人生を変えるほど感動する本を要約するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

【書評】「透析を止めた日」堀川惠子

2026/06/16公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

「透析を止めた日」堀川惠子


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー


透析患者の夫から見た透析の真実

数多くの賞を受賞してきたノンフィクション作家・堀川惠子氏が、自身の夫の透析生活を通して、日本の透析医療の改善を提言した一冊です。


著者はNHKのプロデューサーと結婚しましたが、夫はすでに血液透析を始めて8年目でした。透析患者は10年も生きられないと言われているなかでの覚悟の結婚でした。週に3回、午前5時に起きて透析を受け、終わったら職場に向かう生活を夫は黙々と続けていたといいます。


日本の透析患者は約35万人、医療費の総額が年間1兆6,000億円で日本の全医療費の約4%を占める透析は巨大ビジネスなのです。


そして、透析は止めれば1週間以内に死んでしまう生命維持装置であり、透析患者の終末期医療には一般の患者とは異なる複雑な課題があるのです。


透析を止めれば、1週間以内に死んでしまう(p113)

なぜ透析患者の緩和ケアが保険適用外なのか

この本で最初に指摘するのが、透析患者の緩和ケアをめぐる問題です。


日本の緩和ケアの保険適用対象は、がん患者とAIDS患者、重度の心不全に限定されています。末期腎不全患者はその対象外です。つまり、透析クリニックの医師がどれほど緩和ケアに取り組んでも、保険が適用されないため、実質的にタダ働きになってしまうのです。


その結果、体調が悪化した透析患者は提携する大病院に送られ、終末期に痛みのない措置を十分に受けられないまま苦しみながら死を迎えることになります。


よく、延命措置をせず、点滴も最低限にして枯れるように亡くなることを推奨する人もいますが、透析を止めれば患者は水分が体内に溜まり溺れるように苦しんで死ぬことになるのです。


また、もう数日で死ぬと分かっている患者であっても、透析を止めた医師が殺人罪で訴追される恐れがあるという現実も、このテーマの深刻さを示しています。


究極的には、一部の外国のように積極的な鎮静によって「安楽死」が緩和ケアの行き着く場所なのかもしれません。


終末期にどこまで透析をまわすかという見極めは、簡単ではない・・・医療者にとって生命維持装置と同義の透析を止めるハードルはとても高いという。透析を止めて訴えられたら、殺人罪で訴追される恐れもある(p221)

なぜ日本では腹膜透析が普及しないのか

この本が指摘するもう一つの課題が、腹膜透析の普及率の低さです。


日本の透析患者に占める腹膜透析の割合はわずか2.9%です。香港が69%、欧州やカナダが20〜30%、アメリカですら10%を超えているなかで、日本だけが極端に少ないのです。


腹膜透析は身体への負担が穏やかで、自宅や施設で亡くなるぎりぎりまで続けることができます。患者のQOL(生活の質)という観点からは、多くの場面で血液透析より優れているのです。


にもかかわらず普及しない背景として、著者は国内の血液透析のベッド数は47万床あるのに対し、実際の透析患者数は34万人という実態を説明しています。ベッドは70%しか埋まらない計算となり、透析クリニック経営の観点からは、患者に週3回来てもらう血液透析にのほうが収益につながりやすいのです。


この本では、在宅血液透析の営業マンが次のように語っていたと書いており、患者の生活の質を考えていない実態が説明されています。


われわれの業界は、これまで儲けすぎました。透析といえばビルが建つと言われてドル箱でしたけど、これからは人口が減っていきますし、そのうちクリニックのベッドも空いてきます・・それそろわれわれも患者のQOL(生活の質)について考えないといけない時代がきました(p197)

著者の意図への読者としての不安

著者は「緩和ケアの保険適用はがん患者とAIDS患者、重度の心不全に限定」されていることに対し、緩和ケアの保険適用範囲の拡大を主張しています。また、腎移植の「平均15年」という待機期間が長いという課題を指摘しています。(なぜ対案がないのか不思議ですが)そして患者の生活の質を上げる腹膜透析という選択肢の普及を主張しています。いずれも正当な問題提起のように感じます。

 
ただ、本書を読み進めるうちに、いくつかのひっかかりも感じました。


週3回、午前5時に起きて透析しながら仕事を続ける夫について、「不平不満も言わず黙々とこなしていた」と表現している点。NHKのプロデューサーである夫とともに制作したNHKスペシャル「JAPANデビュー」が台湾の取材先から偏向報道として裁判を起こされた経緯。夫が著者のゴルフバッグを見て「ブルジョアのスポーツなんか俺はスカン」と言っていたというエピソード。


こうした記述が、著者の視点に一定の「角度」があるかもしれないという不安を覚えるのです。告発的なノンフィクションですので、類書と読み比べ、透析クリニックで働いている親戚に実態を聞いて裏付けを確認できれば、評価は★4としたいと思います。


堀川さん、良い本をありがとうございました。


無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信)
3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。

この本で私が共感した名言


・かつては腹膜炎をおこしやすいと批判された腹膜透析だが、様相は変わりつつある・・・最近のアメリカ統計学会の調査では、患者一人あがりの腹膜炎発症率は、1984年の1.1回/年から、0.2以下にまで下がった(p277)


・意識がなくて、身体を動かせない状態であるのならば、いったい何のために透析をするのだろう・・・患者が意思表示をできない状態なら、透析を止める判断はいったい誰が、いつ下すのか。いや、そもそも透析を止めたら死んでしまう(p121)


・透析の時間を、すべて本を読む作業に充てたんだ。読書量が飛躍的に増えて、仕事の幅も奥行きも広がった。君も、もっと本を読んだらいい(p27)


▼引用は、この本からです
「透析を止めた日」堀川惠子
Amazon.co.jpで詳細を見る
堀川惠子 (著)、講談社


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次


第一部
第1章 長期透析患者の苦悩
第2章 腎臓移植という希望
第3章 移植腎の「実力」
第4章 透析の限界
第5章 透析を止めた日
第二部  
第6章 巨大医療ビジネス市場の現在地
第7章 透析患者と緩和ケア
第8章 腹膜透析という選択肢
第9章 納得して看取る
献体――あとがき


著者経歴


堀川惠子(ほりかわ けいこ)・・・1969年広島県生まれ。ノンフィクション作家。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』で第4回いける本大賞、『教誨師』で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』で第47回大宅壮一ノンフィクション賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』(林新氏と共著)で第23回司馬遼太郎賞、『暁の宇品―陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』で第48回大佛次郎賞を受賞。


参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ


ブログランキングにほんブログ村



<< 前の記事 |

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本


コメントする


同じカテゴリーの書籍: