「「ヤマギシ会」と家族: 近代化・共同体・現代日本文化」黒田 宣代
2024/03/03公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(70点)
要約と感想レビュー
ヤマギシ会とは
ヤマギシ会とは、創始者山岸巳代蔵の「山岸式養鶏会」を前身としてスタートしたものです。ヤマギシ会の理念は、安全食品、自然食品、有機農産物志向であり、日本全国に約38か所の集団農場を持ち、メンバーが村を作っています。
実際、ヤマギシ会では、お金はかからず、分担・分業スタイルで各人が仕事を持ち、さらに、子どもがいても5歳児から別居となるため、養育・教育面で負担はないという。
創始者山岸巳代蔵死後は、同志であった和歌山県六川村出身のS氏がトップでしたが、S氏も1999年に他界。現在のトップはS氏の愛人だという。その愛人は、その生活ぶりから「豊里のイメルダ」と呼ばれているというのです。
さらにその愛人の夫と、他に1970年代に参画した古参の5,6人の幹部がおり、「イズム生活推進研」と呼ばれています。この幹部(イズム生活推進研)の下に、勧誘活動である各種セミナーの世話係である「推進メンバー」が15人から20人いるという構造になっているのです。
権力を持つ特定の村人が活動方針を決定する・・ある特定の政治家への組織投票を半強制的なかたちで強いる(p119)
理念と現実のギャップ
ところがヤマギシ会の理念に対し、実際の現実との間には大きなギャップがあるという。
まず、お金のいらない楽しい村という理念に対し、現実には年中無休で朝から夜まで、ほとんど農作業で働き詰めの生活です。そして安全食品、自然食品、有機農産物志向という理念とは逆に、多くの化学肥料や農薬を農業の素人ともいえる高校生に散布させているという。
共同所有と無我執を理念としていますが、現実には夫婦と子どもの繋がりが弱まり、離婚、再婚が日常茶飯事に行われ、フリーセックス状態だというのです。さらに力のある男に女が近寄っていくという構造があり、性的関係の秩序崩壊や権力抗争という理想的な生活とはかけ離れた組織だというのです。
本書のアンケートにおいても、権力闘争、性生活の乱れ、金儲け主義、過重労働、秘密主義、子どもの教育の荒廃などの理想と現実のギャップを問題と回答する人が多く、実際にそうなのでしょう。
与えられた仕事をしている範囲で自由があり、お金がかかるものはほとんど叶えられない生活。一方で、幹部は特別で研鑽なしに自由が利き、人脈のあるなしで、仕事の選択や自由時間の有無に個人差があるとすれば、本当の自由とはいえないのでしょう。
小生は、ただ農が好きなだけで生きている。しかし、農が好きだというヤマギシ会の田や畑には、農薬がまかれ、得体の知れない液体がながれ、集落にはくさい匂いが漂っている(p160)
無一文で脱会も難しい
このような理念と現実のギャップに気づいたとしても、入村時に全財産をヤマギシ会に寄付しているので、脱会するとすれば無一文で村を出ていかなくてはならないのです。したがって、脱会する勇気がなければ、ヤマギシ会で妥協の中で生活を続けるか、権力者に媚びて生活するかのどちらかを選択することになるのです。
実際、著者のアンケートや調査の結果でも、ヤマギシ会に入会する人々の多くは「所属・愛情」を求めて参画するものの、ヤマギシ会内部の権力構造に気付き、脱会する人と、ロボット人間になる人にかわかれているという。
確かに入会時に全財産を寄付させてしまえば、ヤマギシ会には返却するメリットはないのです。1985年のセミナー体験者はアンケートに、騙す方も騙される方も悪いが、ヤマギシ会は、人の純真なこころに付け込むやり方をうまくシステム化に成功したと証言しています。
もう少し洗脳の方法や、システム化の部分を教えていただきたいと思いました。黒田さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・日本の主な共同体
No. | 名称 | 発祥年 | 発祥地 | 創始者 | 主義・思想 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 奥部落 | 1906~ | 沖縄県 | 糸満盛邦 | 社会福祉的 |
2 | 一燈園 | 1913~ | 京都府 | 西田天香 | 宗教(仏教) |
3 | 新しき村 | 1918~ | 宮崎県 | 武者小路実篤 | 農業・文学 |
4 | 心境部落 | 1940~ | 奈良県 | 尾崎増太郎と4家族 | 社会福祉的 |
5 | 大倭紫陽花村 | 1945~ | 奈良県 | 矢追日聖 | 宗教(仏教) |
6 | ヤマギシ(山岸)会 | 1953~ | 京都府 | 山岸巳代蔵 | 農業一体生活 |
7 | わらび座 | 1953~ | 秋田県 | 原太郎 | 社会主義的 |
8 | イエスの方舟 | 1960~ | 東京都 | 千石剛賢 | 宗教(キリスト教) |
・地域での間接的な勧誘活動として、(1)生産物供給車、(2)デパートなどの生産物売り場(パンフレットなどの宣伝材料含む)、(3)Yズムタダの祭り・博覧会、(4)子育て勉強会、(5)大学敷地内によけるポスターなどを中心に宣伝され、その先の具体的な活動として、(6)「子ども楽園村」や「Yズム学園」、(7)「特別講習研鑽会」や「研鑽学校」等のセミナー参加への勧誘活動を展開してきた(p108)
・学園の一日のスケジュール(初等部の一例)
AM6:00~ | 起床、体操・マラソン(夏季は、5:30) |
AM6:00~ | 農作業(朝食なし) |
AM7:00~ | 地元の小中学校へ登校 |
地元の小中学校での時間 | |
PM4:00~ | 下校後、農作業 |
PM5:00~ | 入浴 |
PM6:00~ | 食事(夕食) |
PM7:00~ | 研鑽会・講座・日記・ビデオ鑑賞、中等・高等部は、8:00~ |
PM8:30~ | 就寝 ※中等部は、9:30~、高等部は、10:30~ |
【私の評価】★★★☆☆(70点)
目次
研究の視座と方法
第1部 共同体文化の位相
第2部 共同体「ヤマギシ会」の分析
第3部 結び
共同体「ヤマギシ会」にみる現代日本文化の位相
著者経歴
黒田宣代(くろだ のぶよ)・・・宮崎県出身。1996年、鳴門教育大学大学院修了(教育学修士)。北九州市立大学、立命館アジア太平洋大学の兼任講師。専門は社会学(文化政策・異文化コミュニケーション)。長崎県で夫と二人暮らし
ヤマギシ会関連書籍
「「ヤマギシ会」と家族: 近代化・共同体・現代日本文化」黒田 宣代
「洗脳の楽園―ヤマギシ会という悲劇」米本和広
「カルトの子―心を盗まれた家族」米本和広
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