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「洗脳の楽園―ヤマギシ会という悲劇」米本 和広

2022/07/29公開 更新
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「洗脳の楽園―ヤマギシ会という悲劇」米本 和広


【私の評価】★★★★☆(88点)


要約と感想レビュー

ヤマギシ会に入る

安倍首相の暗殺で注目された統一教会では、合同結婚式を行っています。どうすればこのような異常な行事を行えるるのか、洗脳について興味を持ち、手にした一冊です。この本ではヤマギシ会という農業・牧畜をしながら共同生活を行っている組織の洗脳の手法を紹介しています。1997年と古い本なので、現在のヤマギシ会がどうなっているのかわかりませんので、洗脳の手法だけ紹介していきましょう。


ヤマギシ会に入るためには、特別講習研鑽会(以下特講)に参加する必要があります。「特講」を受けると、人が変わったようになり仕事も財産も家族をも投げ捨ててヤマギシ会に入る人が出てくるというのです。著者も実際に「特講」を受けてみることにしました。著者が受けた「特講」には男53人、女36人の89名が参加しました。男性のほとんど46人は、妻がヤマギシ会にハマリ、妻から特講を受けなければ離婚すると言われて、しぶしぶ参加した人だったという。


8日間の「特講」では、食事は一日二食。寝るときは一つの布団に二人で寝る。この布団に二人で寝るのが曲者で、著者は隣の人が気になって寝不足になったという。また、持ち物を没収され、係から指示されそれに従う生活をしていると、不安になり、集団に溶け込みたいという気持ちになったというのです。そのためか、自分の頭で考えることができなくもなったという。


あなたはいつも腹を立てている。その性格を直すために「特講」に行って欲しい。気持ちが楽になるし、幸せになれる。(p111)

特別講習研鑽会(特講)の内容

「特講」では係が質問して、参加者が一人ひとりが質問への答えを発言するという形で進みます。


まず、「嫌いな食べ物を出し合ってみましょう」と質問され,嫌いな食べ物をあげていきます。そして、「それは嫌いなものですか」と係が質問を続けるのです。「嫌いなものは嫌い」と答えても、「それは嫌いなものですか」とひたすら質問し続けられるのです。そのようなやりとりをひたすら続けていると、「卵を嫌いといいましたが、卵は卵であって、卵が嫌いなのは自分に原因があるのではないか」と言う人が出てきたり,別の人は「ゴキブリがただのゴキブリに見えてきました」という人も出てきたという。


次は「腹が立つ」ことについても,同じことを繰り返すのです。「なぜ、腹が立つのですか」とひたすら聞かれていると、不安になり、寝不足の中で、そこに答えを出さなければという心理になってしまうのでしょう。「腹を立てても問題は解決しない」と発言する人がでてくるのです。また、「角が取れた」「楽になった」と発言する人もあり、そうした人に後でインタビューすると、「仕事をやめようと思えばやめられる、やろうと思ったら何でもできると満足感を味わい、同時に快感が走り、心が軽くなったというのです。


他の人は、意識が宇宙に飛び出したり、観音様が登場したり、お腹に光が生まれたなど涙を流しながら、こうした超常現象を感じていたというのです。


意識が宇宙に飛び出し、観音様が背中に登場する。食器が踊り、お腹に光が生まれる。彼らの話は驚きの連続だった(p219)

「幸福一色・快適社会」を輪読

その他には、ヤマギシのテキストを読み上げて、参加者に感想を求めるというワークもあります。これは、ヤマギシのテキストの内容を頭の中にイメージとして残すことを目的としているようです。例えば「世界革命実践の書」では「幸福一色・快適社会」を輪読し、そのイメージがヤマギシ村で暮らしたいという希望をインプットさせるのです。


我欲を捨てることが前提となっているヤマギシ会では結婚は恋愛ではなく、調正係が結婚相手を決めるという。それも男性の多いヤマギシ会では20代前半の女性と30、40代の男性が結婚するというパターンが多いのです。そのため小学校の娘を持つ村人は、娘を中年男に嫁がされると思うとやりきれなくなって、ヤマギシ会を出たという。我欲、我執のない人間が集まっているという理屈なので何をしても問題ないということなのでしょう。


山岸巳代蔵は、男性の村人を一列に並ばせ、襖一枚隔てた部屋で女を寝かせ、一人ずつ交尾した。それは男性に我執が起こらないか研鑽するためだった(p307)

寝不足にする。質問を繰り返して圧力をかける

ヤマギシ会の「特講」でのポイントは、持ち物を取り上げて不安にすること。寝不足にすること。繰り返し質問を繰り返して圧力をかけること。洗脳したい内容を読ませ、意見を求める。というところです。高いストレスの中で、その状態から逃げ、自分を守るために脳がその状態を肯定する全能感、多幸感を持つ状態になっているようなのです。


これは日本の検察の長い取り調べや、ウイグルで行われている収容所での洗脳教育と同じもののように感じました。普通の人間は長時間のストレスに耐えられないのです。洗脳についてはもう少し調べてみます。米本さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・村人の労働は厳しい・・・年間の総労働時間は4000時間弱に及ぶ(p41)


・ヤマギシ村では事故や自殺がやたらと多い。・・・20年間に自殺者が五人、事故死は12人に及ぶ。5千人の村にしては死人が多いのである(p283)


・特講生の23、4%が研鑽学校に入り、特講生の6%弱が村に入ってきます(p252)


・研鑽学校の最終日に参画請願の署名をすると、村人から財産目録を記入するように指示される(p289)


・村に参画するのは、親への情という執着を断ち切った人である・・・ところが、親への執着は断ち切れといいながら、親の遺産には執着しろというのである(p296)


▼引用は、この本からです
「洗脳の楽園―ヤマギシ会という悲劇」米本 和広
米本 和広、洋泉社


【私の評価】★★★★☆(88点)


目次

僕なんか死ねばいいんだ
地上の楽園
脱走する子どもたち
交わることのない"二つの真実"
脳を洗う
脳を洗った八十八人のその後
脳に浮かんだユートピア
「地上の楽園」の実態
ユートピアの終着点



著者経歴

米本 和広(よねもと かずひろ)・・・1950年生まれ。横浜市立大学卒業。「識研新聞」記者を経て、フリーのルポライター。著書に『カルトの子』、『我らの不快な隣人』、『教祖逮捕』など多数。書籍に対して、カルトと指摘されたヤマギシ会、ライフスペース、幸福の科学が裁判を起こしたが、いずれも棄却判決(筆者勝訴)となっている。


ヤマギシ会関連書籍

「「ヤマギシ会」と家族: 近代化・共同体・現代日本文化」黒田 宣代
「洗脳の楽園―ヤマギシ会という悲劇」米本和広
「カルトの子―心を盗まれた家族」米本和広


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