・一日一日を大切に生きるという姿勢を持つことだと思います(p154)


・告知をしていない場合、患者さんと家族の会話は少なくなります。互いに気を使いすぎてどうしても悲しい思いを吐き出せなくなります(p252)


・やがて私は、患者さんが「死にたい」と言うようでは良いケアができていない、と考えるのではなく、「死にたい」という言葉を口に出すことで、私たちに心を開いてくれたと捉えてもいいのではないかと考えるようになりました(p195)


ホスピスという希望: 緩和ケアでがんと共に生きる (新潮文庫)
佐藤 健
新潮社 (2014-04-28)
売り上げランキング: 481,656


【私の評価】★★★★★(95点)


目次

第1章 素晴らしい患者さんたちとの出会い
 ―輝く人生からの贈り物
第2章 我慢する前にホスピスを訪ねてください
 ―私たちはいつもそばで支え続けます
終章 ホスピスのある街を増やそう



著者経歴

 佐藤健(さとう つよし)・・・愛知県豊橋市生れ、1984(昭和59)年名古屋大学医学部卒業、医学博士。中津川市民病院、愛知県厚生連昭和病院、名古屋大学医学部第2外科を経て1991(平成3)年国立豊橋病院へ。1996年より「豊橋ホスピスを考える会」に参加し、地域のホスピス運動に取り組み、2005年国立病院機構豊橋医療センター緩和ケア病棟の開設に尽力、実現した。現在、同医療センター緩和ケア部長。2009年、名古屋で開催された第33回日本死の臨床研究会年次大会の大会長を務めた


死ぬとき関連書籍

「病院で死ぬということ」山崎 章郎
「ホスピスという希望: 緩和ケアでがんと共に生きる」佐藤 健
「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」小澤竹俊
「死ぬときに後悔すること25」大津 秀一
「人生の実力―2500人の死をみとってわかったこと」柏木 哲夫
「大往生したけりゃ医療とかかわるな【介護編】 2025年問題の解決をめざして」中村 仁一


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コメント(1)

私は咽頭がんでした がんとは老化ですか こころが軽くなりました

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