「なぜうつ病の人が増えたのか」冨高 辰一郎
2011/07/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
最近、職場ではメンタルヘルスということがよく言われ、何か悩みがあれば、相談しなさい、ということになっています。この本では、ほとんど全ての国において、「SSRI」という抗うつ薬が販売されてから、うつ病患者が激増していること、そして、うつ病患者が増えると同時に、メンタル休職者が増えていることを教えてくれます。
この事実は、精神科医である著者にとっても驚きだったようです。この事実は何を伝えようとしているのでしょうか。
・現在のうつ病診療の基本方針は、「薬」と「休養」である。うつ病患者が病院を受診すれば、抗うつ薬を処方され、休養を勧められる。したがって、うつ病患者が増えれば、抗うつ薬の売り上げが伸び、メンタル休職者が増える(p40)
さらに、抗うつ薬は、うつに効果が少ないというデータがあり、さらに、軽度のうつ病では、データ上は効果がわからないということがわかっています。具体的には、約二万人の臨床試験の結果では、抗うつ薬服用群の方がプラセボ投与群よりも、自殺者の比率が1.8倍と高かったのです。統計的な有意差はなかったのですが、薬を飲んでいる人のほうが自殺者が多かったのです。
それでも日本では、軽度のうつ病患者にもすべて抗うつ薬が処方されているのです。アメリカでは、子どものうつ病患者に薬物を投与する精神科医に対して批判が起きています。つまり、製薬会社と精神科医が、薬物でうつ病患者を作っている可能性があるということなのです。実際、抗うつ薬が普及しているアメリカ、フランスではうつ病患者が多く、抗うつ薬の普及が遅れた国の方が、うつ病が少ないという事実があるのです。
・一般向けのうつ病啓蒙書には「抗うつ薬を飲むと、六週間で約六割の人は改善します」といった説明が書かれている・・・しかし、抗うつ薬を飲まずプラセボ(偽薬)を飲んだ人でも六週間で五割の人は改善すると聞かされると、抗うつ薬に対する見方が変わってくる(p191)
数百人の職場では、何人かは精神的に問題を持っている人がいるものです。そうした人へのサポートは大切ですが、マクロ的に見て、薬を売るために病気かどうかわからないような人にまで 抗うつ薬を飲ませるというのは、どうなのかと感じました。
人はだれでも金儲けになると判断を間違うことがあるようです。原子力の安全神話にも通じるような会社の利益ばかり考えてしまう組織の危うさを抗うつ薬にも感じました。
冨高先生、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・昔の精神医学は、重症うつ病が診療対象の中心だった。重症うつ病とは、抑うつ気分が非常に強く、平常心を喪失しており、自宅で療養するのが難しいレベルのうつ病である(p26)
・高い薬はよく売れる・・・TCA(三環系抗うつ薬)の価格と比較して、SSRIの薬価が二~十倍高いことがわかる。(p68)
・軽症うつ病には抗うつ薬がほとんど効果がない、という臨床試験の結果を重視して、軽症うつ病には最初から抗うつ薬を使わないよう勧めている国もある・・・日本ではほとんどの精神科医は軽いうつ病患者にも、例外なく薬物療法から始めている(p204)
・なぜ日本の精神科医は同じ作用の薬を何種類も併用する・・・複数の抗うつ薬が処方されることが多い。しかも抗うつ薬だけでなく、抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬、気分安定薬と多岐にわたって、それぞれ複数処方されるケースが多い。(p233)
・医療において、専門家の間で意見が異なる問題に関しては、枚挙に暇がない。高血圧はどこまで降圧すべきか、高コレステロール血症はどのレベルから薬物治療を開始すべきか、未破裂の脳動脈瘤はどの大きさから予防的に手術すべきか、等々(p134)
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【私の評価】★★★★★(92点)
目次
第1章 うつ病患者が増えている
第2章 なぜ一九九九年からうつ病患者が増えたのか
第3章 なぜ「SSRI現象」は起きるのか
第4章 「SSRI現象」によるうつ病診療への影響
第5章 抗うつ薬の有効性について
第6章 増え続けるメンタル休職への取り組み
著者経歴
冨高辰一郎(とみたか しんいちろう)・・・1963年大分県生まれ。九州大学医学部卒。内科研修後、東京女子医大病院精神科にて精神科研修。日本学術振興会在外特別研究員としてカリフォルニア大学サンフランシスコ校にて薬理研究。精神科病院勤務、東京女子医科大学精神科講師を経て、現在パナソニック健康保険組合東京健康管理センターメンタルヘルス科部長。専門は、産業精神医学、精神薬理、性格学、医療情報。
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