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【書評】「ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、 ホロコースト、シオニズムまで」鶴見 太郎

2026/09/24公開 更新
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「ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、 ホロコースト、シオニズムまで」鶴見 太郎


【私の評価】★★★★☆(88点)
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要約と感想レビュー


なぜユダヤ人は迫害されてきたのか

大学の教科書みたいだな、と思いながら読んでいたら、著者は東京大学の准教授でした。第三者の視点でできるだけ客観的かつ分析的に書いている感じに好感を持ちました。


ユダヤ人は国を失った後、世界各地でマイノリティとして生きてきました。ユダヤ人はヨーロッパでは自治組織をつくり、宗教儀礼だけでなく、教育、福祉、裁判まで共同体の中で行っていたのです。そのためユダヤ人は、「国家の中に別の国家をつくっている」と見られることがありました。


著者の認識では、ユダヤ教はキリスト教よりもイスラム教に近く、唯一の神の法に服従する法治共同体なのです。そして、ユダヤ人はマイノリティとして権力者の法や慣習に適合させながら、ユダヤ法を守りながら共同体を維持してきたのです。


ユダヤ人がしばしば、「国家内国家」を形成していると揶揄されてきた(p163)

反ユダヤ主義が生まれる仕組み

興味深かったのは、反ユダヤ主義の根源は宗教対立ではないという説明です。


中世から近世にかけて、権力者はユダヤ共同体を保護する一方、税金を取りました。ユダヤ人は金融や徴税、土地管理など、権力者と庶民の間に立つ仕事を担うことも多かったといいます。


すると庶民から見れば、目の前でお金を取り立てるのはユダヤ人です。権力者への不満が、ユダヤ人への憎しみに転化されるのです。例えば、ポーランドでは貴族がユダヤ人に土地管理や徴税を任せたため、農民からは「貴族の手先」と見られました。


そして政変や不況によって権力者の保護が弱まると、それまで蓄積していた不満がユダヤ人に向かうことになるのです。


また、ウクライナやポーランドでは、ユダヤ人は民族主義者から、国家の独立に協力しないロシアの手先として攻撃されました。このようにユダヤ人はマイノリティであるがゆえに、その国の勢力同士の間に挟まれ、うまく生き延びながらも、常に不満の矛先にされてきたのです。


反ユダヤ主義は・・・ユダヤ人を金づるとして利用する権力側と、それを腐敗と捉える庶民のあいだにユダヤ人が挟まれ・・・庶民の反ユダヤ感情を蓄積していく。政変や不況などでこの権力者のタガが外れたとき、民衆の怨念は一気にユダヤ人に向かう(P104)

ホロコーストはなぜ起きたのか

その延長線上に、20世紀のホロコーストがあります。ヒトラーは『我が闘争』の中で、ユダヤ人を社会を蝕む存在として定義しました。さらに当時、「ユダヤ人=ボリシェヴィキ(共産主義勢力)」という偏見もあったという。


著者が強調するのは、ホロコーストがドイツ国内だけで起きたものではないことです。この本では、犠牲者はポーランドをはじめとする中東欧に集中していたことを説明しています。


ポーランドでは300万人近く、当時のユダヤ人口の約9割が殺害されたという。また、ドイツ軍だけではなく、地域によっては現地住民が虐殺に参加した事例も紹介されています。


ポーランドではユダヤ人が、ソ連と結託してポーランドの独立を阻むスパイと見られ、そうした不信感が、ナチスの侵攻の中で、虐殺につながっていったのです。ホロコーストをヒトラー一人の狂気だけで説明してしまうと、本質を見失うのでしょう。


ホロコーストを積極的に反省した西ドイツはなかばホロコーストの全責任を被ることになった。だが・・リトアニアやラトヴィアなどでも・・現地住民主導のポグロム(虐殺)が同様に蔓延していた(p224)

パレスチナ問題は単純ではない

そして現在につながるのが、シオニズムとパレスチナ問題です。ニュースだけを見ていると、イスラエルとパレスチナの対立について、「残虐、かわいそう」と感情的に考えてしまいがちです。


しかし、この本で、そこに至るまでの歴史を見れば、感情的になれなくなるのです。シオニストは、パレスチナの地主から土地を購入して入植していきました。ただ、その土地ではアラブ人の小作農が何世代にもわたって生活していたため、土地が売却されることで生活の場を失う人も出てきました。


そして1947年、国連でパレスチナ分割決議が採択されます。この本の説明では、当時人口の約3割だったユダヤ人側に、6割近くの土地を割り当てる案でした。シオニスト側は受け入れましたが、アラブ側は強く反発します。ここから戦争へとつながっていくのです。


ということは、某外国人が北海道の土地を購入して、地域の人口比3割になったらそこに自分の国家を作れるということです。日本の移民政策が不安になってきました。鶴見 さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・パレスチナに行かないシオニズム・・・ロシア帝国において差別されていたユダヤ人を誇り高き民族に引き上げるためのアピールだった(p188)


・今日でも、とくにイスラエルでは黒服のユダヤ人(超正統派)は、政府から補助金や税金の免除を受けることができ、働かずに一日中ユダヤ教の勉強に励んでいる。そのかわり、妻が外で働く(p153)


・ロシア帝国は・・南下政策の結果、18世紀後半にウクライナ東部や南部を支配下に収めていた・・・要は、ポーランドが「誘致」したユダヤ人をそのまま飲み込んでしまった(p176)


・ロシア帝国では・・・都市部では、ユダヤ人が過半数であるか過半数に迫り、少なくとも「最大派閥」である場合が多かった・・・ベラルーシのミンスク県ではユダヤ人は全人口の59%、ウクライナのポドリア県では46%・・ユダヤ人は、日常的な感覚としては必ずしもマイノリティではなかった(p183)


・新生ポーランド国民の非ポーランド人の比率は3分の1にのぼった。少なく見積もってもウクライナ人14%、ユダヤ人11%・・1922年に独立後初めて行われた選挙では、少数民族連合が善戦した・・大統領選挙では、この連合の支持もあって中道左派の候補が当選したことで、ユダヤ票により選ばれたと右派は憤慨し、この大統領はすぐに暗殺されてしまった(p216)


▼引用は、この本からです
「ユダヤ人の歴史-古代の興亡から離散、 ホロコースト、シオニズムまで」鶴見 太郎
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鶴見 太郎、中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(88点)


目的


第1章 古代 王国とディアスポラ
第2章 古代末期・中世ー異教国家のなかの「法治民族」
第3章 近世ースファラディームとアシュケナジーム
第4章 近代ー改革・革命・暴力
第5章 現代ー新たな組み合わせを求めて


著者経歴


鶴見太郎(つるみ たろう)・・・1982年岐阜県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員、エルサレム・ヘブライ大学大学客員研究員、ニューヨーク大学大学客員研究員、埼玉大学准教授などを経て、東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門は、ロシア東欧・ユダヤ史、シオニズム、イスラエル・パレスチナ紛争。日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞受賞。


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