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「大君の通貨―幕末「円ドル」戦争」佐藤 雅美

2018/07/06公開 更新
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大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫)


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

■江戸幕府の最後のとき、
 アメリカの外交官ハリスと
 イギリスの駐日代表オールコックが
 引き起こした金貨の流出事件です。


 通貨の交換で問題となったのは
 同じ銀の量で交換すると
 1ドルがイチブ貨3枚なのに、
 日本人は1ドルをイチブ貨1枚としか
 交換しないことでした。


 実は、日米の金銀の交換比が
 異なっており、
 日本が1:5くらいとすれば
 外国では1:15。


 つまり、日本のイチブ貨は
 含有する銀の3倍価値ある通貨として
 流通していたのです。


 日本側が金本位制で銀貨は補助通貨と
 正論を主張するものの
 ハリスは激怒し、含有量比での
 交換を主張するばかりです。


・イブチ貨は政府の刻印を打つことにより三倍の価値が与えられている通貨・・・これに対するハリスの見解はかねての、古今東西、世界の歴史がはじまって以来そんなことをやってのけた国家や為政者はない、というものだった(p198)


■なぜ米国が理解できないかといえば、
 そのような信用により
 より高い価値で流通する貨幣を
 外国では実現できていなかった
 ということです。


 金貨と銀貨はその含有量により
 価値が決まるのであり
 現在の100円のように原価が25円でも
 100円として流通できることが
 理解できないのです。


 さらには、イギリスのオールコックが
 日本側の通貨に精通した外国奉行の
 水野筑後守を罷免させようとし、
 それを実現してしまった。


 日本の貨幣制度に精通した水野を
 罷免させたことにより
 日本はただ欧米の主張に従い、
 3倍の価値のあるイチブ銀とドルを
 交換することになってしまったのです。


 金貨に基づく為替が1ドル100円として、
 100円の原価は25円だから
 1ドル400円で交換せよと強要され、
 実施することになってしまったのです。


・外国奉行の筑後守(ちくごのかみ)(水野)・・・筑後守という男をどうやって排除するか。罷免させるか・・・というのが次第にオールコックにとっていらだたしい外交課題の一つとなっていた(p122)


■能力のない人を交渉役にすると、
 とんでもないことになる
 ということだと思いました。


 また、武力により無理が通れば、
 道理が引っ込むということも
 あったのでしょう。


 佐藤さん
 良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・重さで比較するならメキシコドルはイチブ貨の三倍・・・ところが日本側はイチブ貨は政府の刻印を打つ、といっても表と裏にただ字が刻まれているだけだが、刻印を打つことによって三倍の価値が与えられている通貨であるからというものだった(p40)


・横浜の外国人はコバングの儲けが薄くなると、コバングには見向きもせず、商品を買いつけた。それをオールコックは誇張し、外国商人がコバングを買い漁っているから正常な貿易活動はいっこうに軌道に乗らない、と外国商人をユダヤ人呼ばわりして一方的に避難した(p197)


・江戸の公使館および神奈川の領事館の両替枠は一ヵ月二千五百ドルである・・・ハリスの場合でいうと百ドル二百イチブ貨の相場のとき、毎月七百五十ドルが儲かった。年間で九千ドルである・・ハリスの年俸は五千ドルである(p204)


・小判は流出するわ、商品は買い漁られるわ、便乗値上げは起きるわ、という騒ぎがはじまって、担当閣老の間部は井伊に激しく責め立てられた・・しかしなにしろ大名だ。金銭等のことについては何も分からない(p156)


・幕府は、小判の価格を引き上げることによって得ていた改鋳益金もそっくり失ってしまった・・・歳入の実に38%を占めていた益金を一挙に失った・・(p274)


・二枚舌を使う。平気で嘘を吐く。これらはあなた方が中国でさんざん悩まされた清国政府の外交窓口の常套手段でした。通貨問題に見られる日本側の一連の態度もそれと何ら変わりありません(p64)


・清国がイギリスなどヨーロッパ諸国と接触を持つようになってから五十年になる・・・打撃をくわえられて強制されるまでは絶対に議論に屈せず武力という論理の裏づけがないいっさいの抗議には断じて耳をかそうとしない・・(p18)


・譲歩には代償を・・というのはヨーロッパ諸国にとっては外交の初歩的な常識である。両港両都開港開市の延期を認めてもらいたいなら、それに代わる代償を出しなさい。イギリス側はこういった。いわれるまま日本側は関税率の低減、貿易に対するさまざまな障害の排除などを代償に差しだした(p224)


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