「原発賠償の行方」井上 薫

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原発賠償の行方 (新潮新書)

【私の評価】★★★★☆(82点)


■福島原発事故の賠償スキームが
 4年前に発表された段階で、
 その案について検討した一冊です。


 原発事故の賠償は東京電力が行い、
 払い切れない分は、支援機構が支援する
 という賠償スキームは、
 そのまま実行されました。


 当面の支援資金は国が出しますが、
 支援資金の半分は東京電力が、
 残り半分は原子力を持つ東京電力以外の電力会社が
 分割払いで返済することになっています。


・すでに発生してしまった福島原発の賠償金を
 支払うために東京電力以外の加害者ではない
 電力会社にお金を拠出させるという判断は、
 合理的根拠がありません(p132)


■当時、私の考えたシナリオは、
 2つありました。


 一つは、東日本大震災は
 「原子力損害の賠償に関する法律」の
 巨大な天変地異であり、
 賠償は国が中心となって負担する。


 もう一つは、隣接する電力では
 原発事故が起こっていないことから、
 東日本大震災は巨大な天変地異ではなく、
 東京電力が賠償を負担する。


 当時の雰囲気としては、
 東京電力の地震対策の不備が指摘されており、
 後者になるのかな、
 と思っていました。


 この場合、東京電力は、
 他社に発電所等の資産を
 売却してバラバラになるか、
 会社更生法適用または
 国営化されると考えました。


・「故意が過失かなど問題にせず、原子力損害が発生したら、
  ただちに事業者が賠償しなければならない」
 となっているのです・・
 「ただし、その損害が異常に巨大な天変地異又は
  社会的動乱によって生じたものであるときは、
  この限りでない」(p67)


■しかし、結果として東京電力は存続し、
 株式は希釈化されたものの紙屑にはならず、
 銀行の債権も守られました。

 (実質的に国営化されましたが)


 他電力も、支援機構を通じて
 東京電力を支援しています。


 そういった中、
 東京電力は競争で勝ち抜くと公言していますが、
 支援金を負担している各電力会社の手前、
 大丈夫なのでしょうか。


 井上さん、
 良い本をありがとうございました。


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■この本で私が共感したところは次のとおりです。


・原賠法の構造・・
 「政府は、原子力損害が生じた場合、
  事業者が損害を賠償すべき額が
  賠償措置額を超え支払不能となる事態に備え、
  原子力事業者に対して、損害を賠償するために
  必要な援助を国が行う」
  という趣旨の規定があります(p59)


・実質的に見ると東京電力には
 あまり痛みはありません。
 一般の不法行為責任からすると、
 これは極めて異例なのです・・
 民法709条によれば、加害者こそが賠償責任を負う、
 もちろん加害者が自腹を切って払わねばいけない
 ことになっているのです(p123)


・支払義務を負うと考える東京電力自体が特に
 その点に表向き異論を唱えることなく、
 政府の賠償枠組みを受け入れたということは、
 あるいは自ら人災であることを自覚している証と
 考えることができるかもしれません(p119)


・過失相殺の原理を応用すると、福島原発付近の
 住民の中で確かに原発事故の損害を被っては
 いるものの事故以前に金銭的見返りを得てきた
 人たちは、過失相殺の理によって実質的に
 損害賠償額が減額されてしかるべきです(p125)


・東京電力以外の電力会社にも福島原発事故の
 賠償額を負担させるその発想は、行政権では
 行えない行為だといわなければなりません。
 負担を要請された東京電力以外の会社にしても、
 「そんな義務はない」と断ればいいのです。
 断らないで安易にこれを引き受ければ、自己の
 会社の内部で株主代表訴訟などによる別のトラブルが
 派生する可能性があります(p145)


・加害者である事業者が実質的に自腹を痛めないような
 賠償制度のあり方が採られているとなると、事業者は
 事故が起こらないようにと配慮する心のレベルが
 下がってしまいます(p179)


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【私の評価】★★★★☆(82点)



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■目次

第1章 日本最大の法律問題が登場した
第2章 損害とは何か
第3章 東京電力は「有罪」確定か
第4章 法律的検討をする
第5章 賠償の実際を考える
第6章 福島の教訓を考える


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