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「乗ってはいけない航空会社」杉江 弘

2024/05/09公開 更新
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「乗ってはいけない航空会社」杉江 弘

【私の評価】★★★★☆(87点)


要約と感想レビュー


基本ルール違反はなぜ起こるのか

2024年1月に羽田空港で、滑走路上で待機していた海上保安機にJAL516便が衝突した事故がありました。管制官もパイロットもなぜ誰も気づかなかったのか?と疑問に思いますが、世界では基本的なルールを守っていないための事故は、数多く起きているのです。ちょっと古い本ですが、航空機の安全はどうなっているのか、元JAL機長から教えてもらいましょう。


例えば、2013年アシアナ航空214便は、サンフランシスコ国際空港への着陸に失敗・炎上しました。運航規程上の最低視界は1400mでしたが、滑走路付近の視界は290mまで下がっていたのに着陸を強行したのです。著者が問題の原因として指摘するのは、パイロットの訓練不足もありますが、その背景にあるのは軍出身パイロットのなんとかなるだろう運転や、それを指摘できないコクピットの物言えない雰囲気だというのです。


アシアナ航空214便・・着陸に失敗・・副操縦士は役割として、決められたタイミングで速度や高度を読み上げるPM DUTYを果たす必要があるのに、それを実行していなかった(p17)

機長に物言えない副機長

軍出身パイロットのなんとかなるだろう運転の事例としては、2016年に航空自衛隊のU125が御岳中腹に墜落した事故です。ブルーインパルス出身のベテランパイロットが、有視界飛行の雲の中に入らないというルールを守らず、さらに対地接近警報も無視したという事例です。


また、2015年には那覇空港で、航空自衛隊ヘリCH47が管制官の指示を得ずに離陸し、離陸滑走中の全日空機の前を横切っています。著者は、有視界状況で離陸滑走路に飛行機がいるのかいないのか確認しないのは理解できないとしています。車でも大きい通りに出るときは、信号が青でも左右確認くらいするだろうということです。


機長に物言えない事例としては、1997年に大韓航空機がグアム空港の手前の丘へ墜落した事故があります。機長の進入方法に疑問をもっていたベテランパイロットが機長に注意できなかったのが事故の原因とされているのです。また著者は、JALは世界で唯一、機長の全員管理職制度を続けており、副操縦士が機長に反論できない物言えぬ環境にあることも警告しているのです。


軍用機では作戦上「イチかバチか」の状況もある・・民間航空機の運航では「例え1万回着陸しても1回の失敗も許されない」という考え方が必要だ(p29)

パイロット不足と訓練不足

パイロットの不足から航空会社の多くは、複数での運転を前提として、一人で飛行機を操縦する経験が十分でなくてもよいというMPLのライセンス制度を導入しています。著者としては、機長がいなくなった場合、どうするのか心配なのです。MPLライセンスでは失速からの回復訓練もシミュレーターを使った簡易なものとなり、緊急時に役立たないと警告しています。


さらに最近の飛行機は自動化が進み、システムにトラブルがあった場合、手動に戻して対応する必要があります。手動での対応経験が不足すると緊急事態に対応できない可能性があるのです。


特に自動化された飛行機は、パイロットの意図と違った動きをする場合があります。1994年の中華航空140便墜落事故では、間違って自動のゴーアラウンド(急上昇)モードを作動させてしまったため、着陸しようした機長の意思とは反対に飛行機は上昇しようとして、最終的に機長がゴーアラウンドしようとしたときに、機体が急上昇して墜落してしまったのです。実は、エアバスA300では同じようなトラブルが3件あったのにエアバスは改善しておらず、必然の事故だったのです。 


MPLのライセンス制度・・失速からの回復訓練はシミュレーターを使った、数回の体験課目となることだろう。これだけでは緊急時に役立つことはありえない。そもそもMPLでは、一人で飛行機を操縦する経験が十分なくてもよいとしている(p40)

日本の航空安全の課題は免責制度

最後に著者が警告するのは、再発防止より犯人探し優先する日本の航空機事故調査の体制です。日本では、航空機事故調査よりも警察の捜査が優先され、結果的に事故の真相が解明されないことが多いというのです。結果して、同じような事故が繰り返されるリスクがあるわけです。


一方アメリカでは、政府から独立したNTSB(米国家運輸安全委員会)が事故の原因究明を行います。また、連邦刑法に過失致死等の規定がなく、過去に航空事故の関係者が犯罪容疑に問われた例はないので真相が解明され、対策が取られやすいという。


安全報告制度についても、アメリカで年間3万件を超える報告が上げられているのに、日本では年間40~50件とも少ないのです。仕組みとして、航空機事故を減らそうという意思が国土交通省航空局にはないということなのでしょう。杉江さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・トランスアジア航空・・ATR72だけでも過去20年で8回の事故を起こしている・・故障したエンジンを十分にメンテナンスせずに使用(p87)


・ガルーダ・インドネシア航空・・避難誘導すべきCAが、われ先に乗客より先に避難した(p94)


・ジャンボ機では着陸時におけるフラップは30(度)が原則・・原則フラップを25とする方針転換が見られ、JALでもその結果、1978年に伊丹空港で尻もち事故を起こし・・修理ミスがあの123便(御巣鷹山事故)につながった(p151)


▼引用は、この本からです
「乗ってはいけない航空会社」杉江 弘
杉江 弘、双葉社


【私の評価】★★★★☆(87点)


目次


第1章 "安全性ランキング"は信用できるか?
第2章 パイロットの深刻な技量不足
第3章 自動化・ハイテク化がもたらす危険
第4章 国・地域によって異なる安全度 ~アジア篇
第5章 国・地域によって異なる安全度 ~ヨーロッパ・ロシア・オセアニア篇
第6章 国・地域によって異なる安全度 ~日本篇
第7章 "奇跡のフライト"はなぜアメリカの航空会社でばかり起きているのか?
第8章 テロの危険を最小限にするために
第9章 本当のエアラインランキング



著者経歴


杉江弘(すぎえ ひろし)・・・元日本航空機長、日本エッセイストクラブ会員。愛知県豊橋市生まれ。1969年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日本航空入社。ボーイング747の飛行時間は約1万4000時間を記録し、世界で最も多く乗務したパイロットとしてボーイング社より表彰を受ける。数々の著作において航空機事故を検証、ハイテク機に対する過信に対して警鐘を鳴らしている


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