【書評】「吉井理人 コーチング論 教えないから若手が育つ」吉井理人
2026/05/06公開 更新
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
「教えない」投手コーチ
2022年から3年間、千葉ロッテマリーンズの監督を務めた吉井理人さんによるコーチング論です。
吉井さんは近鉄バファローズでプロデビューを果たし、ヤクルトスワローズで日本一を経験した後、メジャーリーグのニューヨーク・メッツへ移籍。日本人メジャーリーガーとして史上2人目の完投勝利を達成するなど、投手として国内外で実績を出してきました。
引退後は北海道日本ハムファイターズ、福岡ソフトバンクホークスで投手コーチとして日本一に貢献しています。その吉井さんのコーチングの手法は、日本の野球界の常識とは真逆です。
日本の投手コーチは選手の欠点を指摘し、「ここをこうしろ」と具体的な修正を命じるアプローチをとりがちです。しかし吉井さんは、指示を与えるのではなく、投手に対してさまざまな問いかけをしながら、選手自身が自分の状態を言語化するのを助けるのです。
選手はすぐに「自分は今どうなっていますか?」「どうすればいいですか?」と答えを求めてきます。しかし吉井さんはあえて直接は教えず、本人が自分の状態を冷静に把握し、自分なりの「コツ」をつかめるよう、導いていくのです。
欠点を指摘して「ここをこうしろ」と命じるやり方ではうまくいかない・・・選手自身が問題を認識し、改善策を考えられるようにならなければ意味がない(p19)
日本のコーチは「教えすぎる」
吉井さんがこのコーチングに至った背景には、自身の苦い経験があります。プロ入り直後、投手コーチからフォームについてあれこれと指示を受け続けた結果、大混乱に陥り、狙ったところに投げられなくなってしまったのです。
自分がコーチになりたての頃も、自分のアドバイスが正しいのかどうか半信半疑なまま助言を続け、結果としてそれが選手にマイナスに働いてしまったこともあったと率直に認めています。
どれほど的確なアドバイスであっても、選手が自分の中で消化できなければ意味がないどころか、逆効果になりかねないのです。
また、練習量を追い求める日本の練習方法についても、吉井さんは、疲労が溜まり成果が出せないことがあると警鐘を鳴らしています。
日本の投手はブルペンで通常25球ほど投げますが、吉井さんはリリーフ投手に対して「15球以内で肩をつくってほしい」と提言しています。
量を追い求めるのではなく、質と効率を重視するという姿勢は、メジャーリーグでの経験が大きいのでしょう。
いろいろなアドバイスを受けても自分で消化できなければ、パニックに陥ってしまう。斎藤佑樹もそうだった(p35)
「振り返り」で自分を言語化する
吉井さんが投手コーチとして実践してきた指導の手法は、投手グループでの「振り返り」です。前日の試合の一場面をテーマに取り上げ、実際に投げた投手に説明してもらいながら、ほかの選手からも「自分ならこう思う」「自分ならこうする」と意見交換するのです。
この「振り返り」によって、投手は自分の投球がどのような心理状態のもとで行われていたのかを言語化できるようになります。言語化できれば、どんな感情のときにどんな失敗が起きやすいのか、どんな状態のときにうまくいくのかを、自分自身で把握できるようになります。
コーチが正解を与えるのではなく、選手が自ら気づき、自ら修正できる力を育てることこそが、吉井さんのコーチングの目指すところなのです。
「振り返り」作業がものをいう。昨日の投球はどんな感情のもとで行われていたのか・・・どういう感情で投げると、どういう失敗をするのか、自覚できるようになる(p141)
選手ができないのはコーチの責任
吉井さんがこの本で伝えたいことは「選手ができないのはコーチの責任」ということです。指導者が自らの至らなさや未熟さを棚に上げ、選手を叱りつけるのは非常に恥ずかしいことだと、著者は厳しく批判しています。
特にプロ野球の世界では、高い能力と才能を持った選手が入団してきます。コーチがすべきことは、選手のフォームを一方的に変えようとすることではなく、その選手の個性や特徴を最大限に引き出すことだというのが吉井さんの信念なのです。
なお、吉井さんが監督を務めた2025年シーズン、千葉ロッテマリーンズは最下位という結果に終わりました。吉井さんはその責任をとって退任しています。「選手ができないのはコーチの責任」という自らの言葉を、監督という立場でも最後まで有言実行したということなのでしょう。
日本とアメリカ、それぞれの指導文化の良い部分を取り入れた、吉井流のコーチング哲学は、スポーツの指導者だけでなく、ビジネスの現場でも参考になりそうです。吉井さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・ニューヨーク・メッツの投手コーチから「君のことは君自身が一番よく知っているのだから、おれに君のことを教えてほしい」と言われ、驚いた(p209)
・メジャーリーガーのオフのトレーニングは非常に厳しい。個人トレーナーやコーチを雇い、徹底的に自分を追い込むのだ。さぼっていたら、あっという間に今の地位を失う(p116)
・モチベーションが大いに上がった経験がある・・仰木彬(あきら)監督からいただいた言葉だ。「来年はええとこで使うからな」・・・次のシーズンで重用すると言っているのだ。奮い立たないわけがない(p177)
▼引用は、この本からです

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吉井理人 (著)、徳間書店
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 コーチングの心得
第2章 「振り返り」作業
第3章 目先でなく、トータル
第4章 「個性」の見極め
第5章 「コツ」と「駆け引き」
第6章 杓子定規の助言はNG
第7章 大谷翔平について
著者経歴
吉井理人(よしい まさと)・・・1965年生まれ。和歌山県立箕島高等学校卒業。1984年、近鉄バファローズに入団し、翌1985年に一軍投手デビュー。88年には最優秀救援投手のタイトルを獲得。1995年、ヤクルトスワローズに移籍、先発陣の一角として活躍し、チームの日本一に貢献。1997年オフにFA権を行使して、メジャーリーグのニューヨーク・メッツに移籍。1998年、日本人メジャーリーガーとして史上2人目の完投勝利を達成。1999年には、日本人初のポストシーズン開幕投手を担った。2000年はコロラド・ロッキーズ、2001年からはモントリオール・エクスポズに在籍。2003年、オリックス・ブルーウェーブに移籍し、日本球界に復帰。2007年、現役引退。2008年~2012年、北海道日本ハムファイターズの投手コーチに就き、2009年と2012年にリーグ優勝を果たす。2015年、福岡ソフトバンクホークスの投手コーチに就任し、日本一に輝く。2016年~2018年、北海道日本ハムファイターズの投手コーチに復帰し、2016年には再び日本一に。2019年、千葉ロッテマリーンズの投手コーチに就任。2022年からは、千葉ロッテマリーンズの監督に就く。
野球監督関連書籍
「吉井理人 コーチング論 教えないから若手が育つ」吉井理人
「伝わる言葉。 失敗から学んだ言葉たち」須江 航
「栗山ノート」栗山 英樹
「野村ノート」野村 克也
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