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「ベイジン(上・下)」真山 仁

2011/11/15公開 更新
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ベイジン〈上〉 (幻冬舎文庫)ベイジン〈下〉 (幻冬舎文庫)


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

中国に原子力発電所を建設

中国で原子力発電所建設を指導する熱血技術者と、北京オリンピック開催までに原子力発電所を運転開始させるために派遣された共産党員。このまったくキャラの違う優秀な二人が、ぶつかり合いながら、原子力発電所を建設していきます。日本の技術者が優秀であればあるほど、あの福島第一の事故が頭に浮かびました。


中国の文化である汚職とモラルの低さは織り込み済みでした。現場からものが消えるのです。建設資材、鉄筋、セメント、食材や酒まで消え、施設関係者が持ち出しているのです。汚職は中国にとって文化のようなもので、目に余るものだけを、見せしめに取り締まるので、後ろ盾を失った人間がターゲットとなるのです。


・原発は、我々に素晴らしい恩恵を与えてくれる。だが、人間の心に隙が生まれた瞬間、神の火は、劫火に変わる。(下p284)
※劫火(世界が壊滅するときに、この世を焼き尽くしてしまうという大火)


原子力潜水艦のために開発されたPWRが安全

この本では、中国特有のずさんさから事故が発生しますが、想定以上の自然災害が起これば、事故は起こるのです。東日本大震災で安全に停止した東北電力の原子力発電所も、9mの津波想定に対して余裕をみて15mの敷地に建設していただけで、それ以上の津波がくれば被害は免れないのです。「風の谷のナウシカ」のように、人間は原子力を制御しきれないのでしょうか。


この本では原子力潜水艦のために開発されたPWRがBWRより遥かに安全としていますが、冷却ができなくなれば制御できないという意味では同じなのです。失敗が許されないというのは、原子力の弱いところでもあるのです。


・"小さな違和感を見過ごすな、臆病になれ"という原発マンの鉄則からすれば、放っておけないものばかりだった・・・原発という怪物は、人間がわずかでも隙を見せた瞬間、取り返しのつかない暴走を始める。(上p27)


中国の権力と金をめぐる争い、日本にはない大陸の空気の描写に、著者の筆力を感じました。純粋に面白く、原子力について考えさせてくれる一冊です。お勧めします。真山さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・整理整頓され清潔であれば、汚れや染み、水溜りを見つけるだけで、異常の印と判断できるからだ。水滴を見つけたら、事故の端緒と思え!門田は口うるさく言い続けた(下p214)


・メルトダウンを防ぐためには、水があればいいんですよね・・・消防車の高圧ポンプを使って、海水で冷やすわけにはいかないでしょうか(下p330)


・日本のライバルメーカーかWCを買収した背景には、中国大陸での原発建設ラッシュがあると言われていた。中国は・・今後は、PWR(加圧水型原子炉)に絞った建設を進めると発表していた。(下p50)


・真面目で融通の利かない父は、ある意味、警察官になるべく生まれてきたような男だった。しかし中国では、警官とは要領よく袖の下をもらい、私腹を肥やす職業と同義語だった(下p229)


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【私の評価】★★★★★(90点)



著者経歴

真山仁(まやま じん)・・・1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。読売新聞記者、フリーライターを経て小説家に。2004年、熾烈な企業買収の舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー


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