「JAL123便墜落事故 自衛隊&米軍陰謀説の真相」杉江 弘
2024/04/24公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
JAL123便墜落事故の謎
1985年に群馬県の御巣鷹山にJAL123便が墜落した事故について、陰謀論を主張する人がいます。JAL123便墜落事故について知るため関連書籍を3冊読んでみました。その結果、この本が一番真相に近いと思いましたのでご紹介します。
まず、事故現場に到着した米軍機を引き揚げさせたのは、誰なのか。なぜなのか、という疑問です。現場を最初に発見したのは米軍であり、米軍の救助活動に、日本側が後から参加するという選択肢もあったはずなのです。米軍の救助を日本側が断り、その結果、現地で救助活動が開始されたのは、翌日の日の出後となったのです。
元JAL機長である著者の推測は、各省庁の連携がうまくいかなかったのか、それとも何か表に出るとまずいものがあったのではと勘ぐりたくもなると 歯切れの悪いものとなっています。つまり、米軍と自衛隊の間のやり取りが公開されていないのです。
当時の運輸大臣・山下徳夫は後日、「自衛隊のヘリが夜間飛行できず、危険を伴うので夜間降下できなかった」と答え、米軍とどのような話をしたのかについては言明を避けた(p125)
中途半端な事故調査
次の疑問は、なぜ調査報告が行われる前にボーイング社が圧力隔壁を調査し、圧力隔壁の修理ミスが原因と主張したのか、ということです。事故調もマスコミも調査はこれからという時なのに、ボーイング社が圧力隔壁だけを調査して事故原因を発表することは、不自然さいっぱいなのです。
また事故調査委員会は、破壊された垂直尾翼が落下したと考えられる相模湾での捜索を十分に行わず、実験だけでボーイング社が主張する圧力隔壁破壊が原因として報告書をまとめてしまいました。
著者はこうした状況証拠から、なんらかの政治的な動きがあったのではないかと推測しています。日本の運輸安全委員会に設置される事故調査委員会は、人事で国交省の影響下にあり、事実の解明と再発防止よりも、政治的に結論を出す可能性のある組織なのです。
相模湾での海底捜索を十分に行わなかった・・破壊された垂直尾翼などを改定から引き揚げて断面などを調べれば圧力隔壁の破壊によるものなのか、・・外部から衝突した結果か、明らかになるはず(p87)
事故の教育訓練をしていないJAL
興味深いのは、JAL123便の墜落事故を受け、JAL社内では安全啓発センターを設置しただけで、JAL123便の事故の再発防止のための会議や具体的な教育や訓練を一切していないという著者の証言です。また、事故調はJALや全航空会社に対して、同じ状況になったときの訓練の実施や義務化を勧告していないのです。
著者は、その理由を事故後に機長や副機長がとった判断や操縦に批判的なことをいう行為が批判される空気の存在を指摘しています。そのうえで著者は「再発防止の議論」をしっかり行うことを提案しています。しかし、私はに「実は、JALも事故調も圧力隔壁の破壊が事故の原因と信じていない」のではないかと妄想してしまいました。
JALは現場のパイロットに、事故に関連した教育も訓練も行ってこなかった(p14)
航空機事故の免責制度が必要
ボイス・レコーダーの記録についは、著者は違和感はないとしています。しかし、裁判でボイスレコーダーがJALに戻されていることを理由にデータは公開されませんでした。著者は元JAL社員であり、著者の意見は割り引いで考える必要があるのでしょう。
著者はそもそも論として、事故調査よりも警察捜査が優先される日本では、航空機事故の本当の原因を解明することは非常に難しいとしています。アメリカでは故意でなければ、航空機事故で機長が責任を問われることがなく、事故調査と再発防止が優先されるのです。
JAL123便墜落事故で、真実を明らかにして再発防止を優先するような姿勢が事故調査委員会とJALにないのは、こうした制約から、真面目な人だけが損をする構造が原因なのかもしれません。
警察には証拠保全の優先権を与え、立件する場合には裁判所で事故調査報告書が使われることを容認している。これでは事故の当事者が事故調に本当のことをすべて証言するなど不可能に近い(p99)
運輸安全委員会の独立が必要
JAL123便墜落事故に闇があることがわかりました。これだけ多くの関係者がいる中で、だれも真相を話そうとしないことも、謎の一つです。誰か死ぬ直前に、話してくれないでしょうか。
日本の航空機事故の本当の原因を明確にするためにも、アメリカのように運輸安全委員会を完全に独立させたり、関係者に過失の免責を与える必要があるのだと思いました。日本の航空機行政が遅れていることがよくわかりました。杉江さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・米軍の戦闘機が民間機に急接近したことがある・・自衛隊や米軍は民間航空機を仮想標的として、訓練に利用することが十分ありえる(p60)
・雫石衝突事故をめぐるその後の裁判では、自衛隊側はなんと全日空機のパイロットに過失があったと主張した・・有視界飛行方式で訓練していた軍用機のほうに見張り義務があるのは当たり前である(p11)
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
第1章 青山透子『日航123便墜落の新事実』の真相
第2章 「ブラックボックス」は語る―「JAL123便墜落」徹底検証
第3章 生存者を見殺しにした日本政府とJALの責任
第4章 パイロットに残された教訓
第5章 「ハドソン川の奇跡」に学ぶ最善の生還術
著者経歴
杉江弘(すぎえ ひろし)・・・元・日本航空(JAL)機長、日本エッセイスト・クラブ会員。愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本航空入社。ボーイング747の飛行時間は約1万4000時間を記録し、世界で最も多く乗務したパイロットとしてボーイング社より表彰を受ける
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確かに今に思うとJAL123便、墜落機の捜索に当たり、なぜなぜとの問いに、「なるほど」、真剣に事故の原因を探る必要性、この本の核心を突く内容かと思うに至りました。なるほど。