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「宮中見聞録―昭和天皇にお仕えして」木下 道雄

2019/02/08公開 更新
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「宮中見聞録―昭和天皇にお仕えして」木下 道雄


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

天皇とは常に国民とともにあり

大正から宮内省に入り、終戦の昭和20年には侍従次長であった著者が伝える昭和天皇のエピソードです。


天皇とは常に国民とともにあり、国民のために祈り、国家統一の象徴なのでしょう。もちろん宮内庁御用達というように、天皇陛下は日本の製品をご愛用されています。


国産の時計は正確か、どうかというようなことで皆で話し合っていたところ・・・陛下は、無造作にズボンの右のポケットから、懐中時計をとりだされ、「わたしの、この時計は、12円50銭の国産品だけれども、よくあうよ」と、おうれしそうに皆に示された・・この時計は私が銀座のシチズンの店から買ってきたもの・・(p36)

陛下の敬礼

最初のページには、真っ暗な戦艦の甲板の上で挙手敬礼の天皇陛下の絵が挿入されています。これは陸軍の演習が九州で行われたとき、演習終了後、鹿児島から軍艦で横須賀へ移動されたときのこと。


近くの漁民が天皇陛下に少しでも近付こうと近づいてくることがあるので監視のために甲板に出てみると、真っ暗な中で一人挙手敬礼している人がいる。なんと、天皇陛下ではないか!天皇陛下は、九州の山々に光る多くの篝火(かがりび)にただ一人最敬礼をしていたのです。


汽車で鹿児島へ、鹿児島からは軍艦榛名で横須賀へ向かわせられたことがあった・・後甲板の上は、まことに暗く・・私の眼にうつったのが・・西を向いて立っている、ひとりの人の後ろ姿であった・・・挙手敬礼のうしろ姿。ハテ、今ごろ、誰が、と思って、近づいてみると、こは、いかに、陛下ではないか・・陸からは軍艦の姿は見えないが・・・若者たちは山々に登って篝火をたき、半島に住む村びとと、こぞって陛下をお見送りしているのである(p82)

陛下の敬礼

先の大戦が、昭和天皇の判断で終戦を迎えたこと、マッカーサーに命乞いするのではなく、日本への援助をお願いしたというのは周知の事実です。昭和20年の9月27日、マッカーサー元帥は只一人。陛下も通訳一人だけおつれになり、一対一の会見であったという。


二千年以上にわたり皇室というものが続いてきており、日本統合の象徴としてこれからも続いていくものと思いました。木下さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・昭和20年8月15日、終戦のときにも・・当時お詠みになったお歌を後で拝見させていただいたので、四首ここに載させていただく。
  爆撃にたふれゆく民の上をおもひ いくさとめけり身はいかならむとも
  身はいかになるともいくさとどめけり ただたふれゆく民をおもいて
  国がらをただ守らんといばら道 すすみゆくともいくさとめけり
  外国(とつくに)と離れ小島にのこる民の うへやすかれとただいのるなり(p91)


・良識さえ、しっかりしていたならば、このたびの悲惨な戦争も起こらなかったのではなかろうか、現に開戦前に、戦うことの不利を主張した多くの憂国の非戦論があったではないか。然るに、残念ながら、これらの非戦論は国民の輿論(よろん)のために圧倒され、葬られてしまった、というのが、陛下の御回顧である(p126)


・いくさに負けると、こんなにも人の気は弱くなるものか、とつくづく思う。ただただ、わが身の無事を祈って、何事も是非を論ぜず大勢順応。威勢のいい奴が、右と叫べば右に馳(はし)り、左といえば左に傾く。自由の気、自尊の風はどこにもない。なんと浅ましいことか(p193)


・思考は、見聞に、その焦点を授け、見聞は、また、思考の支柱となる(p18)


「宮中見聞録―昭和天皇にお仕えして」木下 道雄


【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

見聞篇
思考篇


著者経歴

木下道雄(きのした みちお)・・・明治20年 東京都に生まれる。明治45年 東京帝国大学法科卒業後、内務省入省、大正13年 東宮事務官兼宮内書記官、東宮侍従、昭和元年 侍従兼皇后宮事務官、昭和8年 内匠頭、昭和11年 帝室会計審査局長官、昭和20年 侍従次長(皇后宮大夫兼任)、昭和21年 宮内省御用掛、昭和25年 皇居外苑保存協会理事長、昭和49年 死去。


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