【書評】「エプスタイン文書の衝撃」小林 雅一
2026/09/08公開 更新
Tweet
【私の評価】★★★★☆(87点)
Amazon.co.jpで詳細を見る
要約と感想レビュー
エプスタインの死
ジェフリー・エプスタインは、2019年8月10日、収監されていたニューヨークの拘置所で死亡しました。ニューヨーク市の検視当局は首吊りによる自殺と断定しましたが、舌骨が骨折していたことなどから、他殺説を主張する人もいます。
エプスタインの死後、捜査記録の公開を求める声が高まりました。そしてトランプ大統領は選挙公約どおり、2026年1月に「エプスタイン文書」を公開するのです。300万ページにも及ぶ公開記録には黒塗りされた部分も多いものの、少女たちや著名人の写真、膨大なメールのやり取りなどが含まれており、現在も分析が続けられています。
実は2006年、エプスタインは少女への性的暴行に関する証拠があったにもかかわらず、「売春勧誘」の罪だけで起訴され、2008年に司法取引が成立。禁錮18か月を言い渡され、13か月で出所しています。
ところが2018年11月、マイアミ・ヘラルド紙のジュリー・ブラウン記者が、1年以上にわたる取材で80人以上の被害者・関係者から証言を集め、「正義の歪曲」と題する3部構成の連載記事を発表。これをきっかけに、事件が再び注目されることになるのです。
そしてニューヨーク連邦検察とFBIによる再捜査を経て、エプスタインは2019年に逮捕されたのです。
2018年11月、マイアミ・ヘラルド紙のジュリー・ブラウン記者が1年以上にわたる取材で80人以上の被害者・関係者からの証言を得て、「正義の歪曲」というタイトルの3部にわたる連載記事を世に出した(p69)
エプスタインの青年期
エプスタインは21歳で大学を中退し、マンハッタンの名門ダルトン校の教師として採用されます。著者は、学位を持たない21歳の若者が名門校の教師として採用されるには、誰かの強力な紹介、つまり「コネ」があったのではないかと指摘しています。
そこで著者が注目するのが、エプスタインの採用を決めた校長のドナルド・バーです。
ドナルド・バーは、エプスタインを採用する約1年前に「スペース・リレーションズ」というSF小説を出版しています。その作品には、特権階級が少年少女を性的奴隷として売買する惑星が描かれていました。
ダルトン校時代のエプスタインは、毛皮のコートを着て金のネックレスを身につけ、シャツの胸元を大きく開けて校内を歩いていたという。さらに、授業中に性的なたとえ話を連発し、女子生徒の身体に触れたり、マッサージをしたりしたことから、「女性生徒に対する不適切な行為」を理由に解雇されてしまいます。
こうした事実を並べることで著者は、ドナルド・バーとエプスタインの間に何らかの共通する性的関心があった可能性を示唆しているのです。
エプスタインが獄中死したときに、彼の収監されていた連邦拘置所を管轄する最高責任者は当時の第一次トランプ政権下の司法長官ウィリアム・バーであった・・・エプスタインをダルトン校の教師として採用した校長ドナルド・バーの息子である(p77)
エプスタイン、大富豪となる
ダルトン校を解雇されたエプスタインは、教え子の親の人脈を活用して、学歴を偽って投資銀行ベアー・スターンズに入社します。そして、ダルトン校時代に教えていた生徒の裕福な親たちをベアー・スターンズの顧客として次々と紹介。27歳の若さで同社のリミテッド・パートナーに昇進します。
しかし、ベアー・スターンズでも、「1万ドル相当の宝石や衣類を会社の経費で購入する」「友人に数万ドルを個人的に融資して株を買わせる」といった不正行為によって解雇されます。
それでもエプスタインは、「古い体質の幹部たちから妬まれたから辞めた」と周囲に吹聴。「顧客は資産10億ドル以上の超富裕層のみ」と豪語しながら、新たな顧客を獲得していったというのです。
エプスタインは、レスリー・ウェクスナーから1991~2007年の十数年間に総額約2億ドル(270億円以上)、別の主要顧客であるレオン・ブラックからは2012~2017年の5年間に総額1億6000万ドル(200億円以上)の報酬を受け取っていたという。
こうした莫大な資金と人脈を背景に、エプスタインは少女たちに「ファッション誌のモデルにしてあげる」などと声をかけ、「マッサージ」を名目に自宅へ連れ込む手法を確立していきます。
さらに、ボーイング727を改造し、機内にベッドルームを設け、少女たちを同乗させ通称「ロリータ・エクスプレス」と呼ばれていたという。ビル・クリントン元大統領をはじめ、多くの著名人がエプスタインの飛行機を利用していたのです。
1998年、エプスタインは米領ヴァージン諸島に属する「リトル・セント・ジェームズ島」を約800万ドル(12億円以上)で購入。・・秘密の地下室が存在したという噂や隠しカメラが多数設置されていた・・世界各地から集められた少女たちが性奉仕を強制された(p58)
ジャニーズ事務所との共通点
エプスタイン事件で不思議なのは、一度有罪判決を受けて刑務所から出所した後も、著名人や文化人との交際が途切れなかったことです。ニューヨークの邸宅ではイギリスのアンドリュー王子らを招いたパーティを開き、著名人を自宅の夕食会に招くなど、幅広い人脈を維持していました。
また、出所後、数百万ドルをさまざまな科学研究に寄付し、ビル・ゲイツ、リード・ホフマン、伊藤穰一氏など、IT業界の著名人と交流を深めていきます。
ここで思い出したのが、ジャニー喜多川氏の性加害問題です。
性加害をめぐる問題が報道され、ジャニーズ事務所が文藝春秋を訴えた裁判では、2003年の東京高裁判決で性加害が「真実」と認定されています。それにもかかわらず、テレビ局はジャニーズ事務所と関係を続け、問題が長期間表面化しなかったという点では、エプスタイン事件と似ているのです。
唯一違うのは、アメリカでは新聞社が告発して、エプスタインが逮捕されたのに対し、日本ではジャニー喜多川は亡くなるまで裁かれることはなかったのです。
エプスタイン事件には、多くの大物がかかわっており、公開情報も黒塗りが多く、まだまだ核心は闇の中だとわかりました。続報を待ちたいと思います。小林さん、良い本をありがとうございました。
| 無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・レスリー・ウェクスナー。世界的な女性用下着メーカー「ビクトリアズ・シークレット」の親会社「Lブランズ」の創業者である・・・1991年には自分の銀行預金から証券などの金融資産、不動産まで全資産を管理する権利をエプスタインに与える「全権委任状」にサインした(p29)
・エプスタインはウェクスナーから手に入れた「全権委任状」という無制限のパワーを使って、巨額の運用益を稼ぎだすと同時に・・・ニューヨークやパームビーチの邸宅で「マッサージ」を名目に少女たちを呼び込む手口を定着させた(p30)
・2007年9月、(マイアミ連邦検事)アコスタは被害者や担当捜査官に一切知らせず、エプスタイン側と不起訴合意(NPA)を締結した(p61)
▼引用は、この本からです

Amazon.co.jpで詳細を見る
小林 雅一 (著)、宝島社
【私の評価】★★★★☆(87点)
目次
プロローグ エプスタイン事件から浮かび上がる「裏の現代史」
第一章 エプスタインの奇怪な双六人生
第二章 歪んだエプスタイン・ネットワークの構築
第三章 エプスタイン文書で社会的に葬られた世界の権力者たち
第四章 何かと物議を醸す2人の大物政治家とエプスタインの関係
第五章 エプスタイン文書に登場する日本人―性犯罪を防止するためになすべきこと
エピローグ 謝辞と参考文献に代えて
著者経歴
小林 雅一(こばやし まさかず)・・・1963年、群馬県生まれ。作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科・修士課程を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学。ニューヨークで新聞社勤務、帰国後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。
思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
![]()























コメントする