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「うつ病の常識はほんとうか」冨高辰一郎

2013/10/12公開 更新
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うつ病の常識はほんとうか


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

硬い内容でしたが、「日本の自殺者は減っていて、日本はどんどんよくなっている」と主張する一冊です。ちょっと詳しい人は、「えー、自殺者は3万人を超えているんじゃないの?」と思うはず。しかし、人口構造を補正した標準化した自殺率は、ほぼ変わらないか減少してきているのです。標準化とは、その年代の人の死亡率と人口を補正するということです。


具体的には、年代別の死亡率は変わらないけれど、若い人の死亡率は低いのにもかかわらず、若い人は人口がどんどん減っているので、全体で見ると死亡率はそれほど下がらないどころか、増えているように見えるのです。


・80年代に比べて現在の自殺者数は大幅に増えているのに、標準化した自殺率は変わらないということは、80年代と現在の自殺者の違いは人口構造の違いであることを示している(p31)


自殺者が増えてきた理由の一つは、自殺する老人の人口が増えたことです。つまり、自殺しない子どもが減り、自殺する老人が増えたからなのです。人口構造を補正すれば、自殺率は変わらないという。驚きの事実ですが、なぜこうした事実をだれも伝えないのでしょうか。


それはマスメディアが、「人の不幸は売れる」ので、社会の問題ばかりを取り上げて危機意識を煽っている、というのが著者の解釈です。逆に言えば、表面的な死亡者が増えているという事実だけを見て、そこを深堀しようとする人がいないのです。


・ジャーナリスト、作家、芸術家、評論家、文化人・・・彼らは問題点を世間に指摘することによって生計を立てている、という特殊な立場の人々なのである。・・・個人がどういう社会観を持つかは、もちろん個人の自由である・・・しかし実際はメディアの流す偏った情報に影響を受けすぎている人も多い。日本の自殺者数の増加を冷静に理解できている人がどれだけいるだろうか(p85)


同じように、殺人事件もどんどん減ってきているのです。日本は、どんどん安全で良い社会になってきているのです。そうした実感がないのは、どうしてかといえば、みなさん、おわかりですね。日本では、報道したいことを報道するのであって、本質を報道することのモチベーションがないのです。例えば、1960年代、1970年代の人口あたりの殺人認知件数は、現在の2~3倍だったのです。2009年に殺人事件の認知件数が戦後最低となったことを報道する人は少ないのです。


著者は抗うつ薬として、日本ではアモキサピンがよく処方されているのに対し、アメリカでは滅多にアモキサピンを使わないこと、日本のように自殺の多さを社会環境のせいにしすぎると、「世の中はそれほど悪くないし、自殺するにはもったいない」という感覚が大切であるという本質的な問題から目をそらすことになると警鐘を鳴らしているのです。


自殺や殺人のデータから、いかにマスコミがデータに即した報道をせず、素晴らしい日本社会をミスリードしているかが、具体的にわかりました。できるだけテレビを見ないようにして、楽しい人生、素晴らしい日本を教えてくれる本を読んでいきたいと思います。富高さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・中世のキリスト教社会ではあらゆる自殺を重罪とし、自殺者を弾圧した・・・どんな理由があろうと自殺をしてはいけないという社会通念が根づいた。その結果、現在も自殺率が低い。(p49)


・個人的には、労働時間が長いことがすなわち不幸とは思わない・・・戦前は、成人男性の労働時間に制限はなかった。・・・当時は年間3500時間以上の労働は当たり前だった。・・当時の労働時間は現在の約2倍であった(p72)


・「几帳面で他者配慮性がある人がうつ病になりやすい」とこれほど強調するのは日本ぐらい・・・米国ではその存在すら知られていない・・・まるで血液型性格論のようであった。ご存じの方も多いと思うが、血液型と性格を関係づけるのは、日本だけの風習である(p101)


うつ病の常識はほんとうか
うつ病の常識はほんとうか
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冨高辰一郎
日本評論社
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【私の評価】★★★★★(90点)


目次

第1章 なぜ自殺者は3万を超えているのか
第2章 ストレスは増えているのか?
第3章 どんな性格の人がうつ病になりやすいか?
第4章 うつ病の診断基準とは
第5章 薬の適切な用量はどうやって決めるのか



著者経歴

冨高辰一郎(とみたか しんいちろう)・・・1963年大分県生まれ。1988年九州大学医学部卒業。東京女子医科大学病院精神科講師を経て、現在、パナソニック健康保険組合健康管理センターメンタルヘルス科東京担当部長


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