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「覚悟の人 小栗上野介忠順伝」佐藤 雅美

2010/10/30公開 更新
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「覚悟の人 小栗上野介忠順伝」佐藤 雅美


【私の評価】★★★☆☆(74点)


要約と感想レビュー

通貨の交換比率を交渉

私のこれまでの小栗忠順(ただまさ)の印象は、幕末、大政奉還の後、茨城県あたりに流れ落ち、その後、官軍の一味によって捕まり、斬首されたというものでした。有能でありながら、力を出し切れなかった人という印象があります。


この本では、小栗忠順は遣米使節の目付として渡米。通貨の交換比率を交渉しています。外国奉行となった頃には、ロシアの対馬占領をイギリスの力で解決。勘定奉行の頃には、生麦事件が発生しました。小栗忠順は、膨大な賠償金の支払いに反対したそうです。


当時、イギリスは世界の最強国であり、小栗も承知していたという。だがイギリスは生麦事件が起きたとき、「余はイギリス政府の代表である。事を決するには二通りある。一は平和裡に話し合うこと。一は干戈(かんか)を交えること。私は戦いを好むものではないが、そちらの出方によっては干戈を交えざるをえない。」など恫喝したという。


小栗忠順は勘定奉行として、金のない幕府の資金調達に奔走しています。最後にはフランスから、資金を調達しようとしていたようです。


・文久三年の将軍家茂上洛費用 およそ百万両
 生麦事件の償金 一万ポンド(四十四万ドル)(33万両)
 元治元年の将軍の再度の上洛費用 大判四百十枚に四十八万両
 第二次長州征伐の費用 手当のみで四百三十七万両 
 下関戦争で長州にかわって幕府が支払わせられることになった賠償金・・・馬鹿げたことにこれがなんと三百万ドル(225万両)(p254)

幕府は右往左往

現代日本は、中国の威圧に右往左往していますが、当時の幕府も同じように右往左往しているのが、興味深く感じられました。


危機に対し、適切に対応できる人はそれほどいないものですが、それでも日本には時々、そうした能力を持った人が現れるのかもしれません。佐藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・オールコックとハリスは、ロシア人士官ら殺傷事件が起きるとこれ幸いとばかりに外国事務宰相部に迫って、水野を外交の表舞台から追放させた。(p30)


・ペリーが来日してお互いの貨幣をどう評価し合うのかという問題が生じたとき、実質総理の阿部正弘も、老中首座の堀田正正睦も、勘定奉行の川路聖謨も、当時勘定奉行だった水野忠徳自身も一分銀は紙幣のような貨幣であるという本質を知らずにいた。(p92)


・「日本は組織された行政を持たない・・・「日本は陸軍も海軍も持っていない・・さらにいう。「日本は財政を持たない」八代将軍吉宗の時代まで、幕府は予算制度をとりいれていなかった。(ロッシュ)(p280)


▼引用は下記の書籍からです。
「覚悟の人 小栗上野介忠順伝」佐藤 雅美


【私の評価】★★★☆☆(74点)


目次

筑後の密命
ポーハタン号
失意の帰国
武力には武力で
因循姑息
横須賀製鉄所
大蔵大臣
破綻
御直の罷免
烏川の露


著者経歴

佐藤雅美(さとう まさよし)・・・1941年生まれ,兵庫県生まれ.早稲田大学法学部卒.85年,処女作『大君の通貨――幕末「円ドル」戦争』で第4回新田次郎文学賞を受賞.94年,『恵比寿屋喜兵衛手控え』で第110回直木賞を受賞.主な著書に,『物書同心居眠り紋蔵』『縮尻鏡三郎』『八州廻り桑山十兵衛』『半次捕物控』のシリーズのほか,『開国――愚直の宰相・堀田正睦』『官僚川路聖謨の生涯』『幽斎玄旨』『樓岸夢一定――蜂須賀小六』などがある.


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