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「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場」佐々 涼子

2023/11/09公開 更新
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「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場」佐々 涼子


【私の評価】★★★★☆(81点)


要約と感想レビュー

日本製紙石巻工場の震災

2011年の東日本大震災の津波で、宮城県石巻の海岸線に立地している日本製紙石巻工場は壊滅的な被害を受けました。日本製紙は日本の出版用紙の約4割を生産しており、石巻工場だけで、日本製紙の国内販売量の四分の一を供給しているので日本の出版用紙の1割が消滅することになったのです。


国内向けの受注品一部は他の製紙会社に委託することでカバーできるものの、どうしても供給できないところが出てきます。日本製紙としては、あくまでも国内のお客様を優先し、海外のお客様からお断りすることにしたという。


また石巻工場では、設備の復旧の責任者である工場長が、復旧の期限を半年と決め、従来の積み上げの工程から、ゴールから逆算して、社員一人ひとりができることをやり切ることにしました。誰もが「そんなの無理」と考えたようですが、実際、石巻工場の8号機は震災から半年後の9月14日に再稼働できたのです。


・工場長・・まず、復興の期限を切ることが重要だと思う・・まず一台を動かす・・そこで期限を切る。半年。期限は半年だ(p107)


震災は人間の悪いところを見える化する

12年前の震災ですが、被災の描写が生々しくて当時を思い出しました。波にのまれる人。流れてくる家の屋根。「助けてくれ~」と叫ぶ声。そうした声も時間とともに聞こえなくなったという。誰もが親戚や友人を亡くし、ある人は無表情でもくもくと瓦礫を撤去し、ある人は頑張ろう!と笑顔で作業する。それを「何、笑ってるんだ!」と怒る女性。誰もが苦しいなかで、なんとか生きていたのです。


テレビでは被災者が助け合う良いことばかり報道していましたが、実際には、誰もいない家や店舗から金品を強奪している人がいて、現地の人々はその現場を目撃しましたが、何もできませんでした。「日本製紙がごちそうを囲んで宴会を開いている」というデマが飛んだこともあり、災害の現場では、そうした人間の悪いところも見えてきてしまうのです。


・街は昼間でも人影がない。嫌でも不審者がぶらついているのが目に入った。彼は、ファミリーマートを2,3家族が集団で襲撃しているのを目撃した(p212)


製紙業界が出版を裏で支えている

書籍や雑誌は、内容を企画する出版社、紙を作る製紙会社、紙に印刷する印刷会社、本を配送する取次、本を販売する書店のラリーで作られていることがわかりました。製紙業界が出版を裏で支えていることがわかりました。将来的には、電子書籍が増えていくと思いますが、紙の文化はしばらく続くはずで、製紙会社に頑張ってもらわないといけません。


身近にこうした工場があることは誇らしいことだと思いました。佐々さん、石巻工場の皆さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・石巻工場閉鎖はあり得ない・・石巻抜きでは、遅かれ早かれ日本製紙は倒れる(p112)


・文庫っていうのはね、みんな色が違うんです。講談社が若干黄色。角川が赤くて、新潮社がめっちゃ赤(p145)


・野球部に練習を再開・・はたして野球部はコストか、日本製紙復興のシンボルか。結果はやってみなければわからない(p196)


▼引用は、この本からです
「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場」佐々 涼子
佐々 涼子、早川書房


【私の評価】★★★★☆(81点)


目次

第1章 石巻工場壊滅
第2章 生き延びた者たち
第3章 リーダーの決断
第4章 8号を回せ
第5章 たすきをつなぐ
第6章 野球部の運命
第7章 居酒屋店主の証言
第8章 紙つなげ!
第9章 おお、石巻



著者経歴

佐々涼子(ささ りょうこ)・・・1968年生まれ。早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経て、ノンフィクションライターに。新宿歌舞伎町で取材を重ね、2011年『たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん』を上梓。


震災復興関係書籍

「電力と震災 東北「復興」電力物語 」町田 徹
「天国にとどけ! ホームラン: 3.11を乗りこえて、バッティングセンターを作った父子の物語 」漆原 智良
「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場」佐々 涼子


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