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「原発賠償の行方」井上 薫

2015/10/02公開 更新
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原発賠償の行方 (新潮新書)


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

 福島原発事故の賠償スキームが4年前に発表された段階で、その案について検討した一冊です。原発事故の賠償は東京電力が行い、払い切れない分は、支援機構が支援するという賠償スキームは、そのまま実行されました。当面の支援資金は国が出しますが、支援資金の半分は東京電力が、残り半分は原子力を持つ東京電力以外の電力会社が分割払いで返済することになっています。


 著者は、東京電力以外の電力会社にも福島原発事故の賠償額を負担させる発想は、違法であり、行政権では行えないはずだと主張しています。負担を要請された東京電力以外の会社にしても、「そんな義務はない」と断ればいいのです。なぜなら断らないで安易にこれを引き受ければ、株主代表訴訟を起こされる可能性があるからです。


・すでに発生してしまった福島原発の賠償金を支払うために東京電力以外の加害者ではない電力会社にお金を拠出させるという判断は、合理的根拠がありません(p132)


 当時、私の考えたシナリオは、2つありました。一つは、東日本大震災は「原子力損害の賠償に関する法律」の巨大な天変地異であり、賠償は国が中心となって負担する。もう一つは、隣接する電力では原発事故が起こっていないことから、東日本大震災は巨大な天変地異ではなく、東京電力が賠償を負担する。


 当時の雰囲気としては、東京電力の地震対策の不備が指摘されており、後者になるのかな、と思っていました。この場合、東京電力は、他社に発電所等の資産を売却してバラバラになるか、会社更生法適用または国営化されると考えました。


 原賠法の「政府は、原子力損害が生じた場合、事業者が損害を賠償すべき額が賠償措置額を超え支払不能となる事態に備え、原子力事業者に対して、損害を賠償するために 必要な援助を国が行う」という趣旨は無視されたのです。


 東京電力がこうした判断に異論を唱えることなく、政府の賠償枠組みを受け入れたということは、自ら人災であることを自覚しているのか、それとも東京電力の存続とバーターで国有化を受け入れたのでしょうか。


・「故意が過失かなど問題にせず、原子力損害が発生したら、ただちに事業者が賠償しなければならない」となっているのです・・「ただし、その損害が異常に巨大な天変地異又は 社会的動乱によって生じたものであるときは、 この限りでない」(p67)


 しかし、結果として東京電力は存続し、株式は希釈化されたものの紙屑にはならず、銀行の債権も守られました。(実質的に国営化されましたが)他電力も、支援機構を通じて東京電力を支援しています。そういった中、東京電力は競争で勝ち抜くと公言していますが、支援金を負担している各電力会社の手前、大丈夫なのでしょうか。


 井上さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・実質的に見ると東京電力にはあまり痛みはありません。一般の不法行為責任からすると、これは極めて異例なのです・・民法709条によれば、加害者こそが賠償責任を負う、もちろん加害者が自腹を切って払わねばいけないことになっているのです(p123)


・過失相殺の原理を応用すると、福島原発付近の住民の中で確かに原発事故の損害を被ってはいるものの事故以前に金銭的見返りを得てきた人たちは、過失相殺の理によって実質的に損害賠償額が減額されてしかるべきです(p125)


・加害者である事業者が実質的に自腹を痛めないような賠償制度のあり方が採られているとなると、事業者は事故が起こらないようにと配慮する心のレベルが下がってしまいます(p179)


▼引用は下記の書籍からです。
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【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第1章 日本最大の法律問題が登場した
第2章 損害とは何か
第3章 東京電力は「有罪」確定か
第4章 法律的検討をする
第5章 賠償の実際を考える
第6章 福島の教訓を考える



著者紹介

 井上薫(いのうえ かおる)・・・1954(昭和29)年東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒、同修士課程修了。司法試験合格後、判事補を経て96年判事任官。2006年退官し、07年弁護士登録。著書に『司法のしゃべりすぎ』など。


関連書籍

「「脱原発」を論破する―今、日本人の知性が試されている!」長浜 浩明
「電通と原発報道」本間 龍
「玉川徹のそもそも総研 原発・電力編」玉川徹
「原発のウソ」小出 裕章
「原発賠償の行方」井上 薫


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