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【書評】「経済の現場から統計データで見る  インフレ日本の安い賃金」小川 真由

2026/09/23公開 更新
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「経済の現場から統計データで見る  インフレ日本の安い賃金」小川 真由


【私の評価】★★★☆☆(79点)
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要約と感想レビュー


日本の賃金が安い理由

著者は、中小企業の精密機械加工業を営む経営者です。テレビでは「オモウマい店」という番組が人気ですが、同じように製造業も「ヤスうまい工場」が多いという。


例えば、高齢の職人が引退するため取引先を切り替えたいという相談を著者が受けると、標準的な金額の1/3~1/5で取引しているケースが多いというのです。


著者は、「良心的な価格」という表現があるように、日本人には「安い=良い」と受け止めやすい傾向があるのではないかと推測しています。


実際、少しの瑕疵でも無償で再製作を指示されたり、無理な値引きを要求されたりと、買い手側の強い立場を利用した「下請けいじめ」を日常的に見聞きしているという。


スペイン人に「ラーメンの配達が無料」という話をしたところ、ただ一言「クレイジー」と言われたという。こうした国際的には非常識な日本の無償サービスの中にこそ、適正な対価を受け取るチャンスがあるのかもしれません。


片道4時間かけて納品した(なぜか無償)・・指示されていない微細な外観不良で全ロット製作し直した(もちろん無償)・・アバウトな要求を正確に見積もるため1週間技術検討をしたが失注(当然、無償)(p110)

設備を安い人件費でなんとか稼働

著者は、このような「圧倒的に強い買い手」に対し、日本の中小企業はできるだけ安い労働力で対応しようとしてきたと説明しています。


実際、日本の人件費は安いのです。日本の労働時間あたり雇用者報酬は、全産業平均で見ても先進国の中でかなり低く、東欧諸国並みだという。


日本の男性労働者の平均給与は1997年をピークにいったん減少し、その後はほぼ横ばい。一方、他の先進国では上昇が続いており、日本だけ給与がほとんど増えていないのです。


さらに日本では、給与の低いパートタイム労働者や高齢者の就業が増えてきました。特に女性の給与が低く、男女の給与差(ジェンダーギャップ)は、日本の21%に対し、米国17%、英国13%、フランス7%だという。


また、65歳以上の就業率は、日本が26%に対し、米国19%、英国12%、ドイツ9%、フランス4%です。


このように日本では、余った生産能力を使って価格を下げ、多くの商品をつくり、それを安い労働力で販売することで、生産を維持してきたというのです。


日本は先進国の中でも所得水準が低いだけでなく、所得格差が大きく、貧困率も高い(p56)

円高による需要過小とデフレ

マクロ経済を見ていくと、プラザ合意以降、為替レートは大きく円高方向に振れました。日本製品が割高になれば、企業が割安な海外生産に活路を求めるのも当然でしょう。


つまり、バブル期の金余りと過剰投資によって「生産能力の過剰」が生まれ、さらに極端な円高によって「仕事の海外流出」が起こった。その結果、供給過剰・需要過小のデフレ状態になったというのです。


日本企業は、バブル期の借入金を減らしていきました。担保となっていた不動産取引が規制され、不良債権処理を進める過程で銀行の貸し渋り・貸し剥がしが起きたのですから、企業が借入金を減らして守りに入ったのも理解できます。


円高と緊縮財政、貸し剥がしの中で、日本企業は生き残るためにできることをやってきたのです。


結果として、日本はかつて米国に次ぐGDP世界第2位の経済大国でありながら、長くデフレが続き、付加価値が増えない中で、働く人が無理をしながら経済を支えてきたということなのでしょう。


経済活動全体の物価を表すGDPデフレータ(1980年基準)」について国際比較してみると、日本だけが横ばい・・・ドイツで約2.5倍、フランスや米国で3倍強、英国は5倍弱、イタリアは6倍強になっています。他国は基本的に物価上昇が継続(p46)

デフレ思考からの脱却

著者の提案は、これまでの「安値競争の我慢比べ」というデフレ思考から脱却し、自分たちも、顧客も、仕入先も納得できる、合理的で適正な対価で取引することです。


現在の日本経済はデフレから脱却しようとしていますが、一方で過去に超円高を放置した日本銀行が政策金利を上げており、景気を冷やす可能性があります。再びデフレに戻る可能性もあるのです。


経営者としては、経済政策だけに期待するのではなく、企業防衛を考えながら、時代に合った経営へ変えていくしかありません。


「安い日本」をマクロで見ると、欧米諸国が緩やかなインフレを前提に経済運営してきた一方、日本では消費増税、円高放置、緊縮財政などが重なり、長いデフレが続きました。


そう考えると、「安い日本」は、企業や国民がそれぞれの立場で生き残ろうと努力してきた結果でもあるように見えました。小川さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・日本では人口が減っていますが、労働者全体はむしろ2010年ごろから増加傾向(p28)


・(日本では)買い手側の立場でも「他より安くないと買わない・・」といった購買行動が定着している(p23)


・日本は、他国並みに海外進出する一方で、他国企業がほとんど日本に進出してこない(p133)


▼引用は、この本からです
「経済の現場から統計データで見る  インフレ日本の安い賃金」小川 真由
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小川 真由、日経BP


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目的


第1章 インフレ日本の安い賃金
第2章 統計データが示す「日本の経済・社会の現在地」
第3章 「賃金上昇のカギ=付加価値」の解像度を上げる
第4章 労働と付加価値についての「日本のおかしな思い込み」
第5章 日本人の無自覚な「自分の安売り」はどこからきたか
第6章 データが示す「日本の豊かな未来」への処方箋
終章 まずは「適正な取引価格」から始めよう


著者経歴


小川真由 (おがわ まさよし)・・・(株)小川製作所 取締役。2002 年度 慶應義塾大学理工学部卒業(義塾賞受賞)、2004 年度 慶應義塾大学大学院理工学研究科前期博士課程修了、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーに入社し、航空機の開発業務に携わる。5軸加工を中心とした精密機械加工業者での修行を経て、2012 年より家業(現在の株式会社小川製作所)に合流。
現在は、職人兼経営者として、医療機器、理化学装置、半導体製造装置などの製缶・溶接・研磨加工、精密機械部品の製造・供給、機械設計・開発支援の3つの事業を手掛ける。


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