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【書評】「サミュエルソンかフリードマンか 経済の自由をめぐる相克」 ニコラス・ワプショット

2026/07/06公開 更新
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「サミュエルソンかフリードマンか 経済の自由をめぐる相克」 ニコラス・ワプショット


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー


アメリカの経済学の主流はケインズ経済学

最近のニュースで「円高・インフレだから金利を上げよう」という報道が多いので、経済学ではどう考えるのかを調べようと手にした一冊です。


アメリカの主要大学ではケインズ経済学が教えられていますが、それをアメリカに根付かせたのがサミュエルソンです。それに対し、「自由市場」「小さな政府」を主張したのがフリードマンです。


二人は18年間にわたり「ニューズウィーク」誌で交互にコラムを執筆し、議論を戦わせました。本書はその流れをたどっています。


二人のインフレへの対応は根本的に異なります。フリードマンはインフレを「貨幣の量が増えすぎることで起きる」とし、金利引き上げと財政支出の削減を主張しました。


一方サミュエルソンは、インフレには賃金や原材料コストの上昇が転嫁される「コストプッシュ型」と、需要が供給を大きく上回る「デマンドプル型」があると主張しました。


コストプッシュ型のインフレに対して金利を上げ財政支出を減らせば、企業は金利コスト上昇でさらに値上げしてインフレが悪化するというのです。単純にインフレだから利上げするという安易な対策は、アメリカでは批判の対象なのです。


「コストプッシュ型の」ハイパーインフレーションは、世界各地における不作、インフレ率の上昇による経済の「過熱」など、「外的要因」によるものだと、サミュエルソンは主張した。そして、過度に単純化した説明や安易に見えるインフレ抑制策を提示する、フリードマンのような独断論者を、話のついでに非難した(p201)

経済学の失敗に学ぶ

アメリカの1920年からの景気後退と1930年の世界恐慌の原因について、フリードマンは「市場の生産過剰ではなく、FRBが十分な流動性を供給しなかったことが原因だ」と主張しました。


実際、FRBは1920年、1931年、1937年と三度にわたって金利や準備率を引き上げており、これが貨幣供給量の激減と工業生産の落ち込みを招いたというのです。


ただ、フリードマンはインフレを抑えるために、金融緩和・財政出動にブレーキを踏むことを主張し、サミュエルソンは、政府支出減と増税に反対しています。


イギリスの事例も参考となるでしょう。1975年にインフレ率が26%に達したイギリスで、サッチャー政権は金利を上げ、失業率は5.5%から11%へと倍増し、その後1980年代末まで失業者数は300万人前後で推移しました。


イギリスではインフレ対策の金融引き締めで失業が増え、失業給付の支出が増え、税収が減り、財政が悪化するという悪循環が生じたのです。


サミュエルソンはこの点について、「インフレは悪だが、経済成長の鈍化や失業の作為的な増加によってインフレを抑制することはさらに大きな悪だ」と述べています。


金融引き締め策の荒っぽい適用によって生じた失業は、・・失業給付を支払う必要があり、失業しなければ税金を払えていたはずの多くの人が、国の支援を頼りにせざるをえなかった。また、順調に行っていたら法人税を支払っていたはずの企業が倒産した(p321)

サミュエルソンのケインズ経済学

ケインズ経済学の核心は、政府が意図的に金利を下げ国債を発行することで経済に資金を供給し、公共事業で失業者を直接雇用するという発想です。サミュエルソンはこれをアメリカに広め、景気循環を制御する鍵は財政政策、公共支出と減税の組み合わせにあると主張しました。(日本はアベノミクスで金利を下げたのに、消費増税した)


1979年 にFRBがオイルショックによるインフレ退治のため金融を引き締めたとき、アメリカ経済は景気後退し、失業率は10%を超え、インフレはやっと収束しました。サミュエルソンは、インフレの解決策として、大量の失業を強要することは、インフレ対策としては正しい解決策であっても、経済的には間違いであるとしたのです。


失業のショックが国民にどれだけ苦しみを与えるのか、サミュエルソンは知っているのです。


2008年のリーマンショックを経て、著者はサミュエルソンの「新古典派総合」が正しいことが証明されたと述べています。好景気のときは市場の原理が有効に機能するが、経済が不況に向かい始めると、ケインズ主義的な治療法に重要な役割があるというのです。


政府は意図的に金利を下げ、国債を発行することによって、経済に大量のお金を送り込むことができると、ケインズは主張した。さらに、公共事業プログラムで失業者を直接雇用することもできると(p90)

日本の失われた30年との比較

日本の状況と重ね合わせながら、この本を読んでいました。アメリカの反省は、大不況時に貨幣を十分に供給しなかったこと。日本は失われた30年でアベノミクスまで金融緩和をやらなかった。


また、コストプッシュ型インフレに対して金利を上げ財政支出を削減すると、インフレ退治と同時に大不況となり失業者が増加するということです。そして現在、日本銀行は、円安によるインフレへの対策として利上げを検討しているのです。


日本は2008年のリーマンショックでも財政出動が遅れ、円高を招きました。日本の経済学に対し、不安になりました。


財政悪化に伴う長期国債金利の上昇を警告するニュースもありますが、財政悪化が金利上昇の原因ではなく、日銀が国債買い入れを減らしているからではないか。財源、財源というが財源は国民であり、景気をよくすることが財源ではないか、など疑問は尽きません。


日本の報道が正しいのか、本書の経済学的知見が正しいのか。もう少し経済学を調べてみたいと感じました。ワプショットさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・1951年、サミュエルソンは・・政府は景気変動の自然な波と反対の政策をとることによって失業を最小限に抑えることができると述べ・・・景気循環を制御する鍵は財政政策、すなわち公共支出と減税の組み合わせだという主張だった(p33)


・政府が新規マネーをたくさんつくったら、その結果は短期の繁栄と、それに続くインフレになる可能性が高いという(フリードマンの)主張は、筋の通った説明のように思われた。しかしサミュエルソンは、国民経済は家計のようには機能しないので、日常生活での現象に例える説明は誤解を招くと読者に釘を刺すのだった(p83)


・アーサー・ラッファー・・・税収を増やすために増税するよりも、税率を下げても税収の総額が増える「スイート・スポット」がこの曲線上になると、ラッファーは主張した(p271)


・1940年代以降、FRBは議会から、金利を操作することで失業率を最小限に抑えるという使命を課されていた(インフレ率の抑制は1977年まで使命とはされていなかった)(p147)


▼引用は、この本からです
「サミュエルソンかフリードマンか 経済の自由をめぐる相克」 ニコラス・ワプショット
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ニコラス・ワプショット (著)、早川書房


【私の評価】★★★☆☆(77点)


目次


オズの国
シカゴの教室で見つけたもの
失われた楽園
反ケインズ主義
対決するコラムニスト
介入するべきか、せざるべきか
貨幣がすべて
結論は急がずに
トリッキー・ディッキー
シカゴ・ボーイズ
FRBにはもううんざり
ハッピーエンドにならなくて
終点
食料品屋の娘
チープ・マネーでテロに打ち勝つ
すべてとんとん拍子に進む
ぐらつく資本主義


著者経歴


ニコラス・ワプショット (Nicholas Wapshott)・・・1952年イギリス生まれ。ジャーナリスト、作家。《タイムズ》《オブザーバー》《ニューズウィーク》などで記者・編集者として活躍後、アメリカに拠点を移し、現在はニューヨークに在住。著書に『レーガンとサッチャー』『ケインズかハイエクか』など。


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