【書評】「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本」唐鎌大輔
2025/12/27公開 更新
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【私の評価】★★☆☆☆(66点)
要約と感想レビュー
著者は悪い円安の信奉者
著者は、みずほ銀行のマーケット・エコノミストです。2024年3月からは財務省「国際収支に関する懇談会」の委員になっているので、財務省の主張を代弁するポジションと理解してよいのでしょう。
財務省「国際収支に関する懇談会」では、貿易収支の構造的赤字化が円安の要因ではないか検証し、処方箋を考えるものだという。円安は主に日米金利差やマネーの供給量によって決まると考えられており、弱い円はアベノミクスなどの量的緩和によるもので、想定内のことです。
アベノミクスでは、円安とは輸出企業の業績を上げのプラス面と、輸入材の価格上昇のマイナス面を考慮するとプラスが多いと考えています。一方、筆者は「円安は万能の処方箋ではない。海外への所得流出を招き、実質賃金も下がる」と主張しています。
つまり銀行としては、量的緩和で利子収入が減って困っており、「悪い円安」を証明して、早く量的緩和をやめてもらいたいのでしょう。円安は悪い→量的緩和は悪いという流れを狙っているのです。財務省も銀行のポジションを支援していると考えられます。
2024年3月、財務省には神田財務官の下、国際収支構造の変化を議論する有識者会合が立ち上がっている・・日米金利差の動向は、特にドル円相場の「方向感」を見定める上で引き続き重要な論点ではある。だが・・・東京外国為替市場の需給環境にどのような変化が起きているかを丁寧に分析する姿勢も改めて重要になっている(p329)
日米金利差で説明できない円安
為替相場がどのように決まるのか、いくつかの指標がありますが、最も参考となるのは購買力平価(PPP: Purchasing Power Parity)です。
ところが、2023年12月時点のドル円相場の実勢相場は141円程度なのに、消費者物価ベースPPPは108円程度、企業物価ベースPPPは91円程度、輸出物価ベースPPPは61円程度なのです。
本来は1ドル100円以下でもおかしくないのに、1ドル140円もの円安になっているのです。為替レートは市場で決まるので、なぜそのような差があるのか著者もわからないのです。
最終的には1ドルが100円以下に下がるのか、はたまた日本のインフレによって購買力平価が上がるのか、どうなるのでしょうか。
「デフレ通貨は上昇して当然」という前提が崩れつつある事実・・「修正されるのは実勢相場ではなくPPPではないか」という目線を筆者は持つようにしている(p226)
日本の国際収支
まず著者は異常な円安の原因を、日本の国際収支に誘導したいようです。日本の国際収支を見ていきましょう。
日本の2023年の経常収支は21兆円の黒字で、主な要因は第一次所得(海外への投資から得られる配当金や利子収入)収支の黒字が35兆円であり、日本は物を売って外貨を稼ぐより、過去の投資の配当によって外貨を稼くようになったと説明します。
加工貿易体制から日本が卒業しつつある状況が読み取れると評価していますが、財務省と日銀が金融緩和をせずに円高を放置したために工場が海外に移転したからなのです。
国際収支全体は黒字でも、赤字なのは「通信・コンピューター・情報サービス」で1兆6149億円の赤字。「研究開発サービス(特許権、実用新案権、意匠権)」も1兆6779億円の赤字で、GAFAMなどIT企業へのサービス料や外資系コンサルティング企業による外貨の支払いが増えていくことを予想しています。
また、新NISAなどで海外投資が拡大しており、2024年1月分の対外証券投資全体では3兆4266億円の買い越しで、海外への資金流出が拡大しており、円安要因の一つの可能性もあります。
経常収支が黒字ということは、買うより売るほうが多いので、ドルが余り円に換えると円高になるはずです。それが円安になっていますので、著者の仮説は、キャッシュフローベースの経常収支が赤字になっているのではないかというものです。
例えば、海外の工場で稼いだお金が海外に内部留保され、円に換金されていない可能性があるのです。著者の試算したキャッシュフローベース経常収支を見ると、2013年や2014年が赤字で円が対ドルで10%以上下落しており、2022年も同じくらい赤字なので円安になっていると考えられるというのです。
2022年に記録した約20兆円という史上最大の貿易収支赤字が対ドルで30%以上という円相場の暴落を主導した疑いは強い(p7)
異常な円安は国際収支なのか
異常な円安の要因を検討し、キャッシュフローベース経常収支の赤字の可能性を示しましたが、残念ながら、量的緩和をやめる理由を見つけることはできなかったようです。
アベノミクスによりやっと円安になり、日本経済も上向きになり、円安で輸入物価が上がりデフレを脱却し、賃金・物価が上がろうとしているのに、それを阻止したいのでしょうが、残念でした。
今後も財務省「国際収支に関する懇談会」の動きは注視していきましょう。唐鎌さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・スイスも人口減少経済だが、貿易収支黒字を維持・拡大できている例として挙げられる。これは時計や薬といった付加価値が高い財に注力した結果であり、その上で鉱物性燃料輸入が日韓に比べて少ないという特徴もある(p87)
・アイルランドは法人税率の低さを通じてグローバル企業を集積しており、そのアプローチは国際的に物議を醸してきた。しかし、それだけではなく、欧州では珍しく公用語が英語であること、教育水準が高いことなども世界的な大企業がグローバル本社を構えたり、欧州本社を構えたりする理由として挙げられている(p110)
▼引用は、この本からです

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【私の評価】★★☆☆☆(66点)
目次
第1章 「新時代の赤字」の正体
第2章 「仮面の黒字国」の実情
第3章 資産運用立国の不都合な真実
第4章 購買力平価(PPP)はなぜ使えなくなったのか
第5章 日本にできることはないのか―円圧を活かすカード
著者経歴
唐鎌大輔(からかま だいすけ)・・・みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト。2004年慶大経卒、JETRO(日本貿易振興機構)、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局などを経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。財務省「国際収支に関する懇談会」委員(2024年3月~)。
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