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「両利きの経営(増補改訂版)ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く」

2023/12/18公開 更新
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「両利きの経営(増補改訂版)ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く」


【私の評価】★★★★☆(83点)


要約と感想レビュー

両利きの経営とは

タイトルの「両利きの経営」とは、既存の事業を改善・深化させていくことと、新しい市場や技術を探索することを両立することです。ところが既存の成功している企業では、この「両利きの経営」の必要性は理解されているものの、実際には探索から得られた新しい市場に参入し、新規事業を成功させることは難しいのです。


典型的事例としては、写真フィルムで世界市場を支配していたコダックと富士フィルムがカメラのデジタル化によってフィルムの売上が急速に減っていった環境変化への対応です。富士フィルムは、そうした環境変化に対し、半導体用の機能材料、医薬品、化粧品事業に投資を行い、現在は売上高のほぼ半分をヘルスケアと素材が占める医療機器メーカーと変貌しました。一方、コダックは本業に固執し倒産してしまったのです。


・富士フィルム・・経営者には、20年、30年先を考えて、いや、もっと先のことを考えて、会社を存続し繁栄させる責任がある(p162)


新規事業は経営者のリーダーシップの問題

この本の主要テーマは、なぜ成功している企業にとって環境変化に適応することが難しいのかということです。その本の答えは、既存事業の深化がマネジメントの問題だとすれば、新規事業の探索は経営者のリーダーシップの問題であるということです。


新規事業とは、収益性の高い既存事業から人材と資金を取り上げて、不確実で利益率の低い新規事業に投入することです。よくある失敗事例としては、若く、経験の少ない人材に新規事業を任せてしまい、組織の中で不安定で未熟な事業を育てるために必要な人脈や信頼関係を持っておらず協力を得られないというパターンです。


また、新規事業を推進する経営者がいるうちはまだいいのですが、その経営者ががいなくなったとき、後任者が既存事業からのコストと利益率に関する圧力の防御壁になってくれるとは限らないのです。このように新規事業は既存事業の資金や人材の力が得られにくく、逆に足を引っ張られやすいので、往々にして簡単に頓挫してしまうのです。


・GMでは、みんな提案するとうなずくのに、支援してくれない「GM流うなずき」と呼ばれる傾向が見られた(p198)


富士フィルムやAGCが良好事例

したがって、この本では新規事業を推進するためには、経営陣の新規事業推進のためのサポートが欠かせないと結論づけています。


例えば、ネットフリックスでは既存のDVDレンタルと共食いになるにもかかわらず、ビデオ・オン・ディマンドの新技術への多額の投資を行い、値下げを断行しています。また、アマゾンにおいても、顧客中心・低価格という方針に基づきキンドル、AWS、アマゾンプライムなど革新的サービスへ投資しており、財務を重視すればこうした投資は決定できなかったであろうと、創業者ジェフ・ベゾスは語っているのです。


つまり、戦略的刷新は片手間にやるべきことではなく、経営陣の決断と、フルタイムで従事する組織と人材があって初めて、既存組織からの抵抗に耐え、革新を推進することができるのです。


富士フィルムやAGC(旧・旭硝子)が良好事例として紹介されていることに、ちょっとうれしくなりました。そして経営者の判断で、会社が簡単に消滅してしまう可能性があることにも、恐ろしくなりました。オライリーさん、タッシュマンさん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・規範・・別の行動をとれば、周囲から眉をひろめられ、罰せられることを、人々を学んでいく。規範を守る人が出世し、新規採用では企業の期待値に合った能力を持つ人が選ばれる(p97)


・インテルの従業員は「建設的な対立」を教わり、同意できなければ常に意見を戦わせることが期待されている。マッキンゼーでは、たとえ相手が上級幹部でも異論があれば「反対する義務」があると全社員に教育している(p198)


・AGC(旧・旭硝子)・・40代後半のポテンシャルの高いマネジャーを集めて二つのチームをつくり、「2025年のありたい姿」の策定プロセスに参加させて、今後10年で自社がどの分野に進出すべきかを決定するという課題を与えた・・・変革反対派を異動させて変革プロセスへの抵抗勢力を排除する(p281)


▼引用は、この本からです
「両利きの経営(増補改訂版)ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く」
チャールズ・A・オライリー, マイケル・L・タッシュマン、東洋経済新報社


【私の評価】★★★★☆(83点)


目次

第1部 基礎編:ディスラプションに向き合うリーダーシップ
 第1章 イノベーションという難題
 第2章 探索と深化
 第3章 イノベーションストリームとのバランスを実現させる
 第4章 競争優位/競争劣位としての組織文化
第2部 実践編:イノベーションのジレンマを解決する
 第5章 7つのイノベーションストーリー
 第6章 実行面で成否を分ける紙一重の差
 第7章 イノベーションの3つの規律三領域
第3部 飛躍する:両利きの経営を徹底させる
 第8章 両利きになるための4つの要件
 第9章 両利きをドライブさせるリーダーシップと幹部チーム
 第10章 変革し続けるために



著者経歴

チャールズ・A・オライリー( Charles A. O'Reilly)・・・スタンフォード大学経営大学院教授。カリフォルニア大学バークレー校で情報システム学の修士号、組織行動論の博士号を取得。同校教授、ハーバード・ビジネススクールやコロンビア・ビジネススクールの客員教授などを経て現職。専門はリーダーシップ、組織文化、人事マネジメント、イノベーションなど。スタンフォード大学のティーチングアワードやアカデミー・オブ・マネジメント生涯功労賞などを受賞。また、ボストンのコンサルティング会社、チェンジロジックの共同創業者であり、欧米やアジアの幅広い企業向けにコンサルティング活動やマネジメント研修(破壊に対応するための企業変革や組織刷新、リーダーシップなどのプログラム)に従事してきた。スタンフォード大学のSEP(エグゼクティブ・プログラム)でも教鞭を執る。


マイケル・L・タッシュマン(Michael L. Tushman)・・・ハーバード・ビジネススクール教授。コーネル大学で科学修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)で組織行動論の博士号を取得。コロンビア大学教授、MIT客員教授、フランスINSEAD教授などを経て現職。専門は技術経営、リーダーシップ、組織変革など。アカデミー・オブ・マネジメント特別功労賞や全米人材開発機構(ASTD)生涯功労賞などを受賞。また、ボストンのコンサルティング会社、チェンジロジックの共同創業者であり、コンサルティング活動やマネジメント研修に従事。ハーバード・ビジネススクールのAMP(アドバンスト・マネジメント・プログラム)、マネジメント育成・変革リーダーシップ・組織刷新プログラムのファカルティ・ディレクターも務める。


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