「金融ダークサイド 元経済ヤクザが明かす「マネーと暴力」の新世界」 猫組長(菅原潮)
2019/08/05公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
著者(猫組長)は山口組系経済ヤクザとして石油ビジネスに参入し、600億円を稼ぐ。しかし、テロ資金が紛れ込んだため米国に口座を凍結された経歴の持ち主です。金融の表と裏を知り切った猫組長が、ゴーン事件を解説してくれます。ゴーン事件の真相は、自分の投資失敗を日産に負担させるようとしたものだという。具体的には、日産会長という立場を利用して、焦げ付いたゴーン個人投資の損金を知人に保証させ、知人への謝礼を日産に肩代わりさせたという構図なのです。
そもそも新生銀行は一度、ゴーン氏の焦げ付きを日産に付け替えさせています。それを証券取引等監視委員会に個人の失敗を企業に付け替えるのは特別背任の共犯の可能性があるとして指摘され、新生銀行はその負債を日産からゴーン氏に再移転しています。その後、ゴーン氏は、友人のジュファリ氏に新生銀行への追加担保としてSBL/C(スタンドバイ信用状)を発行させ、ジュファリ氏には自分の決済権限のある予算から1470万ドル(約16億円)を支払ったのです。
個人負債を日産に付け替えたり、保証のないSBL/Cを担保として受け取った新生銀行もかなり怪しい動きをしていることがわかります。ゴーン事件は、金融のダークサイドが表に出てきた事件と言えるのでしょう。それを説明できるのが猫組長なのです。世の中にはそうした怪しいお金を扱う銀行もあるという現実と、それを取り締まる国家権力という構図も説明されています。
・ジュファリ氏が追加担保としてSBL/Cを使った・・知人の金融庁関係者は「よく新生銀行さんは、この場面でSBL/Cを受け付けたな」と驚きを隠さなかった・・30億円のSBL/Cをリースする際に必要な金額は、年7%の使用料と、2.5%の手数料で約3億円というのが、国際金融での常識的な相場だ(p43)
この本で面白いのは、ビジネス思考の本質が垣間見えるということです。例えば、多くの会社は自己資金を資本金としながらも多くは他人の資金を使ってビジネスをしています。仮にビジネスが失敗しても、出資者は資本金を失うだけで、ほどんどの金は他人が出しているのです。
他人の資金でビジネスに挑戦し、失敗したら、次の他人資本を探し、成功したら大金持ちになれるというのがビジネスの面白さなのです。貸し主には儲かった分から「利息」以上の配当を渡して返済日を延ばせるだけ延ばして、どれだけ長く自分の手元に他人資本を残せるかが、ビジネスでは重要なのです。
ビットコインや仮想通貨が犯罪組織にとって資金洗浄(マネーロンダリング)の便利な道具になっていることも書かれてあります。国家が仮想通貨を認めないのは、そうした理由もあるのでしょう。知らない世界のことがかいてある書籍ということで、★4としました。猫組長さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・アメリカは国益のためにSWIFTの内部にアクセスするただ一つの国となっている。監視対象へのリストアップに「推定無罪」は適用されない。疑わしい者すべてが「被疑者」となる・・香港のHSBC(香港上海銀行)は現在ではAML/CFT規制によって、国際送金がほぼ不可能な状態だ(p55)
・「クズ債権」バックアセットにして、額面30億円のBG、SBL/Cを発行することが可能・・BGは銀行しか発行できないが、SBL/Cは金融機関だけでなくブローカーも発行できる(p62)
・多重債務者は、借金によって借金を支払うのが常だ・・最初に返済すべきなのは、暴力団やヤミ金など「怖くてうるさい借入先」だ・・ゴーン氏の損失に対して新生銀行は新たな担保を求め、損失に対して「ロスカット」(強制決済)をしなかったのだから、「怖くてうるさい」借入先ではないことは明らかだ・・「投資の焦げ付き」はまだ他にあったと考えなければ説明がつかない(p78)
・「儲かるかもしれない」というレベルで資本を投下するのは投資ではなく投機、いやギャンブルである。「ほぼ儲かる」というレベル以上でなければ、投資とは言えない(p95)
・私の選択肢に「ハイリスク」は存在しない。「リスク」はマネージ(管理)すべきもので、コントロールしうる限り「リスク」ではないからだ(p124)
・悪事で稼いだ金を銀行に預けるのはもちろんのこと、ダイヤモンドなどの高額な商品や、株券を購入すれば証拠が残るということで、犯罪収益の多くは現金での保管ということになる。日本の暴力団も資産は現金での保管がほとんどだ(p131)
・14年に4億8000万ドル(約480億円)が流出した「Mt.Gox事件」と、270万ドル(約2億7500万円)が流出した「シルクロード2.0事件」などは、「ロシア人ハッカーの犯行によるもの」というがの地下経済界では定説となっている(p207)
・第二次世界大戦末期に「ドル」が基軸通貨になったが、ドルを支えるものこそ「米軍」という世界最強の暴力装置に他ならない。2003年にブッシュ大統領が引き起こしたイラク戦争の要因の一つは、当時フセイン大統領が石油の決済をドルではなくユーロで行おう考えていたため、とされている(p208)
▼引用は下記の書籍からです。
講談社
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【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 元経済ヤクザが明かすゴーン事件の最深層
第2章 世界を行き交うマネーのシステム
第3章 獲物を狙うアメリカ
第4章 私の黒い経済史
第5章 マネーのブラックホール
第6章 金融閉鎖列島を脱出したブラックマネー
第7章 フィンテックが生み出す新世界
著者経歴
猫組長(菅原潮)・・・元山口組系組長。評論家。1964年生まれ。兵庫県神戸市出身。大学中退後、不動産会社に入社し、その後、投資顧問会社へ移籍。バブルの波に乗って順調に稼ぐも、バブル崩壊で大きな借金を抱える。この時、債権者の1人であった山口組系組長を頼ったことでヤクザ人生が始まり、インサイダー取引などを経験。その後、石油取引を通じて国際金融の知識とスキルを得るが、アメリカに資金を凍結され引退。現在は評論、執筆活動などを行う。
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